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ep.07 嫌とは言えない
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「どうぞ」
すぐに中から声がして、俺はドアノブに触る。
ここは鍵がかかっていなかったらしく、ドアは簡単に開いた。
「失礼します」
中には大きなデスクがあり、その奥のチェアに美浜が座っている。
俺たちの座る椅子とは違い、エグゼクティブチェアと呼ばれる、背もたれの高い革張りのリクライニングチェアだ。たしか、営業部の白石部長もこの椅子を使っている。
だが、座っている人物でここまでイメージに差ができるものなのかと感心する。
美浜が座ると、重厚感のある高級な調度品に見える。
部屋の中には無駄なものが一切なく、もちろん写真立ての類もない。
白石の雑然とした執務室とは大違いだ。
美浜は俺を見ると、目を瞠った。
恐らく、開発部の部下の一人が来たと思ったんだろう。
何かを問おうと口を開きかけ、美浜はそこで動きを止めた。
俺が仕事で来たのか、プライベートで来たのか、判断がつかなかったのかもしれない。
「からり晴れの件で伺いました」
「そうか。そちらで聞こう」
美浜が奥にある応接セットを指し示したため、俺はその後ろについて行った。
そして、美浜が座る一人掛けのソファの前、ローテーブルを挟んだ席に、俺は一礼して腰を下ろす。
「今回の、からり晴れ生産中止の件です」
「まだ、生産中止と決まったわけではない」
「決まったも同然なのではないんですか?」
美浜は表情を変えず、俺の問いには答えない。
上層部の判断は絶対だ。
美浜であっても、きっと判断を覆すことは難しい。
だからこそ、俺はここに来た。
「過去のスーパーマウンテンの年間生産量と売上本数、そしてからり晴れについて調べました」
そして、すうと息を吸ってから続けた。
「データを分析した結果、このままいくと来年度の秋頃でホップの収穫量が生産に耐えられなくなるでしょう。そこで、我々が取る手段は3つ。ホップの生産量を増やすか、からり晴れの生産をストップするか、スーパーマウンテンの生産量を減らすかです」
俺はそう言って、それぞれの試算を出した。
「この推移からすると、スーパーマウンテンの生産量を据え置きにして、その間にホップの生産量を増やせば、からり晴れの生産をストップする必要がなくなります。これがデータをもとにした試案です」
俺の話を聞く美浜の表情が、そこで目に見えて変わった。
作成した資料を受け取ると、文字に視線を走らせ、ページをめくっていく。
およそ30ページにわたる資料に一度目を通した後、もう一度細かく読み進めて、ところどころ俺に質問してきた。
「君が、考えたのか?」
「ええ、そうです。今後も商品を販売するには、この手しかないだろうと」
美浜は俺の話を聞くと、ソファから立ち上がった。
しばらく窓に向かって立つその後ろ姿を、俺は声を掛けずに覗う。
一体今、美浜は何を考えているのだろうか。
ガラス窓に映る表情からは、何も窺い知ることはできない。
それから一分ほど経った頃だろうか。
美浜は俺に背を向けたまま言った。
「私も同じ考えに至っていた」
俺は驚いて腰を浮かしそうになり、何とか堪えて問い掛けた。
「数も決まっていますか?」
「ああ、これだ」
そして、デスクの上に置いていたファイルの一つを、俺に手渡してきた。
「拝見します」
受け取ったファイルを開き、俺は驚いた。
そこには、俺と同じ考えに至った経緯と、それに必要な売上本数が記されている。
その上で、週ごとの目標数値まで事細かに設定されていた。
具体的な数値を改めて見ると、とても厳しい条件だ。
どうやってここまでの売り上げを達成できるか、現段階ではわからない。
だが、これしか方法がないのなら、やるしかない。
「上層部との交渉は、私に任せてほしい」
落ち着いた深みのある声に顔を上げると、美浜は立ったまま俺を見据えている。
見定めるような瞳に、俺は頷いた。
「わかりました。営業部は、美浜部長のご期待に応えられるよう、励みます」
俺は、営業部どころか二課の平社員に過ぎないのだが、先頭に立つ決意でそう言った。
美浜は、俺を見つめ、笑うことなく「ああ、頼む」とだけ言った。
俺を見つめるその目が、静かに伝えるその声が、美浜の窮状と決意を表していた。
俺はそこで立ち上がって執務室を出て、その足で部屋に戻って作戦を練り始めた。
美浜からプロジェクトメンバーに伝えられるのは、週明けになるだろう。
それまでに、今できることはしておきたい。
こうして、営業活動は本格始動することになった。
すぐに中から声がして、俺はドアノブに触る。
ここは鍵がかかっていなかったらしく、ドアは簡単に開いた。
「失礼します」
中には大きなデスクがあり、その奥のチェアに美浜が座っている。
俺たちの座る椅子とは違い、エグゼクティブチェアと呼ばれる、背もたれの高い革張りのリクライニングチェアだ。たしか、営業部の白石部長もこの椅子を使っている。
だが、座っている人物でここまでイメージに差ができるものなのかと感心する。
美浜が座ると、重厚感のある高級な調度品に見える。
部屋の中には無駄なものが一切なく、もちろん写真立ての類もない。
白石の雑然とした執務室とは大違いだ。
美浜は俺を見ると、目を瞠った。
恐らく、開発部の部下の一人が来たと思ったんだろう。
何かを問おうと口を開きかけ、美浜はそこで動きを止めた。
俺が仕事で来たのか、プライベートで来たのか、判断がつかなかったのかもしれない。
「からり晴れの件で伺いました」
「そうか。そちらで聞こう」
美浜が奥にある応接セットを指し示したため、俺はその後ろについて行った。
そして、美浜が座る一人掛けのソファの前、ローテーブルを挟んだ席に、俺は一礼して腰を下ろす。
「今回の、からり晴れ生産中止の件です」
「まだ、生産中止と決まったわけではない」
「決まったも同然なのではないんですか?」
美浜は表情を変えず、俺の問いには答えない。
上層部の判断は絶対だ。
美浜であっても、きっと判断を覆すことは難しい。
だからこそ、俺はここに来た。
「過去のスーパーマウンテンの年間生産量と売上本数、そしてからり晴れについて調べました」
そして、すうと息を吸ってから続けた。
「データを分析した結果、このままいくと来年度の秋頃でホップの収穫量が生産に耐えられなくなるでしょう。そこで、我々が取る手段は3つ。ホップの生産量を増やすか、からり晴れの生産をストップするか、スーパーマウンテンの生産量を減らすかです」
俺はそう言って、それぞれの試算を出した。
「この推移からすると、スーパーマウンテンの生産量を据え置きにして、その間にホップの生産量を増やせば、からり晴れの生産をストップする必要がなくなります。これがデータをもとにした試案です」
俺の話を聞く美浜の表情が、そこで目に見えて変わった。
作成した資料を受け取ると、文字に視線を走らせ、ページをめくっていく。
およそ30ページにわたる資料に一度目を通した後、もう一度細かく読み進めて、ところどころ俺に質問してきた。
「君が、考えたのか?」
「ええ、そうです。今後も商品を販売するには、この手しかないだろうと」
美浜は俺の話を聞くと、ソファから立ち上がった。
しばらく窓に向かって立つその後ろ姿を、俺は声を掛けずに覗う。
一体今、美浜は何を考えているのだろうか。
ガラス窓に映る表情からは、何も窺い知ることはできない。
それから一分ほど経った頃だろうか。
美浜は俺に背を向けたまま言った。
「私も同じ考えに至っていた」
俺は驚いて腰を浮かしそうになり、何とか堪えて問い掛けた。
「数も決まっていますか?」
「ああ、これだ」
そして、デスクの上に置いていたファイルの一つを、俺に手渡してきた。
「拝見します」
受け取ったファイルを開き、俺は驚いた。
そこには、俺と同じ考えに至った経緯と、それに必要な売上本数が記されている。
その上で、週ごとの目標数値まで事細かに設定されていた。
具体的な数値を改めて見ると、とても厳しい条件だ。
どうやってここまでの売り上げを達成できるか、現段階ではわからない。
だが、これしか方法がないのなら、やるしかない。
「上層部との交渉は、私に任せてほしい」
落ち着いた深みのある声に顔を上げると、美浜は立ったまま俺を見据えている。
見定めるような瞳に、俺は頷いた。
「わかりました。営業部は、美浜部長のご期待に応えられるよう、励みます」
俺は、営業部どころか二課の平社員に過ぎないのだが、先頭に立つ決意でそう言った。
美浜は、俺を見つめ、笑うことなく「ああ、頼む」とだけ言った。
俺を見つめるその目が、静かに伝えるその声が、美浜の窮状と決意を表していた。
俺はそこで立ち上がって執務室を出て、その足で部屋に戻って作戦を練り始めた。
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それまでに、今できることはしておきたい。
こうして、営業活動は本格始動することになった。
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