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イシュチェザール
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邸宅に足を踏み入れたアリシアを待っていたのは、大勢の使用人たちによる歓待だった。アリシアが今までの生涯で見てきた中で――父の客人として訪れていた中央に近い貴族の従者たちも含めて――最もよい仕立ての衣服に身を包んでいる。
ともすれば、サーカルクレ領の周辺にある小さな領邦の君主たちよりもよい暮らし向きなのではないかと思わせる服装だった。
使用人ですらその有り様である。
思わず固唾を飲むアリシア。そんな彼女に手を差し出すために歩み寄ろうとしたテオドールの足は、周りにいる従者たちに止められてしまった。
「――、何を、」
声を上げそうになったテオドールの耳元で、公爵家のメイドのひとりが囁く。
「お待ちください。あなたはもう、アリシア様の従者ではありません。いいえ、よりはっきり申し上げるなら、ただいまこの瞬間より、アリシア様は貴殿方のサーカルクレ領の姫君ではなく、我らのお仕えするシュヴァイツ公爵家の御方なのです。これより先、あなたがアリシア様に対してできることはございません」
恐らくこの公爵家に長く仕えているのだろう、見た目の年齢はテオドールよりも少し上……24,5歳程度に見えるが、そういった若さを感じさせない毅然とした態度ではっきりと告げた。
もう、アリシアとテオドールの間には、繋がりなどないのだと。
何故だろうか、覚悟などとうに定まっていたし、ここまでふたりの計画は極めて順調に進んでいるにも関わらず、テオドールの胸はひどくざわついた。
そして、とうとう現れたシュヴァイツ公爵の嫡子、イシュチェザール。
階段の上から年端もいかなさそうな少女をまるで犬か何かのように従えながら現れた青年は、有り体に言えば美男子と言えただろう。
白を基調とした旅装に身を包んだテオドールと向かい合うと、まさに白と黒で対になるかのような衣服と、日常生活に差し支えそうな大仰なマントを羽織り、自信のありそうなその顔立ちは、まさに貴公子かも知れなかった。
しかし、テオドールに見受けられるような優しさはあまり垣間見えず、傲然とした尊大さを感じさせる顔立ちをしていた。
イシュチェザールは、ゆっくりと、警戒心が滲み出てしまっている足取りで自分の前に現れたアリシアを興味深げに見つめ、「噂に違わぬ美貌だな」と微笑む。
「私はイシュチェザール・フォン・シュヴァイツ。今日この時より、貴女の夫となる。貴女の故郷であるサーカルクレ領は我がシュヴァイツ家の庇護を受けることとなる。その点に関してはご安心願いたい」
感情を見せない、しかしどこか欲を感じさせる声音で告げた。
ともすれば、サーカルクレ領の周辺にある小さな領邦の君主たちよりもよい暮らし向きなのではないかと思わせる服装だった。
使用人ですらその有り様である。
思わず固唾を飲むアリシア。そんな彼女に手を差し出すために歩み寄ろうとしたテオドールの足は、周りにいる従者たちに止められてしまった。
「――、何を、」
声を上げそうになったテオドールの耳元で、公爵家のメイドのひとりが囁く。
「お待ちください。あなたはもう、アリシア様の従者ではありません。いいえ、よりはっきり申し上げるなら、ただいまこの瞬間より、アリシア様は貴殿方のサーカルクレ領の姫君ではなく、我らのお仕えするシュヴァイツ公爵家の御方なのです。これより先、あなたがアリシア様に対してできることはございません」
恐らくこの公爵家に長く仕えているのだろう、見た目の年齢はテオドールよりも少し上……24,5歳程度に見えるが、そういった若さを感じさせない毅然とした態度ではっきりと告げた。
もう、アリシアとテオドールの間には、繋がりなどないのだと。
何故だろうか、覚悟などとうに定まっていたし、ここまでふたりの計画は極めて順調に進んでいるにも関わらず、テオドールの胸はひどくざわついた。
そして、とうとう現れたシュヴァイツ公爵の嫡子、イシュチェザール。
階段の上から年端もいかなさそうな少女をまるで犬か何かのように従えながら現れた青年は、有り体に言えば美男子と言えただろう。
白を基調とした旅装に身を包んだテオドールと向かい合うと、まさに白と黒で対になるかのような衣服と、日常生活に差し支えそうな大仰なマントを羽織り、自信のありそうなその顔立ちは、まさに貴公子かも知れなかった。
しかし、テオドールに見受けられるような優しさはあまり垣間見えず、傲然とした尊大さを感じさせる顔立ちをしていた。
イシュチェザールは、ゆっくりと、警戒心が滲み出てしまっている足取りで自分の前に現れたアリシアを興味深げに見つめ、「噂に違わぬ美貌だな」と微笑む。
「私はイシュチェザール・フォン・シュヴァイツ。今日この時より、貴女の夫となる。貴女の故郷であるサーカルクレ領は我がシュヴァイツ家の庇護を受けることとなる。その点に関してはご安心願いたい」
感情を見せない、しかしどこか欲を感じさせる声音で告げた。
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