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景色が違って見える?
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朝の空気は、ひんやりとしていて気持ちがいい。
陽向は、手をポケットに突っ込みながら家を出た。
いつもの登校ルート。見慣れた通学路。
昨日と変わらないはずの景色が、なぜか今日は少し違って見える。
(……なんだろ、これ)
車の走る音、遠くの電車のガタンゴトンという響き、どこからか漂ってくるパン屋の甘い匂い。
今までなんとなく聞き流していたものが、やけに鮮明に感じられた。
── 昨日、『走れメロス』を読んだからか?
メロスが走った道にも、こんな風に風が吹いていたんだろうか。
あの夜空の下で、どんな音を聞いていたんだろう。
(……いやいや、そんなわけないだろ)
陽向はすぐに頭を振った。
本の影響で世界が違って見えるなんて、そんなバカな話があるか。
── ドスッ。
「……っ!?」
突然、背中に重みがかかった。
「え、何!?」
驚いて振り向くと、リュックの上に何かが乗っている。
── いや、何かじゃない。
「貴様が歩くのが遅いからだ」
「……お前かよ!!!!」
リュックの上に、堂々と鎮座するキジトラの猫──トラ老師。
毛並みをなびかせながら、まるで高級なソファの上に座っているかのような貫禄で、陽向の肩越しから景色を見下ろしていた。
「いや、なんでお前、朝からここにいるんだよ!!」
「俺の自由だ」
「自由って、お前……」
陽向は呆れたようにため息をついた。
── いや、待てよ。もっと重要な問題がある。
「そもそも猫って、学校行っていいのか!?」
「問題ない。俺はお前の家庭教師だからな」
「だからって通学するな!!」
陽向は慌ててトラ老師を振り落とそうとするが、猫は意外としっかり踏ん張っていて落ちない。
リュックの上でバランスを取りながら、のんびりと喉を鳴らしている。
「それにしても、お前……今日は妙に周りをよく見ているな」
「は?」
「さっきから、景色をじっと見ているだろう?」
言われて、陽向は一瞬動きを止めた。
たしかに、今朝は普段よりも風の匂いや音に敏感だった。
まるで、初めてこの道を歩いているみたいな感覚。
「……別に、たまたまだろ」
「そうか?」
トラ老師は、意味深な目で陽向を見つめる。
「読書というのは、時に世界の見え方を変えるものだ」
「……は?」
「ほら、そこを曲がった先の景色が、いつもと違う気がしないか?」
「……?」
陽向は、言われた通り道の先を見る。
そこには、ただの十字路があるだけ。
……いや、でも、なんだろう。
いつもより光が眩しく見える。
地面に落ちる影の形、ビルの隙間から覗く空の青さ。
どれも変わらないはずなのに、昨日までとは違うように感じる。
「……いや、気のせいだろ」
「フン、まあいい」
トラ老師はしなやかに背伸びをすると、軽やかにリュックから飛び降りた。
そして、ぴたりと陽向の前に立つと、ゆったりとした口調で言った。
「お前は、すでに『新しい世界』を手に入れつつあるのだ」
「……なにが?」
「それが、読書の魔法よ」
トラ老師はドヤ顔で胸を張る。
陽向は、その顔をじっと見つめたあと、思いっきりツッコミを入れた。
「いや、そのタイミングで毛づくろいすんなよ!!」
トラ老師は、のんびりと前足を舐めながら言う。
「まあ、じきに気づくさ」
「……なんなんだよ、こいつ……」
陽向は眉間に皺を寄せながら、猫の背中を追うように歩き出した。
でも、どこかで思っていた。
── もし本当に、読書で世界の見え方が変わるなら……。
ちょっとくらい、試してみてもいいかもしれない。
陽向は、手をポケットに突っ込みながら家を出た。
いつもの登校ルート。見慣れた通学路。
昨日と変わらないはずの景色が、なぜか今日は少し違って見える。
(……なんだろ、これ)
車の走る音、遠くの電車のガタンゴトンという響き、どこからか漂ってくるパン屋の甘い匂い。
今までなんとなく聞き流していたものが、やけに鮮明に感じられた。
── 昨日、『走れメロス』を読んだからか?
メロスが走った道にも、こんな風に風が吹いていたんだろうか。
あの夜空の下で、どんな音を聞いていたんだろう。
(……いやいや、そんなわけないだろ)
陽向はすぐに頭を振った。
本の影響で世界が違って見えるなんて、そんなバカな話があるか。
── ドスッ。
「……っ!?」
突然、背中に重みがかかった。
「え、何!?」
驚いて振り向くと、リュックの上に何かが乗っている。
── いや、何かじゃない。
「貴様が歩くのが遅いからだ」
「……お前かよ!!!!」
リュックの上に、堂々と鎮座するキジトラの猫──トラ老師。
毛並みをなびかせながら、まるで高級なソファの上に座っているかのような貫禄で、陽向の肩越しから景色を見下ろしていた。
「いや、なんでお前、朝からここにいるんだよ!!」
「俺の自由だ」
「自由って、お前……」
陽向は呆れたようにため息をついた。
── いや、待てよ。もっと重要な問題がある。
「そもそも猫って、学校行っていいのか!?」
「問題ない。俺はお前の家庭教師だからな」
「だからって通学するな!!」
陽向は慌ててトラ老師を振り落とそうとするが、猫は意外としっかり踏ん張っていて落ちない。
リュックの上でバランスを取りながら、のんびりと喉を鳴らしている。
「それにしても、お前……今日は妙に周りをよく見ているな」
「は?」
「さっきから、景色をじっと見ているだろう?」
言われて、陽向は一瞬動きを止めた。
たしかに、今朝は普段よりも風の匂いや音に敏感だった。
まるで、初めてこの道を歩いているみたいな感覚。
「……別に、たまたまだろ」
「そうか?」
トラ老師は、意味深な目で陽向を見つめる。
「読書というのは、時に世界の見え方を変えるものだ」
「……は?」
「ほら、そこを曲がった先の景色が、いつもと違う気がしないか?」
「……?」
陽向は、言われた通り道の先を見る。
そこには、ただの十字路があるだけ。
……いや、でも、なんだろう。
いつもより光が眩しく見える。
地面に落ちる影の形、ビルの隙間から覗く空の青さ。
どれも変わらないはずなのに、昨日までとは違うように感じる。
「……いや、気のせいだろ」
「フン、まあいい」
トラ老師はしなやかに背伸びをすると、軽やかにリュックから飛び降りた。
そして、ぴたりと陽向の前に立つと、ゆったりとした口調で言った。
「お前は、すでに『新しい世界』を手に入れつつあるのだ」
「……なにが?」
「それが、読書の魔法よ」
トラ老師はドヤ顔で胸を張る。
陽向は、その顔をじっと見つめたあと、思いっきりツッコミを入れた。
「いや、そのタイミングで毛づくろいすんなよ!!」
トラ老師は、のんびりと前足を舐めながら言う。
「まあ、じきに気づくさ」
「……なんなんだよ、こいつ……」
陽向は眉間に皺を寄せながら、猫の背中を追うように歩き出した。
でも、どこかで思っていた。
── もし本当に、読書で世界の見え方が変わるなら……。
ちょっとくらい、試してみてもいいかもしれない。
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