宵待ちビストロ Lumière(ルミエール)~送信できなかった想いが、夜を照らす

中岡 始

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今さら、何を言うんだよ

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湊は静かにドアを閉めた。

廊下にはひんやりとした夜の空気が漂っている。

理仁の部屋の中にあった、ほんのりとした温もりが、今になって妙に恋しく思えた。

「……今さら、何を言うんだよ」

小さく呟いた声が、自分の耳に虚しく響く。

***

「俺、お前に何か言わなきゃいけなかったんじゃないか」

理仁のその言葉が、頭の中に何度も反響していた。

思いがけない言葉だった。

いや、本当はずっと聞きたかった言葉だったのかもしれない。

あの時、理仁が何を考えていたのか。

湊がどんな気持ちで、あの卒業の日を迎えたのか。

それを言葉にすることなく、ただ別々の道を歩き出してしまった。

だからこそ、今さらそんなことを言われても、どうすればいいのか分からなかった。

***

湊は、ゆっくりとエレベーターのボタンを押した。

ドアが開き、中に乗り込む。

鏡張りの壁に映る自分の顔を見て、ふっと目を伏せた。

「今さら、何を言うんだよ」

自分に言い聞かせるように、もう一度呟く。

15年前の気持ちを伝えるには、あまりにも時間が経ちすぎている。

それでも、あの言葉が胸の奥に引っかかっているのは、なぜなのか。

エレベーターが静かに降下していく間、湊は目を閉じたまま、ゆっくりと息をついた。

この気持ちが消えるのは、もう少し先になりそうだった。
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