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ep.07 嫌とは言えない
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月曜日の定例ミーティングは、美浜からの説明で始まった。
「からり晴れは、今年度中に生産が中止になる懸念がある。そのため、来年度以降の契約については保留にしたいと考えている」
ミーティングルーム内にさっと緊張が走った。
カタリとも物音がしないほどに、しんと静まり返る。
誰もが、衝撃を受けながらも、美浜の説明に集中して聞き入っている。
前もって聞いていたこともあり、俺は冷静に部屋全体を見渡せる位置に座って、成り行きを見つめていた。
「次に、販売数については、仲本の方から」
美浜はそう言って、仲本に引き継いで席に座った。
仲本は、配布していた資料のページを言い、一斉に紙をめくる音が響く。
資料には、これまでの経緯と共に、売上本数の推移、そこから見通せる今年度の販売可能数が記されている。
その数字を目で追っていると、隣でぽつりと吉田が言った。
「本当、だったんだな」
薄々予測はできていたのだろうが、美浜にきっぱりと言い渡されて実感が湧いたらしい。
俺はちらりと吉田を見てから、前に座る美浜を見た。
顔色は悪くないが、やはり疲れているように見える。
ちゃんと眠れているのだろうか。
これほど緊迫した状況だというのに、俺は先週、初めて美浜を抱いた。
抱かれる方はかなり身体に負担がかかるというが、今の美浜から察することはできない。
だからと言って、本人に聞くのは──。
そこまで考えていると、不意に美浜が資料から目を上げた。
視線がこちらに向かったが、遠くに座っているから俺を見たとは限らない。
そう思って見返していると、目を瞬かせて、わずかに首を傾げた。
途端に、視線が俺に向けられているのだとはっきりわかる。
あんな表情を、美浜は俺以外に向けることはない。
俺は微笑んで軽く首を振り、再び資料に目を落とした。
ミーティング自体は、1時間ほどで終わった。
エレベーターで下に行き、ロビーを出たところで吉田が口を開く。
「あれはさ、売れってことのなのか、売るなってことなのか、どっちだと思う?」
それは、俺も気になっていた。
生産中止になるとわかっている物を大量に受注するのは、信頼に関わる。
もしそれで、契約通りに卸せないとなったら、大問題だ。
かと言って、みすみす売り逃しをすれば、営業をして回っている意味がなくなる。
俺は吉田の言葉に、真っすぐ前を向いたまま答えた。
「売れってことだ」
すると、吉田は俺の肩に腕を回して笑った。
「そっか、ならオレたちのやることは変わらないな」
「ああ、その通りだ」
話はそれで終わりとばかりに、吉田は俺から離れて歩き出す。
俺は、スケジュールを頭の中で組み立て、これから会う担当者の顔を思い浮かべた。
どうやって注文を取るか。今はそれが問題だ。
今日は、ホテル業界を中心に顔を出す予定になっていた。
最近は、自動販売機を扱う小売店は少ないが、ホテルにはまだある。
そうは言っても、これまで売っているビール商品の中に食い込むのは、なかなか難しい。
何よりも、からり晴れの価格は、通常のビールより割高だ。
それなら、自社のスーパーマウンテンで事足りると、断られるのが関の山だろう。
何しろ、ホテルで一番需要が見込まれる生ビールや瓶ビールの展開が、からり晴れにはない。350mlか500ml、そのどちらかだ。
そのため、チェーンの居酒屋や個人経営の飲食店にもシェアは伸ばしにくい。
そこが、スーパーマウンテンとは違う点だ。
「だいぶ、限られてきたな」
次々断られながら、俺は吉田と作戦を練った。
「やっぱり、本社に行くしかないか」
頭に浮かんでいるのは、ランピックホテルだ。
大阪に本社のあるホテルで、全国のリゾート地にラグジュアリーホテルを展開している。
その上で、ここのところビジネスホテルも各地に建設中だ。
東京支社で乗り気だったホテルの担当者も、大阪本社の意向を聞かないと決定できないと言っていた。
そして、この決定をするには、やはり今朝の問題が大きく圧し掛かる。
ホテルからの受注に、生産量が耐えきれるか、という問題だ。
俺は、外回りをこなしながら、その合間を縫って、デスクワークの時間を捻出した。
ひたすら過去のデータについて調べ、多種多様な営業のケースに目を向ける。
その中には、スーパーマウンテンも含まれている。
先週の金曜日、美浜と会った時から考えてきたことで、結論を出すには時間を要した。
結果、素案ができたのは木曜日の夜になってからだった。
「オレは帰るけど、お前はどうする?」
帰る方向が同じ吉田が、俺に声を掛けてきた。
「まだやることがあるから」
「じゃあ、また明日な」
吉田はそれで帰っていき、俺はその後もパソコンに向かった。
そして、提出用の資料ができたところで、営業部の部屋を出た。
終業時間を過ぎていたが、恐らくこの時間ならまだ美浜はいるはずだ。
俺は、資料を手に美浜の執務室のある14階まで行った。
営業部のある6階とは、外の夜景だけではなく空気感が全然違う。
行き過ぎる人の中には、ラボのメンバーなのか、白衣も目立つ。
ドアはすべて閉まっていて、カードキーと暗証番号がないと入れないらしい。
同じ社内であるのに、ここまで違うのかと、少しだけカルチャーショックを受ける。
そのフロアの中に、美浜の執務室はあった。
美浜とはミーティングルームで話すことはあっても、個人的に執務室に来たことはない。
俺は、気後れしながらもドアをノックした。
「からり晴れは、今年度中に生産が中止になる懸念がある。そのため、来年度以降の契約については保留にしたいと考えている」
ミーティングルーム内にさっと緊張が走った。
カタリとも物音がしないほどに、しんと静まり返る。
誰もが、衝撃を受けながらも、美浜の説明に集中して聞き入っている。
前もって聞いていたこともあり、俺は冷静に部屋全体を見渡せる位置に座って、成り行きを見つめていた。
「次に、販売数については、仲本の方から」
美浜はそう言って、仲本に引き継いで席に座った。
仲本は、配布していた資料のページを言い、一斉に紙をめくる音が響く。
資料には、これまでの経緯と共に、売上本数の推移、そこから見通せる今年度の販売可能数が記されている。
その数字を目で追っていると、隣でぽつりと吉田が言った。
「本当、だったんだな」
薄々予測はできていたのだろうが、美浜にきっぱりと言い渡されて実感が湧いたらしい。
俺はちらりと吉田を見てから、前に座る美浜を見た。
顔色は悪くないが、やはり疲れているように見える。
ちゃんと眠れているのだろうか。
これほど緊迫した状況だというのに、俺は先週、初めて美浜を抱いた。
抱かれる方はかなり身体に負担がかかるというが、今の美浜から察することはできない。
だからと言って、本人に聞くのは──。
そこまで考えていると、不意に美浜が資料から目を上げた。
視線がこちらに向かったが、遠くに座っているから俺を見たとは限らない。
そう思って見返していると、目を瞬かせて、わずかに首を傾げた。
途端に、視線が俺に向けられているのだとはっきりわかる。
あんな表情を、美浜は俺以外に向けることはない。
俺は微笑んで軽く首を振り、再び資料に目を落とした。
ミーティング自体は、1時間ほどで終わった。
エレベーターで下に行き、ロビーを出たところで吉田が口を開く。
「あれはさ、売れってことのなのか、売るなってことなのか、どっちだと思う?」
それは、俺も気になっていた。
生産中止になるとわかっている物を大量に受注するのは、信頼に関わる。
もしそれで、契約通りに卸せないとなったら、大問題だ。
かと言って、みすみす売り逃しをすれば、営業をして回っている意味がなくなる。
俺は吉田の言葉に、真っすぐ前を向いたまま答えた。
「売れってことだ」
すると、吉田は俺の肩に腕を回して笑った。
「そっか、ならオレたちのやることは変わらないな」
「ああ、その通りだ」
話はそれで終わりとばかりに、吉田は俺から離れて歩き出す。
俺は、スケジュールを頭の中で組み立て、これから会う担当者の顔を思い浮かべた。
どうやって注文を取るか。今はそれが問題だ。
今日は、ホテル業界を中心に顔を出す予定になっていた。
最近は、自動販売機を扱う小売店は少ないが、ホテルにはまだある。
そうは言っても、これまで売っているビール商品の中に食い込むのは、なかなか難しい。
何よりも、からり晴れの価格は、通常のビールより割高だ。
それなら、自社のスーパーマウンテンで事足りると、断られるのが関の山だろう。
何しろ、ホテルで一番需要が見込まれる生ビールや瓶ビールの展開が、からり晴れにはない。350mlか500ml、そのどちらかだ。
そのため、チェーンの居酒屋や個人経営の飲食店にもシェアは伸ばしにくい。
そこが、スーパーマウンテンとは違う点だ。
「だいぶ、限られてきたな」
次々断られながら、俺は吉田と作戦を練った。
「やっぱり、本社に行くしかないか」
頭に浮かんでいるのは、ランピックホテルだ。
大阪に本社のあるホテルで、全国のリゾート地にラグジュアリーホテルを展開している。
その上で、ここのところビジネスホテルも各地に建設中だ。
東京支社で乗り気だったホテルの担当者も、大阪本社の意向を聞かないと決定できないと言っていた。
そして、この決定をするには、やはり今朝の問題が大きく圧し掛かる。
ホテルからの受注に、生産量が耐えきれるか、という問題だ。
俺は、外回りをこなしながら、その合間を縫って、デスクワークの時間を捻出した。
ひたすら過去のデータについて調べ、多種多様な営業のケースに目を向ける。
その中には、スーパーマウンテンも含まれている。
先週の金曜日、美浜と会った時から考えてきたことで、結論を出すには時間を要した。
結果、素案ができたのは木曜日の夜になってからだった。
「オレは帰るけど、お前はどうする?」
帰る方向が同じ吉田が、俺に声を掛けてきた。
「まだやることがあるから」
「じゃあ、また明日な」
吉田はそれで帰っていき、俺はその後もパソコンに向かった。
そして、提出用の資料ができたところで、営業部の部屋を出た。
終業時間を過ぎていたが、恐らくこの時間ならまだ美浜はいるはずだ。
俺は、資料を手に美浜の執務室のある14階まで行った。
営業部のある6階とは、外の夜景だけではなく空気感が全然違う。
行き過ぎる人の中には、ラボのメンバーなのか、白衣も目立つ。
ドアはすべて閉まっていて、カードキーと暗証番号がないと入れないらしい。
同じ社内であるのに、ここまで違うのかと、少しだけカルチャーショックを受ける。
そのフロアの中に、美浜の執務室はあった。
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