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次に何を読めばいい?
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陽向は、ふと気づいた。
最近、なんとなく読書が習慣になっている。
スマホをいじる時間が減ったわけではないが、ベッドに寝転がると自然と本を開くことが多くなった。
最初はトラ老師に無理やり読まされたものの、気づけば本を読むこと自体には抵抗がなくなっている。
「……なんか、俺、普通に本読んでるな」
つぶやいて、自分で少し驚く。
でも、そこで一つの問題にぶつかった。
「次に何を読めばいいんだ?」
最近は、トラ老師に渡された本や、学校で読んだものを読んでいた。
でも、今は手元に「読むべき本」がない。
次は、自分で本を選ばなければならない。
それが、思ったより難しく感じた。
陽向は、部屋の隅にある本棚の前に立った。
と言っても、陽向の本棚にはほとんど本がない。
あるのは、小さい頃に買ってもらった絵本や、親が適当に置いた自己啓発書、 そして、たまに読んでいた漫画の単行本くらいだった。
「うーん……これは違うな」
パラパラとめくってみても、どれも今の自分の気分に合わない。
なんというか、「今、これを読みたい!」と思える本がない。
(こういう時、どうすればいいんだ……?)
少しもどかしさを感じながら、ふと後ろを振り返る。
── その瞬間。
陽向の視界に、いつの間にか本棚の上に鎮座しているトラ老師の姿が飛び込んできた。
「……って、お前、いつの間にそこに!?」
驚いて声を上げるが、トラ老師はまるで当然のような顔をしている。
細長い瞳で陽向を見下ろし、尻尾をゆったりと揺らした。
「フン……本棚の上というのは、実に居心地がいい」
「いや、そこ俺の本棚なんだけど」
「何か問題が?」
「あるに決まってんだろ!!」
陽向がツッコむと、トラ老師はふっと目を細めた。
「貴様、何を読めばいいのかわからなくなったのだろう?」
「……まあな」
少し悔しいが、否定はできなかった。
トラ老師は前足で軽く耳をかいたあと、静かに言った。
「読むべき本は、時に本の方からお前を呼ぶものだ」
「……は?」
陽向は眉をひそめる。
「本が俺を呼ぶ……? いやいや、意味わかんねぇし」
「フン……」
トラ老師は、それ以上何も言わず、ゆっくりと目を閉じた。
「おい、寝るなよ!」
「別に寝てはいない」
「いや、どう見てもくつろいでるだろ!」
陽向は腕を組みながら、本棚の上で目を閉じたまま微動だにしない猫を見つめる。
「お前、本当にそれで説明したつもり?」
「俺はもう言った。あとはお前が気づくことだ」
「……何それ、意味深な感じ出してんじゃねぇよ」
まったく、相変わらずこの猫は適当なことばかり言う。
「本が俺を呼ぶ? そんなことあるわけ……」
陽向は小さくつぶやいた。
でも──
どこか、その言葉が頭に引っかかっていた。
その日の夜。
陽向は、スマホをいじりながらも、ふと机の上に置いてある本に目を向けた。
(……なんか、本を探しに行きたい気がする)
自分の本棚には、読みたい本がない。
でも、どこかに「今の自分が読みたい本」がある気がする。
もしかして、それが「本が俺を呼ぶ」ってことなのか……?
「……いやいや、そんなわけねぇか」
陽向は首を振る。
だが、その胸の中には、「何かを探しに行きたい」という気持ちが確かに生まれていた。
翌日、学校の帰り道。
陽向は、普段ならまっすぐ家に帰るところを、なぜかコンビニの前で足を止めた。
何かを買うつもりはなかった。
でも、なぜかふと立ち寄りたくなった。
(別に、特に目的があるわけじゃないけど……)
適当に店内をぶらついていると、レジの横にある小さな文庫本コーナーが目に入った。
「あれ……こんなとこに、本売ってたっけ?」
今まで何度もこのコンビニに来ていたはずなのに、この棚の存在を意識したことはなかった。
まるで、それが突然現れたかのような不思議な感覚。
── 読むべき本は、時に本の方からお前を呼ぶものだ。
トラ老師の言葉が、頭の中でリフレインする。
「……まさかな」
そう思いながらも、陽向は無意識のうちに手を伸ばしていた。
表紙をめくる。
タイトルを見た瞬間、なぜか『読んでみたい』と思った。
「……これ、なんか気になるな」
── そう思った時、陽向は、また背後に気配を感じた。
「フン……ほう、お前も少しはわかってきたな」
「って、なんでお前ここにいるんだよ!!!」
振り向くと、トラ老師が当然のような顔でコンビニの雑誌コーナーの上に座っていた。
「お前、猫なんだから店の中入っちゃダメだろ!!!」
「誰が決めた?」
「法律だ!!!」
陽向のツッコミが響く中、トラ老師は得意げに尻尾を揺らした。
最近、なんとなく読書が習慣になっている。
スマホをいじる時間が減ったわけではないが、ベッドに寝転がると自然と本を開くことが多くなった。
最初はトラ老師に無理やり読まされたものの、気づけば本を読むこと自体には抵抗がなくなっている。
「……なんか、俺、普通に本読んでるな」
つぶやいて、自分で少し驚く。
でも、そこで一つの問題にぶつかった。
「次に何を読めばいいんだ?」
最近は、トラ老師に渡された本や、学校で読んだものを読んでいた。
でも、今は手元に「読むべき本」がない。
次は、自分で本を選ばなければならない。
それが、思ったより難しく感じた。
陽向は、部屋の隅にある本棚の前に立った。
と言っても、陽向の本棚にはほとんど本がない。
あるのは、小さい頃に買ってもらった絵本や、親が適当に置いた自己啓発書、 そして、たまに読んでいた漫画の単行本くらいだった。
「うーん……これは違うな」
パラパラとめくってみても、どれも今の自分の気分に合わない。
なんというか、「今、これを読みたい!」と思える本がない。
(こういう時、どうすればいいんだ……?)
少しもどかしさを感じながら、ふと後ろを振り返る。
── その瞬間。
陽向の視界に、いつの間にか本棚の上に鎮座しているトラ老師の姿が飛び込んできた。
「……って、お前、いつの間にそこに!?」
驚いて声を上げるが、トラ老師はまるで当然のような顔をしている。
細長い瞳で陽向を見下ろし、尻尾をゆったりと揺らした。
「フン……本棚の上というのは、実に居心地がいい」
「いや、そこ俺の本棚なんだけど」
「何か問題が?」
「あるに決まってんだろ!!」
陽向がツッコむと、トラ老師はふっと目を細めた。
「貴様、何を読めばいいのかわからなくなったのだろう?」
「……まあな」
少し悔しいが、否定はできなかった。
トラ老師は前足で軽く耳をかいたあと、静かに言った。
「読むべき本は、時に本の方からお前を呼ぶものだ」
「……は?」
陽向は眉をひそめる。
「本が俺を呼ぶ……? いやいや、意味わかんねぇし」
「フン……」
トラ老師は、それ以上何も言わず、ゆっくりと目を閉じた。
「おい、寝るなよ!」
「別に寝てはいない」
「いや、どう見てもくつろいでるだろ!」
陽向は腕を組みながら、本棚の上で目を閉じたまま微動だにしない猫を見つめる。
「お前、本当にそれで説明したつもり?」
「俺はもう言った。あとはお前が気づくことだ」
「……何それ、意味深な感じ出してんじゃねぇよ」
まったく、相変わらずこの猫は適当なことばかり言う。
「本が俺を呼ぶ? そんなことあるわけ……」
陽向は小さくつぶやいた。
でも──
どこか、その言葉が頭に引っかかっていた。
その日の夜。
陽向は、スマホをいじりながらも、ふと机の上に置いてある本に目を向けた。
(……なんか、本を探しに行きたい気がする)
自分の本棚には、読みたい本がない。
でも、どこかに「今の自分が読みたい本」がある気がする。
もしかして、それが「本が俺を呼ぶ」ってことなのか……?
「……いやいや、そんなわけねぇか」
陽向は首を振る。
だが、その胸の中には、「何かを探しに行きたい」という気持ちが確かに生まれていた。
翌日、学校の帰り道。
陽向は、普段ならまっすぐ家に帰るところを、なぜかコンビニの前で足を止めた。
何かを買うつもりはなかった。
でも、なぜかふと立ち寄りたくなった。
(別に、特に目的があるわけじゃないけど……)
適当に店内をぶらついていると、レジの横にある小さな文庫本コーナーが目に入った。
「あれ……こんなとこに、本売ってたっけ?」
今まで何度もこのコンビニに来ていたはずなのに、この棚の存在を意識したことはなかった。
まるで、それが突然現れたかのような不思議な感覚。
── 読むべき本は、時に本の方からお前を呼ぶものだ。
トラ老師の言葉が、頭の中でリフレインする。
「……まさかな」
そう思いながらも、陽向は無意識のうちに手を伸ばしていた。
表紙をめくる。
タイトルを見た瞬間、なぜか『読んでみたい』と思った。
「……これ、なんか気になるな」
── そう思った時、陽向は、また背後に気配を感じた。
「フン……ほう、お前も少しはわかってきたな」
「って、なんでお前ここにいるんだよ!!!」
振り向くと、トラ老師が当然のような顔でコンビニの雑誌コーナーの上に座っていた。
「お前、猫なんだから店の中入っちゃダメだろ!!!」
「誰が決めた?」
「法律だ!!!」
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