17 / 86
第一章
弱小モンスターが大器晩成型なのは、育成ゲームではよくある話。――16
しおりを挟む
「勝負が終わってからケチをつけるなど、醜いとは思わないのか?」
「い、いえ、僕はただ、この男の不正を暴こうとしているだけですよ」
それまでの態度が嘘のように、カールが媚を売るような声音で、エリーゼ先輩に弁解する。
「ブラックスライムがサンダービーストに勝つなんてあり得ない。この男は神聖な決闘を汚したんです。ガブリエル先輩ならわかってくれるでしょう?」
まるで、権力者にゴマをする取りまきのようだ。
卑屈な態度をとるカールを、エリーゼ先輩が鋭い目付きで睨む。
「たしかに、きみと彼との戦いは汚されたようだ」
「その通りです! この落ちこぼれが卑しい不正を働いて――」
「きみの不正によってな、ヒルベストンくん」
得意げに俺を貶そうとしたカールが、笑みを凍らせた。
「きみはパワーレベリングを行った。そうだね?」
「な、なにを仰っているのかわかりませんね……そ、そもそも、証拠がどこに――」
「ほう? きみにパワーレベリングを強要されたと相談してきた生徒がいるのだが?」
「なっ! あ、あの男、平民のくせに……!」
「語るに落ちたな」
うっかり口を滑らせたカールに、エリーゼ先輩が溜め息をつく。
「きみを生徒指導室へ連れていかねばならない」
「ま、待ってください! 貴族の僕が、平民如きに負けていいはずがない! だから、パワーレベリングは適切な行為だったのです! 同じ貴族のあなたなら、わかっていただけますよね?」
「わからないな」
悪あがきするカールに、エリーゼ先輩がキッパリと言い切った。
「なんの努力もせず、他者のスネをかじることしかしない輩の考えなど、わかりたくもない」
エリーゼ先輩の眼差しは氷点下だ。
あからさまな嫌悪を向けられて、カールがガックリと項垂れる。
微塵の容赦もなくバッサリ切り捨てたな。見ていて気持ちいいほどだ。
ゲームに登場するエリーゼ・ガブリエルはストイックなキャラだったけど、この世界でも同じみたいだな。楽して強くなろうとしたカールへの反応に、彼女の性格が如実に表れている。
「災難だったな、マサラニアくん」
項垂れるカールを連行する途中、エリーゼ先輩が振り返り、俺を労る。
「いえ。難癖をつけられても、そのたびに払拭すればいいだけですし、大丈夫です」
「ははっ、きみは強いな」
「けど、エリーゼ先輩には助かりました。ありがとうございます」
俺が一礼すると、エリーゼ先輩は微笑みながら、「構わないよ」と手を振った。
次いでエリーゼ先輩は、俺の隣にいるレイシーに、優しげな目を向ける。
「レイシーは大丈夫かい?」
エリーゼ先輩の表情は穏やかで、レイシーへの親愛が感じられた。
そんなエリーゼ先輩の様子を、俺は不思議に思う。
エリーゼ先輩はゲームに登場するけれど、レイシーはそうじゃない。しかし、エリーゼ先輩のレイシーに対する態度からは、親密さがうかがえる。
エリーゼ先輩とレイシーは、親しい間柄なのか? そういう裏設定でもあったのだろうか?
疑問を抱きながら隣に目をやると、レイシーはエリーゼ先輩に、ス、とうやうやしく頭を下げた。
「気にかけていただきありがとうございます、ガブリエル先輩。わたしはこのとおり無事ですので、お気になさらず」
エリーゼ先輩とは正反対で、レイシーの態度は慇懃なものだった。丁寧すぎて、よそよそしくも感じる。
エリーゼ先輩は、頭を下げるレイシーを見て、どこか寂しそうな顔をした。
「……いや、先輩として当然のことをしたまでだよ、シルヴァンくん」
エリーゼ先輩は改めて前を向き、振り返ることなくカールを連れていった。
エリーゼ先輩を見送り、俺はレイシーに尋ねる。
「エリーゼ先輩と知り合いなのか?」
「ええ、ちょっとした知り合いです。そんなことより、ロッドくん、昔から戦い方の研究をしてきたということですが――」
わかりやすくレイシーが話を逸らす。
どうやら、エリーゼ先輩とレイシーの関係は、複雑なもののようだ。
レイシーの屈託のない笑顔を眺めながら、俺はそんな感想を抱いた。
「い、いえ、僕はただ、この男の不正を暴こうとしているだけですよ」
それまでの態度が嘘のように、カールが媚を売るような声音で、エリーゼ先輩に弁解する。
「ブラックスライムがサンダービーストに勝つなんてあり得ない。この男は神聖な決闘を汚したんです。ガブリエル先輩ならわかってくれるでしょう?」
まるで、権力者にゴマをする取りまきのようだ。
卑屈な態度をとるカールを、エリーゼ先輩が鋭い目付きで睨む。
「たしかに、きみと彼との戦いは汚されたようだ」
「その通りです! この落ちこぼれが卑しい不正を働いて――」
「きみの不正によってな、ヒルベストンくん」
得意げに俺を貶そうとしたカールが、笑みを凍らせた。
「きみはパワーレベリングを行った。そうだね?」
「な、なにを仰っているのかわかりませんね……そ、そもそも、証拠がどこに――」
「ほう? きみにパワーレベリングを強要されたと相談してきた生徒がいるのだが?」
「なっ! あ、あの男、平民のくせに……!」
「語るに落ちたな」
うっかり口を滑らせたカールに、エリーゼ先輩が溜め息をつく。
「きみを生徒指導室へ連れていかねばならない」
「ま、待ってください! 貴族の僕が、平民如きに負けていいはずがない! だから、パワーレベリングは適切な行為だったのです! 同じ貴族のあなたなら、わかっていただけますよね?」
「わからないな」
悪あがきするカールに、エリーゼ先輩がキッパリと言い切った。
「なんの努力もせず、他者のスネをかじることしかしない輩の考えなど、わかりたくもない」
エリーゼ先輩の眼差しは氷点下だ。
あからさまな嫌悪を向けられて、カールがガックリと項垂れる。
微塵の容赦もなくバッサリ切り捨てたな。見ていて気持ちいいほどだ。
ゲームに登場するエリーゼ・ガブリエルはストイックなキャラだったけど、この世界でも同じみたいだな。楽して強くなろうとしたカールへの反応に、彼女の性格が如実に表れている。
「災難だったな、マサラニアくん」
項垂れるカールを連行する途中、エリーゼ先輩が振り返り、俺を労る。
「いえ。難癖をつけられても、そのたびに払拭すればいいだけですし、大丈夫です」
「ははっ、きみは強いな」
「けど、エリーゼ先輩には助かりました。ありがとうございます」
俺が一礼すると、エリーゼ先輩は微笑みながら、「構わないよ」と手を振った。
次いでエリーゼ先輩は、俺の隣にいるレイシーに、優しげな目を向ける。
「レイシーは大丈夫かい?」
エリーゼ先輩の表情は穏やかで、レイシーへの親愛が感じられた。
そんなエリーゼ先輩の様子を、俺は不思議に思う。
エリーゼ先輩はゲームに登場するけれど、レイシーはそうじゃない。しかし、エリーゼ先輩のレイシーに対する態度からは、親密さがうかがえる。
エリーゼ先輩とレイシーは、親しい間柄なのか? そういう裏設定でもあったのだろうか?
疑問を抱きながら隣に目をやると、レイシーはエリーゼ先輩に、ス、とうやうやしく頭を下げた。
「気にかけていただきありがとうございます、ガブリエル先輩。わたしはこのとおり無事ですので、お気になさらず」
エリーゼ先輩とは正反対で、レイシーの態度は慇懃なものだった。丁寧すぎて、よそよそしくも感じる。
エリーゼ先輩は、頭を下げるレイシーを見て、どこか寂しそうな顔をした。
「……いや、先輩として当然のことをしたまでだよ、シルヴァンくん」
エリーゼ先輩は改めて前を向き、振り返ることなくカールを連れていった。
エリーゼ先輩を見送り、俺はレイシーに尋ねる。
「エリーゼ先輩と知り合いなのか?」
「ええ、ちょっとした知り合いです。そんなことより、ロッドくん、昔から戦い方の研究をしてきたということですが――」
わかりやすくレイシーが話を逸らす。
どうやら、エリーゼ先輩とレイシーの関係は、複雑なもののようだ。
レイシーの屈託のない笑顔を眺めながら、俺はそんな感想を抱いた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
1,091
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる