【完結】それより俺は、もっとあなたとキスがしたい

佑々木(うさぎ)

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ep.07 嫌とは言えない

(3)

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 翌日の金曜日、ホテルに着いたのは遅い時間だった。
 事前にそのことは、美浜にショートメッセージで伝えていた。
 先週、別れ際に連絡先を交換しておいて良かったと、俺はメッセージを送信しながら思った。
 もし知らなければ、美浜に何も伝えられないまま、2時間放置するところだった。
 とはいえ、遅れてしまったのは事実だ。
 仕事を終わらせると、俺は急いでホテルに向かった。
 走り出したいのを我慢して部屋の前まで行き、チャイムを押すとすぐに美浜はドアを開けた。

「どうぞ」

 静かな声で俺を招き入れるとドアを閉め、鍵をかける。
 美浜は俺を待つ間も仕事をしていたようで、部屋の奥にあるデスクには書類が広げられていた。

「お待たせしてしまって、すみません」

 申し訳ありません、と言いかけて俺は言い替えた。
 オフィスではないのだし、さすがにそれでは他人行儀だと思ったからだ。
 少なくとも、これまでホテルで3度会った相手向けて言う台詞じゃない。
 すると美浜は、目元を細めて笑う。

「君のことだ。仕事をしていたのだろう? 謝ることはない」

 美浜の言うとおり、確かに仕事をしていたのだが、もう少し早く切り上げればいいことで。
 時計を見ずにデスクワークを続けていたのが悪かった。
 要するに俺のミスで、美浜を長時間待たせてしまった。
 だが、今更しつこく謝っても仕方がない。
 俺は気持ちを切り替えて、一番聞きたかったことを質問した。

「身体は、大丈夫でしたか?」

 俺の問いを聞いた時には、何のことかすぐにわからなかったらしい。
 だが、目を瞬かせて息を呑み、ぷいと視線を逸らす。

「……平気だ」

 そして、それ以上言わずに俺の横を通って、部屋の奥へと歩いていこうとする。
 すれ違う際に見えた横顔には、薄暗い照明の下でも赤みが差しているのが見て取れる。よくよく見れば、耳まで赤い。
 俺はその様子に、くすりと笑った。
 こういうところが、美浜の不器用なところだ。
 感情を表に出さず、心の内を見せないようにする。
 ビジネス上、身に着けたすべなのかもしれないが、自分でもコントロールできなくなっているのではないだろうか。
 だから、部下にも誤解されて、遠巻きにする人が多いのかもしれない。
 それでも、注意深く観察すれば、美浜の思いは手に取るようにわかる。
 まだ付き合いは長い方じゃないが、浅くはない。
 だんだんとその不器用なところが、可愛く思えてきた。
 何に対しても動じず、冷静に指示を出す美浜が、俺の一挙手一投足に反応を示す。
 それはきっと、余裕がないからだ。
 仕事の時に余裕を見せる美浜が、ホテルの部屋だと落ち着きがなくなる。
 普通は逆だと思うんだが。

「美浜さん」

 俺が名前を呼ぶと、ぴたりと足を止めた。だが、こちらを振り返ろうとはしない。
 俺は美浜に近付き、背後から抱き締める。
 コート越しでも、美浜の熱さが伝わってきて、俺は身をすり寄せた。
 美浜は、身体を強張らせていたが、やがて抱きしめている俺の手に手を重ねる。
 肩越しに振り返ったところで視線が合い、俺は口端を上げてみせた。
 俺の表情に美浜は眉を顰め、目を眇める。

「……君は、本当に男は初めてなのか?」

 質問の意味がよくわからなくて、俺は続きを視線で促した。
 すると、躊躇いがちに美浜は言う。

「私より5つも年下のくせに、妙に場慣れしている。先週だって──」

 美浜は、前回のことを思い出したのか、一度唇を引き結ぶ。

「あんなに上手いのは、おかしい」
「それは、どうも」
「褒めてはいない」

 きっぱりと否定されたが、他に意味の取りようがない。

「俺とするのは、そんなに良かったですか?」

 揶揄からかい交じりに聞いて、てっきり「自惚うぬぼれるな」と叱られるかと思っていた。
 だが美浜は、肯定も否定もしない。
 ただ、顔をうつむけているだけだ。
 沈黙は肯定だと、一体誰が言ったんだっけ。
 とにかく、美浜にとって前回は、悪いものではなかったらしい。
 それだけは確かなようだ。
 俺は、抱きしめる腕に力を込めて、耳元で囁いた。

「今日は、どうしますか?」
「どう、とは?」

 切れ長の目でチラリと俺を見て、美浜は慎重に問い返す。
 俺は、その黒目がちな瞳を見据えて、笑みを深めた。

「前回はバックでしたので。向き合ってするのもいいかなと」

 美浜の身体がぴくりと揺れて、顔が強張った。
 唇が薄く開かれたまま、固まったように動かなくなる。
 俺は、自分の言葉の効果を十二分に感じながら、回答を待った。
 できれば、美浜の口から聞きたかったからだ。
 美浜は、俺の腕の中で身じろぐことさえせずに、じっと俺を見つめている。
 何を言うべきか、何も言わないべきか、ぐるぐると考えているようだ。
 だが、俺が沈黙を破ることなく待ち続けていることに居心地が悪くなったのか、顔をうつむけてから言う。

「向き合って、したい」
「わかりました」

 俺はそう答えてから、着込んでいたコートを脱いで、ジャケットのボタンを外す。
 クローゼットに掛けに行こうと入り口に向かいかけたところで、肩を引かれた。

「みは……っん……は……」

 振り返り、クローゼットに行くだけだと伝えようとしたが、唇を奪われて何も言えなくなる。

「……っいちの、せ……っふ……は」

 俺のネクタイを掴んで引き寄せ、後頭部を手で抱き込んで、美浜は深いキスを仕掛けてきた。最初は唐突なキスに驚いたが、美浜に応えているうちに、経緯はどうでも良くなった。
 美浜はキスをしながら俺の服を脱がしていき、体重をかけてベッドに倒れ込んだ。俺の上に覆いかぶさる表情からは、昼間の冷静さは窺えない。餓えたような熱い視線に、こっちまでたかぶってくる。唇から頬を通り、首筋に顔を伏せて、美浜はキスを繰り返す。
 俺は背中に腕を回して上下を入れ替え、今度はこちらからキスを仕掛けた。
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