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第4部 越谷アパセティックタウン
第56話
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「オレ、病院は苦手なんだよね」
「なんでだ?」
「注射が嫌だから」
「はは。好きなやついないだろ」
「それがさ、この街の人は注射が大好きなんだよね」
「ぁ? どういうことだ」
「なんか『チケン』っていうのをやってるらしくて。まだ途中らしいけど、半年くらい通って注射を打ち続けたら一生働かなくてよくなるとか聞いたけど」
「なんかヤバそうな話だな」
病院は、湖畔にあった。
建物は二階建てであり、さほど大きくはない。地方にある総合病院というよりも、少し大きなクリニックという印象である。電気は全部ではないものの、ついてはいるようだ。
ハヤテは褐色少年に対し気をつけて家に帰るよう伝えると、防犯システムを慎重に確認した。
ワタルと一緒ではないのでソフトウェア的な解除は無理。罠的な防犯装置がないかだけ確認し、アラートについては鳴り響くことを覚悟で正面から中に入った。
「……?」
なぜか鍵がかかっていない。ハヤテの着用している黒色と赤色の特殊戦闘ボディスーツは、足部のつま先部分はガラスを蹴破れるように硬くなっているのだが、その必要はなかった。
「……!?」
さらには、アラートも鳴らない。
夕方遭遇した獣機とのやり取りでは、どうも病院自体が獣機に乗っ取られている、もしくは獣機が常態的に職員として入り込んでいる可能性が高い。そのため、そもそもアラートの必要性がない、またはアラートがないほうが都合がよいということかもしれない。
広い待合室は、さすがに照明がついていない。慎重に進む。
(誰もいないな)
そんなはずはないのだが、誰もいない。
さほど広くないこともあり、一階も二階も探索は終わってしまった。
ワタルが運び込まれたという話であるが、どこにもいない。
一度戻るか、と待合室に向かう。気は抜かず、音を立てないように、慎重に。
「……!」
待合室に着こうというときに、何やら足音を感じた。
特殊戦闘ボディスーツのヘルメット部分には、探索用に微細な音も拾えるような集音機能が付いており、ちょうどオンにしていたことが幸いした。
ハヤテはサッと待合室の物陰に身を隠し、出入り口を見つめた。
(獣機……!)
入ってきたのは、一体の人型獣機だった。メタル肌をした量産型の人型獣機である。
その個体は、待合室の奥に進み、受付カウンターの中に進んだ。
そして、沈み込み、消えた。
(……!?)
後続が来ないことを確認し、ハヤテも受付カウンターの奥へと行く。
大きな床下収納のフタがあるというのは先ほど見てはいたが、中までは調べていなかった。近くにそれらしきボタンを発見し、それを押すと、静かにそれが開いた。
(地下階があったのか)
現れたのは下へとのびる階段だった。
ハヤテは降りていった。
通路は、夜明け前ということを忘れるくらい、まばゆい光に満ちていた。
この先に獣機の拠点があるとして、彼らは人間とは違いここまで明るくなくても普段どおりに活動はできるはず。
不気味な違和感があり、ハヤテは緊張しつつ進む。
「……」
広い病室らしき部屋があった。
そこに置かれている二十四台のそれらがすべてベッドだとすれば、ああ広い病室か、という感想で済んでいただろう。
だがそれらは普通のベッドではなく、すべて大型のカプセルであった。そして中には……
人が仰向けで入っていた。
見える限りでは目をつむっている。
「お前は死んだと聞いていたが。どうなっている」
「――!」
奥の扉から、無機質な声とともに、三体の人型獣機が姿を現した。
左右は量産型だった。見かけが同じであるため、街で遭った個体と先ほど出入り口で見かけた個体のどっちがどっちなのは不明だ。
中央は……ハヤテもおそらくここにいるのだろうと思っていた。獣機幹部・リックスである。
「まあいい。殺れ」
その声とともに、二体の量産型人型獣機が、腕から刃を生やしながらハヤテへと襲いかかる。
「……っ」
一体から放たれた横薙ぎをかわす。その大きな振りの勢いは、ハヤテの近くにあったカプセルのガラスを割り、派手な音を立てた。
もう一体から振り下ろされた刀は電子警棒で受ける。
銃撃や砲撃で攻撃してこない理由。ワタルがついていなくても、なんとかハヤテにも察知できた。湖底ゆえに建物に振動を与えないようにしているのだろう。
飛び道具での攻撃がないのは戦いやすかった。ハヤテは斬撃やムチの攻撃をかわしながら、見計らった隙にまずは一体の量産型人型獣機の頸部にスタンガンを差し込んだ。
「ガアアア――」
機能停止した獣機が倒れ、またカプセルが割れてガラスが飛び散る。
褐色少年の家で気絶していた間に体力が回復していたハヤテは、次の一体にも素早い動きで距離を詰め、また頸部にスタンガンを差し込んだ。
「グアアア――」
地の利もあり、あっという間に二体の量産型獣機を片付けたハヤテは、部屋の奥にいる獣機幹部を見据えた。
リックスは固有武器・雷神の槌ではなく、刀を構えていた。
「あとはお前だけだ! いくぜ!」
ハヤテは突進した。
刀と、電子警棒がぶつかった。
「なんでだ?」
「注射が嫌だから」
「はは。好きなやついないだろ」
「それがさ、この街の人は注射が大好きなんだよね」
「ぁ? どういうことだ」
「なんか『チケン』っていうのをやってるらしくて。まだ途中らしいけど、半年くらい通って注射を打ち続けたら一生働かなくてよくなるとか聞いたけど」
「なんかヤバそうな話だな」
病院は、湖畔にあった。
建物は二階建てであり、さほど大きくはない。地方にある総合病院というよりも、少し大きなクリニックという印象である。電気は全部ではないものの、ついてはいるようだ。
ハヤテは褐色少年に対し気をつけて家に帰るよう伝えると、防犯システムを慎重に確認した。
ワタルと一緒ではないのでソフトウェア的な解除は無理。罠的な防犯装置がないかだけ確認し、アラートについては鳴り響くことを覚悟で正面から中に入った。
「……?」
なぜか鍵がかかっていない。ハヤテの着用している黒色と赤色の特殊戦闘ボディスーツは、足部のつま先部分はガラスを蹴破れるように硬くなっているのだが、その必要はなかった。
「……!?」
さらには、アラートも鳴らない。
夕方遭遇した獣機とのやり取りでは、どうも病院自体が獣機に乗っ取られている、もしくは獣機が常態的に職員として入り込んでいる可能性が高い。そのため、そもそもアラートの必要性がない、またはアラートがないほうが都合がよいということかもしれない。
広い待合室は、さすがに照明がついていない。慎重に進む。
(誰もいないな)
そんなはずはないのだが、誰もいない。
さほど広くないこともあり、一階も二階も探索は終わってしまった。
ワタルが運び込まれたという話であるが、どこにもいない。
一度戻るか、と待合室に向かう。気は抜かず、音を立てないように、慎重に。
「……!」
待合室に着こうというときに、何やら足音を感じた。
特殊戦闘ボディスーツのヘルメット部分には、探索用に微細な音も拾えるような集音機能が付いており、ちょうどオンにしていたことが幸いした。
ハヤテはサッと待合室の物陰に身を隠し、出入り口を見つめた。
(獣機……!)
入ってきたのは、一体の人型獣機だった。メタル肌をした量産型の人型獣機である。
その個体は、待合室の奥に進み、受付カウンターの中に進んだ。
そして、沈み込み、消えた。
(……!?)
後続が来ないことを確認し、ハヤテも受付カウンターの奥へと行く。
大きな床下収納のフタがあるというのは先ほど見てはいたが、中までは調べていなかった。近くにそれらしきボタンを発見し、それを押すと、静かにそれが開いた。
(地下階があったのか)
現れたのは下へとのびる階段だった。
ハヤテは降りていった。
通路は、夜明け前ということを忘れるくらい、まばゆい光に満ちていた。
この先に獣機の拠点があるとして、彼らは人間とは違いここまで明るくなくても普段どおりに活動はできるはず。
不気味な違和感があり、ハヤテは緊張しつつ進む。
「……」
広い病室らしき部屋があった。
そこに置かれている二十四台のそれらがすべてベッドだとすれば、ああ広い病室か、という感想で済んでいただろう。
だがそれらは普通のベッドではなく、すべて大型のカプセルであった。そして中には……
人が仰向けで入っていた。
見える限りでは目をつむっている。
「お前は死んだと聞いていたが。どうなっている」
「――!」
奥の扉から、無機質な声とともに、三体の人型獣機が姿を現した。
左右は量産型だった。見かけが同じであるため、街で遭った個体と先ほど出入り口で見かけた個体のどっちがどっちなのは不明だ。
中央は……ハヤテもおそらくここにいるのだろうと思っていた。獣機幹部・リックスである。
「まあいい。殺れ」
その声とともに、二体の量産型人型獣機が、腕から刃を生やしながらハヤテへと襲いかかる。
「……っ」
一体から放たれた横薙ぎをかわす。その大きな振りの勢いは、ハヤテの近くにあったカプセルのガラスを割り、派手な音を立てた。
もう一体から振り下ろされた刀は電子警棒で受ける。
銃撃や砲撃で攻撃してこない理由。ワタルがついていなくても、なんとかハヤテにも察知できた。湖底ゆえに建物に振動を与えないようにしているのだろう。
飛び道具での攻撃がないのは戦いやすかった。ハヤテは斬撃やムチの攻撃をかわしながら、見計らった隙にまずは一体の量産型人型獣機の頸部にスタンガンを差し込んだ。
「ガアアア――」
機能停止した獣機が倒れ、またカプセルが割れてガラスが飛び散る。
褐色少年の家で気絶していた間に体力が回復していたハヤテは、次の一体にも素早い動きで距離を詰め、また頸部にスタンガンを差し込んだ。
「グアアア――」
地の利もあり、あっという間に二体の量産型獣機を片付けたハヤテは、部屋の奥にいる獣機幹部を見据えた。
リックスは固有武器・雷神の槌ではなく、刀を構えていた。
「あとはお前だけだ! いくぜ!」
ハヤテは突進した。
刀と、電子警棒がぶつかった。
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