猫の先生は気まぐれに~あるいは、僕が本を読む理由

中岡 始

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読書とは旅のようなもの

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 陽向は机に肘をつきながら、手元の本を眺めた。  

 ついこの前まで、本を読むのはただの退屈しのぎか、学校の課題のための作業にすぎないと思っていた。  
 でも、今は違う。  

 どんな物語にも、そこにしかない世界があった。  
 登場人物の感じること、考えること、そのすべてが、自分とは違う誰かの視点を教えてくれる。  
 そんな体験を重ねるうちに、自然と次の物語を求めるようになっていた。  

 「本を読めば読むほど、もっといろんな話を知りたくなるんだな」  

 ふと、思ったことを口にすると、近くで丸くなっていたトラ老師の耳がピクリと動いた。  

 「フン…それが読書というものよ」  

 机の上に飛び乗ったトラ老師は、陽向の目の前に鎮座すると、尻尾をゆっくりと揺らした。  

 「読書とは旅のようなもの。どれだけ歩いても、終わりはない」  

 陽向は眉をひそめる。  

 「旅…?」  

 「そうだ。物語の中には、無限の世界が広がっている。お前が本を開くたびに、新しい土地を踏みしめ、新しい景色を目にするのだ」  

 トラ老師は、机の上に積まれた本のうちの一冊に、前足をチョンと乗せた。  

 「お前の旅路も、まだ始まったばかりだな」  

 その様子を見て、陽向は小さく笑う。  

 「なんかカッコつけたこと言ってるけど、ただの猫が言うと笑えるな」  

 「フン、貴様がそう思うのなら、それでもよかろう」  

 トラ老師は目を細めながら、ゆっくりと喉を鳴らした。  

 陽向は机に並べられた本の背表紙を指でなぞる。  
 ここにあるのは、まだほんの少しの旅の記録にすぎない。  
 この先には、もっと知らない世界が広がっているはずだ。  

 「終わりのない旅、ね…」  

 そう呟くと、トラ老師が満足げに鼻を鳴らした。  

 「そうだ。だからこそ、読む価値があるのだ」  

 陽向は本を一冊手に取り、表紙をじっと見つめた。  
 この先にどんな物語が待っているのか、それを考えるだけで、少し胸が高鳴る気がした。  
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