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12 敵なのか味方なのか
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ハサミを片付ける余裕もなく、中庭の入り口にふたりの少年が現れた。髪の毛が金と赤だから、日が当たるとキラキラ光って花火のようにまぶしい。これが本当の光り物か。
「よ、ようこそ、お越しくださいました……。ガイゼル侯爵が娘、ルシーフェルと申します」
「急に訪ねてしまって申し訳ない。お茶会を開いていると聞いて、挨拶をしようかと思ったんだ。こちらはグレイ公爵家の令息、カイラー。僕つきの騎士だよ」
「どうも、ルシーフェル嬢。急にお邪魔しちゃってスンマセン」
赤髪の少年は真っ白な歯を見せてニカッと笑った。少年マンガに出てきそうな顔で、問題児っぽいけど不思議と憎めない印象を受ける。見た目はキラキラしてるのに腹黒そうな王太子とは真逆なタイプだ。
挨拶をしにきたなんて嘘を、誰が信じるだろう。
ふたりとも攻略対象だったはずだし、ここは慎重に動かないと。
「どうぞお掛けくださいませ。いまお茶を用意しておりますので」
「ではお言葉に甘えて。あれ? 不思議なハサミが置いてあるね。ずい分と小さいな」
――ハッ!
しまった、隠すの忘れてた……!
「お、オホホ。これはちょっと、秘密の品で……」
「なにを切る道具なのかな。教えてもらえないか?」
王太子は優しげに言うが、奴の目はまったく笑っていない。視線がぐさっと刺さりそうだ。こっわぁ。
私は仕方なく、ふたりの前に二種類のハサミと眉毛用コームを出した。
「これは眉毛を切るためのハサミなんです。先が鋭利な方は細かい調節ができ、丸い方はお口のヒゲを切ったりもできます。小さな櫛は眉毛専用で、毛をとかしながら切るとうまく整うのです。私の侍女――エマの眉毛のように」
エマはまたガバッとおでこを出した。ありがとう、エマ。報酬たっぷり出すからね。
王太子とカイラーは二種類のハサミを手に取り、首をかしげながら何か言っている。「アンキじゃないじゃん」だの、「だから言っただろ」だの。なんの話か分かりません。
ハサミをテーブルの上に戻した王太子は、私を見ながら不思議そうに呟いた。
「変だな。僕はいま16歳だけど、生まれてから一度も眉毛を切ったことはないよ」
――なっ、なにィ!? そんな馬鹿な……!
「い、一度も? 本当の、本当に、切ったことがありませんの?」
「ないよ。カイラーはどうだ?」
「俺もない。顔の毛なんて、いじる必要ねーじゃん」
私は王太子とカイラーの眉を食い入るように見つめた。確かに手を入れた様子はなく、自然でしかも美しい眉毛だ。私の後ろでエマが「くっ」と苦しそうな声を出している。分かるわ、エマ。あなたの気持ちが。
なんてひどい毛の格差社会だ!
この様子だと多分、鼻毛も切った事ないんだろうな。
「そう言うきみはどうなんだ?」
「へっ? え、何ですか?」
「よく見ると不思議な眉をしているけど、切ったのか?」
「切ってませんよ。私は生まれつき眉毛が薄いので、自分で書いて…………ああっ!!」
「うわっ、なんだよ急に大声だして。ビックリするじゃん」
「す、すみません。重要なことを思い出しまして」
へらへら笑いながら紅茶を飲む。しかし頭の中はかなり混乱していた。
そういえば私、いちども鼻毛を切ったことがない。日本人だった頃は当然ながらケアしてたけど、14年も伸ばしっ放しなんてどう考えてもおかしくない?
ま、まさか――眉毛や鼻毛が伸びるのは、脇役だけなのか!?
二種類の毛が伸びることが、モブの証!?
「くっ……! なんて厳しい世界なの!」
「今度はひとり言をいってるぜ。変わった令嬢だな」
「こら、カイラー。失礼なことを言うなよ。これぐらい可愛いものだろ」
「そりゃ女からモテモテの殿下からしたら、珍しいタイプで可愛いのかもしんねーけどさ。こんな令嬢、初めて見たぜ」
その時、風に乗って遠くから「あねうえ~」という声が聞こえてきた。セラフィスだ。私の耳は弟に対してかなり敏感になっており、小さな声でも聞き取れる。
「セラ? 私はここよ!」
「姉上~、一緒にブランコ乗ろうよ! あれ? お客さまは帰ったんじゃなかったの?」
私は椅子から立ち、セラに客人の正体を教えてあげた。王太子だと知ったセラは目を丸くし、「セラフィスです」とぎこちなく可愛い挨拶をする。
「かっわいい弟じゃん! よっしゃ、俺と一緒にその……ぶらぶら?に乗ろうぜ!」
「ぶらぶらじゃなくて、ブランコです。私がご案内いたし……」
「ほら坊主、俺が肩車してやるよ。道案内は頼むぜ!」
「ひゃあ! たか~い、すご~い!」
カイラーはセラを肩車し、「先いってるぜ~」なんて言いながら走り去ってしまった。6歳児を軽々と肩に乗せるとか普通じゃない。お父さまと同じ、筋肉で解決タイプかな。
「せ、セラ…………」
知らないお兄ちゃんと楽しげに話すセラを見てたら、なんだかつらい気分になってきた。しょんぼりする私の肩を王太子がポンとたたく。
「僕もそのブランコという物を見てみたいな。案内してくれるんだろう?」
「……はあ。どうぞ、こちらです……」
どうでもいいけど、あまり馴れなれしく肩にさわらないで欲しい。相手が王太子だから我慢するけどさぁ。ゲームを見てた時から「たらしっぽいな」と思ってたが、まさか本当にそうだとは。
「よ、ようこそ、お越しくださいました……。ガイゼル侯爵が娘、ルシーフェルと申します」
「急に訪ねてしまって申し訳ない。お茶会を開いていると聞いて、挨拶をしようかと思ったんだ。こちらはグレイ公爵家の令息、カイラー。僕つきの騎士だよ」
「どうも、ルシーフェル嬢。急にお邪魔しちゃってスンマセン」
赤髪の少年は真っ白な歯を見せてニカッと笑った。少年マンガに出てきそうな顔で、問題児っぽいけど不思議と憎めない印象を受ける。見た目はキラキラしてるのに腹黒そうな王太子とは真逆なタイプだ。
挨拶をしにきたなんて嘘を、誰が信じるだろう。
ふたりとも攻略対象だったはずだし、ここは慎重に動かないと。
「どうぞお掛けくださいませ。いまお茶を用意しておりますので」
「ではお言葉に甘えて。あれ? 不思議なハサミが置いてあるね。ずい分と小さいな」
――ハッ!
しまった、隠すの忘れてた……!
「お、オホホ。これはちょっと、秘密の品で……」
「なにを切る道具なのかな。教えてもらえないか?」
王太子は優しげに言うが、奴の目はまったく笑っていない。視線がぐさっと刺さりそうだ。こっわぁ。
私は仕方なく、ふたりの前に二種類のハサミと眉毛用コームを出した。
「これは眉毛を切るためのハサミなんです。先が鋭利な方は細かい調節ができ、丸い方はお口のヒゲを切ったりもできます。小さな櫛は眉毛専用で、毛をとかしながら切るとうまく整うのです。私の侍女――エマの眉毛のように」
エマはまたガバッとおでこを出した。ありがとう、エマ。報酬たっぷり出すからね。
王太子とカイラーは二種類のハサミを手に取り、首をかしげながら何か言っている。「アンキじゃないじゃん」だの、「だから言っただろ」だの。なんの話か分かりません。
ハサミをテーブルの上に戻した王太子は、私を見ながら不思議そうに呟いた。
「変だな。僕はいま16歳だけど、生まれてから一度も眉毛を切ったことはないよ」
――なっ、なにィ!? そんな馬鹿な……!
「い、一度も? 本当の、本当に、切ったことがありませんの?」
「ないよ。カイラーはどうだ?」
「俺もない。顔の毛なんて、いじる必要ねーじゃん」
私は王太子とカイラーの眉を食い入るように見つめた。確かに手を入れた様子はなく、自然でしかも美しい眉毛だ。私の後ろでエマが「くっ」と苦しそうな声を出している。分かるわ、エマ。あなたの気持ちが。
なんてひどい毛の格差社会だ!
この様子だと多分、鼻毛も切った事ないんだろうな。
「そう言うきみはどうなんだ?」
「へっ? え、何ですか?」
「よく見ると不思議な眉をしているけど、切ったのか?」
「切ってませんよ。私は生まれつき眉毛が薄いので、自分で書いて…………ああっ!!」
「うわっ、なんだよ急に大声だして。ビックリするじゃん」
「す、すみません。重要なことを思い出しまして」
へらへら笑いながら紅茶を飲む。しかし頭の中はかなり混乱していた。
そういえば私、いちども鼻毛を切ったことがない。日本人だった頃は当然ながらケアしてたけど、14年も伸ばしっ放しなんてどう考えてもおかしくない?
ま、まさか――眉毛や鼻毛が伸びるのは、脇役だけなのか!?
二種類の毛が伸びることが、モブの証!?
「くっ……! なんて厳しい世界なの!」
「今度はひとり言をいってるぜ。変わった令嬢だな」
「こら、カイラー。失礼なことを言うなよ。これぐらい可愛いものだろ」
「そりゃ女からモテモテの殿下からしたら、珍しいタイプで可愛いのかもしんねーけどさ。こんな令嬢、初めて見たぜ」
その時、風に乗って遠くから「あねうえ~」という声が聞こえてきた。セラフィスだ。私の耳は弟に対してかなり敏感になっており、小さな声でも聞き取れる。
「セラ? 私はここよ!」
「姉上~、一緒にブランコ乗ろうよ! あれ? お客さまは帰ったんじゃなかったの?」
私は椅子から立ち、セラに客人の正体を教えてあげた。王太子だと知ったセラは目を丸くし、「セラフィスです」とぎこちなく可愛い挨拶をする。
「かっわいい弟じゃん! よっしゃ、俺と一緒にその……ぶらぶら?に乗ろうぜ!」
「ぶらぶらじゃなくて、ブランコです。私がご案内いたし……」
「ほら坊主、俺が肩車してやるよ。道案内は頼むぜ!」
「ひゃあ! たか~い、すご~い!」
カイラーはセラを肩車し、「先いってるぜ~」なんて言いながら走り去ってしまった。6歳児を軽々と肩に乗せるとか普通じゃない。お父さまと同じ、筋肉で解決タイプかな。
「せ、セラ…………」
知らないお兄ちゃんと楽しげに話すセラを見てたら、なんだかつらい気分になってきた。しょんぼりする私の肩を王太子がポンとたたく。
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「……はあ。どうぞ、こちらです……」
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