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珍しく涼が声を荒らげた。
それは、その事実を涼こそが絶対に認めるつもりがないと主張していて。
頑固モノの涼が、自分が好きなのは間違いなく恵那だという主張を、絶対に曲げる気なんてないのがわかるから。
「涼」
「えなだよ。僕が、好きなのは」
ついに、涼の目から涙が零れ落ちた。
その涙のイミが、わからない。
でも。
「あーごめんごめん。涼、俺が悪かった。疑ってごめんな?」
泣かせるつもりなんてなかったから、すぐに謝って涼を抱きしめる。
「ごめんって。涼、泣くなー」
よしよし、と頭を撫でて。
涼が“えなが好き”と言って泣くから、そんなのもう、これ以上ツッコむなんてできないわけで。
参ったなー、と思う。
泣きたいのは、こっちなんだけど?
これは恐らく、本人絶対に認めないけれど、多分涼は自分ではなく土岐に惹かれていて。
そんなの……だから、こっちが泣きたい事実で。
恵那としてはもう、心の中をブリザードが吹き荒れているというのに。
何故か。このしくしくと泣いている可愛い恋人を、責められないでいる。
だって、涼本人が“好き”という感情を恵那にしか認めないのだ。
何故かはわからないけれど、本心では土岐へと向かっているのだろう感情を、絶対に認めるつもりが、ない。
認めない以上、それを問い質すということは、そのまま恵那が涼の気持ちを疑っているという事実に繋がるから。
すん、すん、と。告白してくれた時と同じように鼻を啜っている涼の、背中をそっと撫でる。
「涼。このまま、ココで寝たことにして、今日はウチ泊まるか?」
キリエと顔を合わせるのは気まずいだろうと恵那がそう言うと。
「んーん、大丈夫。……もーちょっとだけ、こうしてて」
恵那の腕の中にいたい、と。涼がその身を預けて来るから。
「わかった」と、そっと抱きしめる。
涼を、好きだと思う。
その感情も、告白してくれた最初の時は恋愛感情だなんて思ってなかった。
でもこうしてずっと傍にいて、笑ったり拗ねたり怒ってみたり。そんな表情を見せて自分にだけ甘えてくれる涼はあまりにも愛しくて。
今は、完全にこいつに惚れてる、と思う。
それに惚れてるからこそ、耐えられた。
キスだけでそれ以上を求める気持ちをなんとか抑えて。いつだって一番傍で見守って、抱きしめて。
総てを受け止めたいから。
だって。
この存在が“自分だけのもの”という事実さえあれば、何も怖くなんてないのだ。
かけがえのない存在。
涼が、自分にとってそんな大事なものだから。
手放したくなんて、ない。
このまま涼が意地を張り続けてこの腕の中にいてくれるのならば。
無理して土岐への気持ちなんて明確化しなくて、いい。
泣きながら否定しているんだから。それならいっそのこと、このまま自分だけの涼でいてくれればいい。
そう。
涼が、涼こそがこのまま自分の傍にいることを望んでいるのだ。
ならばこのまま、涼の一番の親友として、“恋人”のフリをしているのはきっと、ベストな状態なハズだから。
「涼……」
小さく名前を呼んで、ぎゅっと抱きしめて。
本当はキスだってしたいけれど、それはとりあえず今は我慢する。
好きだと伝えようとしたら。
ぐうー、なんてお腹が鳴った。
瞬間、涼がぷ、と吹き出してくれて。
「あは。ごめん。そう言えば御飯、まだだったね」
こんなシリアスな状況でも、当たり前にお腹がすく自分が情けないというか、カッコつかねーと思うけど。
「御飯食べに、行こ」
涼が涙を拭いて笑ってくれたから。
「えな、大好き」
部屋を出ようとしたら、涼がそう言って頬にキスをくれた。
☆☆☆
「だからー、ホルンの一年生で何度も勝手にサボってるコがいるんだよ。なんか、それ思い出して」
リビングに戻ると、キリエが「涼ちゃんごめんなさい」なんて頭を下げたから、慌てて涼も謝って。
「日向?」
「石村くんはいつも甲斐くんと熊谷くんと三人で来てるじゃん。じゃなくて、初心者のコ」
恵那は既に一年生は殆どファーストネームの呼び捨てだけれど、涼は誰に対しても丁寧に呼んでいる。
「でね、初心者だからコンクールは出ないけど、でもだからってサボるのはダメじゃん? だから、なんだかなーって思ってて。きーちゃんは初心者じゃないし、少しくらいサボってもいいかもしんないけどさ、先輩たち、困っちゃうんじゃないかって思ったら、ちょっと……ムカついたの」
だから、半分八つ当たりしてごめん、と涼がキリエに頭を下げた。
どうやらキリエのことは響たちがちゃんとフォローして、涼が怒るのも無理ないよって話をしていたらしく。
「ごめんね。雰囲気、悪くしちゃったから、えなにも怒られちゃった」
泣き顔になっているのなんてバレバレだから、ちょっとだけ恵那を悪者にする。それは暗黙の了解。
「キリも、反省した。コンクール前に、サボるのは良くないの、涼ちゃんの言う通りだし」
「バスケの試合はこれからも何回だって観る機会はあると思うから。落ち着いたら、涼と一緒に応援に来ればいい」
土岐が涼とキリエ二人に向かって優しく微笑んだ。
二人の想いには、何も気付かないまま。
それは、その事実を涼こそが絶対に認めるつもりがないと主張していて。
頑固モノの涼が、自分が好きなのは間違いなく恵那だという主張を、絶対に曲げる気なんてないのがわかるから。
「涼」
「えなだよ。僕が、好きなのは」
ついに、涼の目から涙が零れ落ちた。
その涙のイミが、わからない。
でも。
「あーごめんごめん。涼、俺が悪かった。疑ってごめんな?」
泣かせるつもりなんてなかったから、すぐに謝って涼を抱きしめる。
「ごめんって。涼、泣くなー」
よしよし、と頭を撫でて。
涼が“えなが好き”と言って泣くから、そんなのもう、これ以上ツッコむなんてできないわけで。
参ったなー、と思う。
泣きたいのは、こっちなんだけど?
これは恐らく、本人絶対に認めないけれど、多分涼は自分ではなく土岐に惹かれていて。
そんなの……だから、こっちが泣きたい事実で。
恵那としてはもう、心の中をブリザードが吹き荒れているというのに。
何故か。このしくしくと泣いている可愛い恋人を、責められないでいる。
だって、涼本人が“好き”という感情を恵那にしか認めないのだ。
何故かはわからないけれど、本心では土岐へと向かっているのだろう感情を、絶対に認めるつもりが、ない。
認めない以上、それを問い質すということは、そのまま恵那が涼の気持ちを疑っているという事実に繋がるから。
すん、すん、と。告白してくれた時と同じように鼻を啜っている涼の、背中をそっと撫でる。
「涼。このまま、ココで寝たことにして、今日はウチ泊まるか?」
キリエと顔を合わせるのは気まずいだろうと恵那がそう言うと。
「んーん、大丈夫。……もーちょっとだけ、こうしてて」
恵那の腕の中にいたい、と。涼がその身を預けて来るから。
「わかった」と、そっと抱きしめる。
涼を、好きだと思う。
その感情も、告白してくれた最初の時は恋愛感情だなんて思ってなかった。
でもこうしてずっと傍にいて、笑ったり拗ねたり怒ってみたり。そんな表情を見せて自分にだけ甘えてくれる涼はあまりにも愛しくて。
今は、完全にこいつに惚れてる、と思う。
それに惚れてるからこそ、耐えられた。
キスだけでそれ以上を求める気持ちをなんとか抑えて。いつだって一番傍で見守って、抱きしめて。
総てを受け止めたいから。
だって。
この存在が“自分だけのもの”という事実さえあれば、何も怖くなんてないのだ。
かけがえのない存在。
涼が、自分にとってそんな大事なものだから。
手放したくなんて、ない。
このまま涼が意地を張り続けてこの腕の中にいてくれるのならば。
無理して土岐への気持ちなんて明確化しなくて、いい。
泣きながら否定しているんだから。それならいっそのこと、このまま自分だけの涼でいてくれればいい。
そう。
涼が、涼こそがこのまま自分の傍にいることを望んでいるのだ。
ならばこのまま、涼の一番の親友として、“恋人”のフリをしているのはきっと、ベストな状態なハズだから。
「涼……」
小さく名前を呼んで、ぎゅっと抱きしめて。
本当はキスだってしたいけれど、それはとりあえず今は我慢する。
好きだと伝えようとしたら。
ぐうー、なんてお腹が鳴った。
瞬間、涼がぷ、と吹き出してくれて。
「あは。ごめん。そう言えば御飯、まだだったね」
こんなシリアスな状況でも、当たり前にお腹がすく自分が情けないというか、カッコつかねーと思うけど。
「御飯食べに、行こ」
涼が涙を拭いて笑ってくれたから。
「えな、大好き」
部屋を出ようとしたら、涼がそう言って頬にキスをくれた。
☆☆☆
「だからー、ホルンの一年生で何度も勝手にサボってるコがいるんだよ。なんか、それ思い出して」
リビングに戻ると、キリエが「涼ちゃんごめんなさい」なんて頭を下げたから、慌てて涼も謝って。
「日向?」
「石村くんはいつも甲斐くんと熊谷くんと三人で来てるじゃん。じゃなくて、初心者のコ」
恵那は既に一年生は殆どファーストネームの呼び捨てだけれど、涼は誰に対しても丁寧に呼んでいる。
「でね、初心者だからコンクールは出ないけど、でもだからってサボるのはダメじゃん? だから、なんだかなーって思ってて。きーちゃんは初心者じゃないし、少しくらいサボってもいいかもしんないけどさ、先輩たち、困っちゃうんじゃないかって思ったら、ちょっと……ムカついたの」
だから、半分八つ当たりしてごめん、と涼がキリエに頭を下げた。
どうやらキリエのことは響たちがちゃんとフォローして、涼が怒るのも無理ないよって話をしていたらしく。
「ごめんね。雰囲気、悪くしちゃったから、えなにも怒られちゃった」
泣き顔になっているのなんてバレバレだから、ちょっとだけ恵那を悪者にする。それは暗黙の了解。
「キリも、反省した。コンクール前に、サボるのは良くないの、涼ちゃんの言う通りだし」
「バスケの試合はこれからも何回だって観る機会はあると思うから。落ち着いたら、涼と一緒に応援に来ればいい」
土岐が涼とキリエ二人に向かって優しく微笑んだ。
二人の想いには、何も気付かないまま。
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