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第一章
エピローグ
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タイラントドラゴンを討伐した後日、俺とレイシーは、レイシーとふたりで行ったレストランで、エリーゼ先輩にご馳走してもらっていた。タイラントドラゴンの討伐に協力したことへのお礼らしい。
討伐されたタイラントドラゴンが蘇ることはない。ガブリエル家の親族が贄に捧げられることも、もうないだろう。
「しかし、本当によかったのか、マサラニアくん?」
パンケーキを頬張る俺に、エリーゼ先輩が訊いてくる。
咀嚼していたパンケーキを飲み込み、俺はエリーゼ先輩に尋ね返した。
「なにがっすか?」
「わたしが手柄をひとり占めしていることが、だ」
エリーゼ先輩が申し訳なさそうに眉を寝かせる。
俺たちは話し合い、『エリーゼ先輩が単独でタイラントドラゴンを討伐した』ことにした。エリーゼ先輩が言っているのはそのことだろう。
「いいんすよ、それが、一番角が立たないんですから」
タイラントドラゴンは代々、ガブリエル家の者が鎮めてきた。
そして今回、エリーゼ先輩は、『自分がタイラントドラゴンを討伐する』と宣言している。
ガブリエル家とエリーゼ先輩の体裁を保つには、エリーゼ先輩が倒したことにするのが最良だ。
「それに、こいつをもらったから充分っす」
俺は『不思議なバッグ』から1枚の紙を取り出す。
ガブリエル家が保有するダンジョンへの、入場許可書だ。
この許可書は、タイラントドラゴン討伐クエストのクリア報酬として受けとることができる。
そして、この許可書を使って入場できるダンジョンには、そこでしか手に入らないアイテムや、そこにしか出現しないモンスターが存在する。
ファイモンの世界を楽しみ尽くしたい俺にとって、喉から手が出るほどほしかったアイテムだ。
「しかし……」
「むしろ感謝したいくらいです。エリーゼ先輩が請け負ってくれて」
それでも曇った顔のエリーゼ先輩に、俺は明るく笑いかけた。
「タイラントドラゴンを倒したって知られたら、国に頼られるかもしれないじゃないっすか。そういうのご免なんすよ。俺は、自由気ままに過ごしたいんで」
ようやくブラック企業から解放されたのに、また上から仕事を頼まれては堪ったものじゃない。
俺はもう、誰にも縛られたくないんだ。
「エリーゼ先輩もレイシーも俺も、みんなハッピーで万々歳! それでいいじゃないっすか!」
「そうか……きみは、本当に面白いやつだな」
エリーゼ先輩の顔がほころぶ。
そんな俺たちを、レイシーが穏やかに眺めていた。
「た、ただ、マサラニアくん? もうひとつだけ、わたしからお礼がしたいのだが、いいだろうか?」
「構わないっすよ?」
エリーゼ先輩が頬を赤らめ、モジモジとしながら訊いてくる。
その挙動を不思議に思いつつ返事すると、「で、では……」と、どこか緊張した様子でエリーゼ先輩が身を乗り出し、
俺の頬に、キスをした。
「…………へ?」
突然の出来事に、俺の思考が停止する。
それまで柔らかく微笑んでいたレイシーが、ピキッと凍りついた。
呆然としていると、エリーゼ先輩が視線をさまよわせ、
「レ、レイシーのことを任せると言ったが、やっぱりなしだ」
いままで見たことのない、いじらしい表情で、エリーゼ先輩が上目遣いしながら俺にせがむ。
「わ、わたしにしてくれないか? ロッドくん」
その仕草があまりにも可愛らしくて、俺の顔が熱くなった。
「ちょ、ちょっと待ってください、姉さん! ロッドくんはわたしのですよ!」
「し、仕方がないではないか! こんな気持ちははじめてで、いても立ってもいられなかったのだ!」
「むむむむむぅ~~~~っ! エリーゼ姉さんのバカっ! もう話をしてあげません!」
「そ、そんな! 嫌いにならないでくれ、レイシー!」
プクゥっと頬を膨らませてそっぽを向くレイシー。
ふくれっ面のレイシーにオロオロするエリーゼ先輩。
なぜふたりがケンカしているのかも、エリーゼ先輩の、『わたしにしてくれないか?』発言の意味もわからない。
けれど、ふたりのあいだにあった壁がなくなったようで、俺は温かい気持ちになった。
改めて思う。
この世界に転生できて、本当によかったって。
討伐されたタイラントドラゴンが蘇ることはない。ガブリエル家の親族が贄に捧げられることも、もうないだろう。
「しかし、本当によかったのか、マサラニアくん?」
パンケーキを頬張る俺に、エリーゼ先輩が訊いてくる。
咀嚼していたパンケーキを飲み込み、俺はエリーゼ先輩に尋ね返した。
「なにがっすか?」
「わたしが手柄をひとり占めしていることが、だ」
エリーゼ先輩が申し訳なさそうに眉を寝かせる。
俺たちは話し合い、『エリーゼ先輩が単独でタイラントドラゴンを討伐した』ことにした。エリーゼ先輩が言っているのはそのことだろう。
「いいんすよ、それが、一番角が立たないんですから」
タイラントドラゴンは代々、ガブリエル家の者が鎮めてきた。
そして今回、エリーゼ先輩は、『自分がタイラントドラゴンを討伐する』と宣言している。
ガブリエル家とエリーゼ先輩の体裁を保つには、エリーゼ先輩が倒したことにするのが最良だ。
「それに、こいつをもらったから充分っす」
俺は『不思議なバッグ』から1枚の紙を取り出す。
ガブリエル家が保有するダンジョンへの、入場許可書だ。
この許可書は、タイラントドラゴン討伐クエストのクリア報酬として受けとることができる。
そして、この許可書を使って入場できるダンジョンには、そこでしか手に入らないアイテムや、そこにしか出現しないモンスターが存在する。
ファイモンの世界を楽しみ尽くしたい俺にとって、喉から手が出るほどほしかったアイテムだ。
「しかし……」
「むしろ感謝したいくらいです。エリーゼ先輩が請け負ってくれて」
それでも曇った顔のエリーゼ先輩に、俺は明るく笑いかけた。
「タイラントドラゴンを倒したって知られたら、国に頼られるかもしれないじゃないっすか。そういうのご免なんすよ。俺は、自由気ままに過ごしたいんで」
ようやくブラック企業から解放されたのに、また上から仕事を頼まれては堪ったものじゃない。
俺はもう、誰にも縛られたくないんだ。
「エリーゼ先輩もレイシーも俺も、みんなハッピーで万々歳! それでいいじゃないっすか!」
「そうか……きみは、本当に面白いやつだな」
エリーゼ先輩の顔がほころぶ。
そんな俺たちを、レイシーが穏やかに眺めていた。
「た、ただ、マサラニアくん? もうひとつだけ、わたしからお礼がしたいのだが、いいだろうか?」
「構わないっすよ?」
エリーゼ先輩が頬を赤らめ、モジモジとしながら訊いてくる。
その挙動を不思議に思いつつ返事すると、「で、では……」と、どこか緊張した様子でエリーゼ先輩が身を乗り出し、
俺の頬に、キスをした。
「…………へ?」
突然の出来事に、俺の思考が停止する。
それまで柔らかく微笑んでいたレイシーが、ピキッと凍りついた。
呆然としていると、エリーゼ先輩が視線をさまよわせ、
「レ、レイシーのことを任せると言ったが、やっぱりなしだ」
いままで見たことのない、いじらしい表情で、エリーゼ先輩が上目遣いしながら俺にせがむ。
「わ、わたしにしてくれないか? ロッドくん」
その仕草があまりにも可愛らしくて、俺の顔が熱くなった。
「ちょ、ちょっと待ってください、姉さん! ロッドくんはわたしのですよ!」
「し、仕方がないではないか! こんな気持ちははじめてで、いても立ってもいられなかったのだ!」
「むむむむむぅ~~~~っ! エリーゼ姉さんのバカっ! もう話をしてあげません!」
「そ、そんな! 嫌いにならないでくれ、レイシー!」
プクゥっと頬を膨らませてそっぽを向くレイシー。
ふくれっ面のレイシーにオロオロするエリーゼ先輩。
なぜふたりがケンカしているのかも、エリーゼ先輩の、『わたしにしてくれないか?』発言の意味もわからない。
けれど、ふたりのあいだにあった壁がなくなったようで、俺は温かい気持ちになった。
改めて思う。
この世界に転生できて、本当によかったって。
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