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第60話 敵に回した者

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メイラ達は脇目も振らず鍵の掛かっていない門を開けて雪崩れ込む。
すると目の前には中世ヨーロッパ風の貴族服を着た2人と、大きな白い犬が佇んでいた。

『帝国の皆さん。勝手に敷地内に入ってはいけませんよ。』

チェイスが恭しく一礼する。

メイラは焦りを露にして
『うるさい!あんたらには恨みはないけど私達の事を知ったからには死んで貰うわ!!』

デンバーはハヤト達と過ごし人間に対し好感を持ち始めていた。
しかし目の前にいる人間達は自分達の都合で簡単に命を奪うクズであった。

デンバーは身体を斜に構えメイラに指を指す。
『おい!クズ共!お前らの都合など知った事か!!
俺は世話になり、好感を持ったハヤト殿の為にお前らを排除する!!』
感情のまま拳を握り振り下ろす。

『チェイス!魔法使いを拘束しろ!屋敷を壊されては困る!』
チェイスは頷き【ダークバインド】で魔法使いの女3人の身体と口を拘束する。

デンバーは手をかざし男達を眷属にする。
男達はデンバーに跪く。

メイラは何が起こっているのか分からない。
『あんた達!!何やってるのよ!!早く殺しなさい!!どうなっているの!!』

メイラは目の前の男を睨む!
そして男の紅い目を見て気付く。
『人間じゃない・・・貴族風の出立ち・・
まさか・・・ヴァンパイア!!!』

『ご名答!我こそはヴァンパイアロード!
デンバー・スーラム!
ハヤト殿の盟友である!!』

メイラは膝を付く
『ヴ、ヴァンパイアロード・・・伝説の吸血鬼・・・こんな化け物まで仲間に・・・英雄ハヤト・・・敵に回しては駄目だった・・』

デンバーは眷属となった男達に命令する。
『女共を屋敷の外に連れ出せ!そして男の欲望をぶつけて殺せ!!
その後自分の首を刎ねて死ね!』

男達は女に襲い掛かる!眷属化の為ステータスが10倍に跳ね上がった男達になす術もない。
『いや!!やめてっ!!助けて!!私が悪かったわ!!いやーーっお願いぃぃー!!!』

メイラ達は遅すぎる命乞いを叫びながら男達に引きずられて行った。

『ふん、馬鹿な奴らだ。謝るぐらいなら最初から真面目に生きろ!!』


俺はギルドでお茶をしている。
『お、動いたな・・。1人残したか・・。』
『今から面倒事が起きるから騎士団長を呼んでおいてくれ!』

受け付け嬢に声を掛ける。
『は、はい!!分かりましたハヤト様!』

ギルドの扉が開き11名の男達が勢いよく入ってくる。
バインは俺を見つけると真っ直ぐ向かってくる。

『お前がアマクサハヤトだな!黙って付いてこい!拒否権は無い!抵抗すれば痛い目を見るぞ!!』
バインは一気に捲し立てる!

周りの冒険者は命知らずの集団に失笑する。

『おいおい、お前ら自殺志願者か?!謝るなら今のうちだぞー!あっはっはっは!』

『悪い事は言わないからやめとけよ!後の掃除が大変なんだよ!』

バインが叫ぶ!
『外野は煩いぞ!!レベル10のガキ1人にビビってる奴らは黙ってろ!!』

『ブァッハッハッハッ!!!みんな聞いたか?!英雄ハヤトがレベル10だってよーー!!!』
『ヒーッヒーッ!腹いてぇー!!アホかお前ら!!!』
『もう、何にも言わねぇからレベル10かどうか自分達の身体で試してみろよ!!』
冒険者達が大爆笑する。

俺は頭を掻きながらバインを見る。
『皆、そう言ってるがどうする?もちろん
お前らの申し出は断る。
これは警告だ!やめておいた方がいいぞ!』

『黙れ!!レベル10が偉そうにほざくな!!いいだろう!!お前ら連れ出せ!!』

掴み掛かろうした瞬間、部下達の両腕が宙に舞う!
【次元斬】なので血飛沫は出ない。

『なんだ!!何が起きた!腕が!腕が!』
『俺の腕が!腕が無い!!』
部下達は膝を付き呻いている。

『き、貴様何をした!!こ、こんな・・
馬鹿な!レベル10なのに・・・。』

俺はため息をつき、
『お前の仲間に鑑定士が居るんだろう?
残念だったな。俺はステータスを偽装して隠しているんだよ!』

そこへ鑑定士の女の子がギルドに入ってくる。
『バインさん!!無事ですか!!やっぱり駄目でs・・・』
鑑定士は目の前の光景に固まる。

バインは鑑定士を見つけると叫ぶ!

『おい!ニーナ!!こいつをもう一度鑑定しろ!!』
俺は偽装を解除する。

そしてニーナは震えながら膝を付き項垂れる。
『や、やっぱり・・・レベル2500の師匠・・・。』
『おい!どうなんだ!!ニーナ!!早く言え!!』

ニーナはバインを見据える
『よく聞いてください!!
目の前の人間はレベル4232!!
正真正銘の化け物です!!
レベル2500オーバーの師匠です!!
私達なんか道端の石ころ同然の存在です!』

ギルド全体がざわつく。
『マジか・・・ヤバすぎるだろ!』
『俺、この前気軽に声掛けちまったぞ!』
冒険者達が驚愕する。

『ば、馬鹿な!?レベル4232!?どうなってる?!何故そんな化け物がファイデルにいるんだ!!
俺達は一体何に喧嘩を売ってるんだ!!
この国は一体どうなっているんだ!!!』

バインはパニックになり拳で床を殴り続ける。
俺は立ち上がりバインに近づく。
『おい、バインと言ったか?まだやるか?
やると言うなら相手になるが?
これ以上向かってこないならファイデル王に裁かれる事になる。どうする?』

バインは冷静になり俺の顔を震えながら見る。
『お、俺達にもう戦意は無い。煮るなり焼くなり好きにしてくれ・・・』

『そうか分かった。もうすぐ騎士団長が来る。大人しく付いて行けよ。それと、
間違っても変な気を起こすなよ!
騎士団長達も俺の弟子だからな!』

バインの肩がビクッと震える。
あわよくばと思っていたバインの思惑が完全に粉砕された。

すると鑑定士のニーナが震えながら口を開く。
『な、なぜお姉ちゃんを、こ、殺したの?!
お、お姉ちゃんは人を傷付けるような人間じゃない!!鑑定士として仕方なく付いて来ただけなのに、、、、。』
床に手をついて涙を溢す。

『ニーナと言ったか?
お前達は俺達を攫いに来たんだろう!それに対して抵抗するのは当たり前だ!!
鑑定士として来て、弟子達の情報を盗んでいたんだろう!!
それでも罪は無いと言うのか?!』

ニーナは何も言えなかった。自分勝手な事を言ってしまった。
相手からすれば、私達は人攫いの仲間だ・・。
ニーナは涙を溢すしかなかった。

ニーナの姿を見て口調を和らげる。
『だが、俺達は鬼では無い。最初から戦意が無い者には手を出さない。
お前の姉の名前はセシルか?』

ニーナはびっくりしたように顔を上げる。
『そ、そうよ!セシル姉ちゃんよ!
もしかして!もしかして!生きてるの?!』

俺は微笑みながら
『あぁ、やっぱりそうか。セシルの面影がある。大丈夫だ、屋敷で保護しているよ。
食費が掛かって仕方ないぐらいだ。』

『ほ、本当に生きてるの?!
良かった・・・・。帝国では女子供も関係なく殺す鬼畜の殺人集団だと聞いていたから諦めていたのに・・・』

おいおい!帝国はどんな噂を流してくれるんだ!ふざけやがって!

『まあ、お前も戦意も無くこいつらを説得してたんだろ?
ファイデル王には俺から話しておくから屋敷に来たら良いよ。』

『本当?!いいの!?』
ニーナは目を輝かせる。

『あぁ、俺達は鬼では無いと言ったろう?
その代わり弟子達が返って来てからだ。』

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