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第一部 そのモフモフは無自覚に世界を救う?
26 ハル様は毒舌家
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「そうです。俺は三年前の事故を起こしたのは、エリック殿下の一味だと考えています。俺の父は当時、王都に魔法技術が集中するのは好ましくないと考え、地方都市に分散させようとしていました。ワイアット殿下もご存知でしょう」
「もちろん覚えているとも。魔法院に所属する魔法士たちを地方都市に分散させようとしたが、エリック達の派閥に邪魔されてうまく行かなかった。富を独占したい奴らはいつの時代にもいるものだ。三年前の事故には不審な点も多かったが、やはりそなたはエリックが――弟がそなたの父を疎み、事故に見せかけて殺したと思っているのだな」
ワイアット殿下が話している間、ハル様の顔はずっと強張ったままだった。怒りを押し隠しているような表情が少し怖い。
(ハル様は昨日の夜、お父さんが事故で亡くなったと言ってたけど……ただの事故じゃなかったんだ。夜は普通に話してたのに……)
私を怖がらせないように、穏やかな顔で話してくれたのかもしれない。本当は腹が煮えくり返るぐらい怒っていたのだ。
「俺は三年前からずっとエリック殿下を疑っています。崖から落ちた馬の体には、何かが刺さったような不審な傷がありました。でも矢は見つからなかったのですから、魔法による傷と考えて間違いありません。そう考えて調査を続けて来ましたが、三年たっても黒幕が分からないなんて明らかにおかしいでしょう」
「……そなたの言いたいことは分かった。つまり、強い権力を持つ誰かが真相を隠していると考えたわけだな? しかも三公の一人たるハルディアの目をかいくぐるとなると、相手はかなり絞られる。父上か私か……エリックぐらいになってしまうであろうな」
「ワイアット殿下にとっては辛い話だと思います。異母兄弟を疑うことになるわけですから……。でも現状のままエリック殿下を野放しにしておけば、この国は間違いなく廃れます。富はずっと王都に集中し、貧しくなった地方都市はいずれ他国に飲み込まれるでしょう。どこの国だって、領土を広げたいという野望を抱えているはずです」
「う、うぅむ……」
ハル様の容赦ない言葉に、ワイアット殿下は眉間にシワを寄せて悩んでいる。かなり長い事うんうんと唸っていたが、しばらくして「分かった!」と大きな声を出した。顔だけじゃなくて声もデカい。
「私も覚悟を決めよう。いつまでもエリックに気を使ってる場合ではないな。弟よりも国の方が大事だ! その雛を連れて、ガーデンへ行ってみよう」
「ああ……。あいつらまた飲み食いしてるんですか」
「お、おい……。弟の前では、あいつら呼びをするんじゃないぞ?」
「分かってますよ。あいつらの前では口にしません。じゃあ行きましょうか」
「普通に言いそうではないか。不安だ……。あ、おい! 私を置いて行くな!」
さっさと歩き出したハル様の後ろから、ワイアット殿下が慌てて追いかけてくる。殿下は身長こそハル様と同じぐらいだけど、脚の長さに決定的な差があってしんどそうだ。
涼しい顔で大股歩きするハル様と、ひいひい言いながら小走りするワイアット殿下。見てたら悲しい気持ちになるのは何故なのか。あの人、本当に王子さまなんだよね?
廊下の端にあった螺旋階段を登っていくと、上の方から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。いや、楽しそうというより……酔っ払いが何か言ってる感じだ。夜の繁華街ってあんな雰囲気なんだろうか。
「ったく、昼間から酒盛りとは……。税金の使い道を間違えている。天誅を下してやりたい」
「ハルディア、シィーッ! 心の声が口から漏れてるぞ」
額を汗でギラつかせながらワイアット殿下が叫ぶ。グルグルと階段を登っているうちにやっと出口が見えてきて、殿下はホッとした表情だ。
「ペエ?」
(あれ? お庭だったんだ。外に出るとは思ってなかった)
階段を登った先は庭になっていて、東屋のような建物があった。でも私が見たことのある東屋とは比較にならないほど大きな建物だ。三十人ぐらいは入れそうな広さ。
日よけの屋根からは水のシャワーが落ち、壁の役目を果たしている。とてもお金が掛かっていそうなお庭だ。
「もちろん覚えているとも。魔法院に所属する魔法士たちを地方都市に分散させようとしたが、エリック達の派閥に邪魔されてうまく行かなかった。富を独占したい奴らはいつの時代にもいるものだ。三年前の事故には不審な点も多かったが、やはりそなたはエリックが――弟がそなたの父を疎み、事故に見せかけて殺したと思っているのだな」
ワイアット殿下が話している間、ハル様の顔はずっと強張ったままだった。怒りを押し隠しているような表情が少し怖い。
(ハル様は昨日の夜、お父さんが事故で亡くなったと言ってたけど……ただの事故じゃなかったんだ。夜は普通に話してたのに……)
私を怖がらせないように、穏やかな顔で話してくれたのかもしれない。本当は腹が煮えくり返るぐらい怒っていたのだ。
「俺は三年前からずっとエリック殿下を疑っています。崖から落ちた馬の体には、何かが刺さったような不審な傷がありました。でも矢は見つからなかったのですから、魔法による傷と考えて間違いありません。そう考えて調査を続けて来ましたが、三年たっても黒幕が分からないなんて明らかにおかしいでしょう」
「……そなたの言いたいことは分かった。つまり、強い権力を持つ誰かが真相を隠していると考えたわけだな? しかも三公の一人たるハルディアの目をかいくぐるとなると、相手はかなり絞られる。父上か私か……エリックぐらいになってしまうであろうな」
「ワイアット殿下にとっては辛い話だと思います。異母兄弟を疑うことになるわけですから……。でも現状のままエリック殿下を野放しにしておけば、この国は間違いなく廃れます。富はずっと王都に集中し、貧しくなった地方都市はいずれ他国に飲み込まれるでしょう。どこの国だって、領土を広げたいという野望を抱えているはずです」
「う、うぅむ……」
ハル様の容赦ない言葉に、ワイアット殿下は眉間にシワを寄せて悩んでいる。かなり長い事うんうんと唸っていたが、しばらくして「分かった!」と大きな声を出した。顔だけじゃなくて声もデカい。
「私も覚悟を決めよう。いつまでもエリックに気を使ってる場合ではないな。弟よりも国の方が大事だ! その雛を連れて、ガーデンへ行ってみよう」
「ああ……。あいつらまた飲み食いしてるんですか」
「お、おい……。弟の前では、あいつら呼びをするんじゃないぞ?」
「分かってますよ。あいつらの前では口にしません。じゃあ行きましょうか」
「普通に言いそうではないか。不安だ……。あ、おい! 私を置いて行くな!」
さっさと歩き出したハル様の後ろから、ワイアット殿下が慌てて追いかけてくる。殿下は身長こそハル様と同じぐらいだけど、脚の長さに決定的な差があってしんどそうだ。
涼しい顔で大股歩きするハル様と、ひいひい言いながら小走りするワイアット殿下。見てたら悲しい気持ちになるのは何故なのか。あの人、本当に王子さまなんだよね?
廊下の端にあった螺旋階段を登っていくと、上の方から楽しそうな笑い声が聞こえてくる。いや、楽しそうというより……酔っ払いが何か言ってる感じだ。夜の繁華街ってあんな雰囲気なんだろうか。
「ったく、昼間から酒盛りとは……。税金の使い道を間違えている。天誅を下してやりたい」
「ハルディア、シィーッ! 心の声が口から漏れてるぞ」
額を汗でギラつかせながらワイアット殿下が叫ぶ。グルグルと階段を登っているうちにやっと出口が見えてきて、殿下はホッとした表情だ。
「ペエ?」
(あれ? お庭だったんだ。外に出るとは思ってなかった)
階段を登った先は庭になっていて、東屋のような建物があった。でも私が見たことのある東屋とは比較にならないほど大きな建物だ。三十人ぐらいは入れそうな広さ。
日よけの屋根からは水のシャワーが落ち、壁の役目を果たしている。とてもお金が掛かっていそうなお庭だ。
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