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ep.10 ホテルよりも
(5)
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「すみません。ランニングしたままで。シャワーを浴びてきてもいいですか?」
「突然、時間も言わずに押し掛けたのは私だ。遠慮なく浴びてきてくれ」
俺は、名残惜しく思いながら身を離し、バスルームに入る。
ざっと汗を流して髪も洗い、脱衣所に置いてある服の中からラフなものを選ぶ。
きっとこの後は、外に出かけることもないだろう。
俺は、着替えを済ませてから、美浜の分の着替えとタオルを出しておく。
部屋に戻ると、美浜は窓から外を見ていた。
俺の部屋からの景色なんてたかが知れている。
俺に気が付くと振り返り、ぽつりと言った。
「君とこんな明るいうちに会うのは、初めてだな」
「たしかに。プライベートでは、大体夜でしたね」
日中、仕事で会うことはあっても、こうして昼日中に顔を合わせることはい。
「君と恋人になったのだと、改めて感じた」
美浜は俺に近付き、両腕で抱き締めてくる。
「一ノ瀬、愛している」
俺も、美浜を抱き締め返し、息を吐いてから囁いた。
「美浜さん、ここ、ホテルより壁が薄いんですよ」
「今言うことか?」
このタイミングだから言うんじゃないだろうか。
美浜は、俺に身を預けたまま、同じように小声で言葉を返す。
「……しなければいいのではないか?」
「それは、無理です」
今すぐにでも抱きたいと思っているのに、手を出さずにいられるわけがない。
美浜は俺から身を離し、目を逸らして言った。
「シャワーを借りる」
「どうぞ。タオルと着替えは出してあります」
美浜は一瞬、何か言いたそうに唇を開いたが、結局噤んでバスルームに行った。
一体、何を考えたのかと思ったが、ドアを閉める前に聞こえてきた。
「君は、ここに何人連れ込んだんだ? あまりにも、用意周到過ぎる」
「それは──」
吉田がいつも泊まりに来ているせいだと答えようとしたが、その前にドアが閉まった。
まさか、ここに不特定多数の人間を連れ込んでいると誤解しているのか。
ずいぶんと貞操観念のない人間だと思われているようだ。
まあ、いちいち否定しても始まらない。
俺は、ソファに座ってスマホを確認した。
もしここで、吉田から連絡が来ていたら事だ。
美浜と鉢合わせするのはまずい。
そう思って見てみると、どうやら今日は練習試合に行っているようだ。
吉田は、週末にいろんなスポーツチームに顔を出している。
俺から言わせれば、休みの日にチームスポーツをする方がよくできるなと思うのだが。
吉田にとってはいい気分転換になるらしい。
SNSにアップされている写真を見て、その行動力に驚かされる。
すると、吉田の背後に、もう一人見知った人物が映り込んでいた。
拡大してみると、やっぱり見間違いじゃない。仲本だ。
今まで二人一緒に行動しているとは知らなかったが、結構仲が良いのか。
意外に思いながら眺めていると、美浜がバスルームから出てくる。
買ったばかりだとはいえ、スウェットに長袖Tシャツだ。
そんな格好の美浜は、なかなか見応えがある。
「似合わないと言いたいのだろう?」
「いえ、案外似合っていてびっくりですよ」
前髪が下りているせいもあるのだろうか。
年相応か、俺と同じくらいに見える。
スーツ姿だと大きく見えていたが、そういえば俺より背が低かった。
オーバーサイズ気味に来ている姿は、結構可愛い。
そんなことを言うと怒られそうで、黙って微笑むに止めた
こうして、部屋着でのんびりできるようにしたが、ひとつ聞いておく必要がある。
「夜は和食でもいいですか?」
うちで食べるのなら、ご飯を炊いておく必要がある。
すると、美浜は意外そうに目を見開いた。
「君は料理をするのか?」
「それなりに、何とか」
そんなに喜ばれると申し訳ない。
材料から考えても、鶏肉料理になりそうだ。
親子丼とか唐揚げとか、照り焼きとか。
美浜を満足させられるかはわからないけれど。
だが、美浜は子供のように目を輝かせている。
「手料理が食べられるとは、思っていなかった」
「あまり、期待しないでくださいね」
俺はそう言って、美浜と他愛無い話を続けた。
さっきのランニングシューズから、美浜の趣味の話にもなる。
「趣味か。続けていることと言えば、映画を見るくらいだ」
「へえ、それは家でですか?」
美浜なら、シアタールームも持っていそうだ。
プロジェクターとか大きなオーディオセットを思い浮かべる。
「いや、大抵映画館で見ている」
美浜が映画館で見ているとは、ちょっと意外だ。
人といる空間を煩わしいと感じるタイプかと思っていた。
部屋でのんびりと酒でも飲みながら、映画鑑賞するのは似合いそうだ。
「映画館は、迫力が違う。それに、プラチナかプレミアシートなら、人との距離も気にならない」
「あ、はい。それがありましたね」
金の使い方が、全然違っていた。
俺の想像するシートでは、見るわけがないか。
「今度、一緒に見に行かないか?」
「ええ、ぜひ。美浜さんがはどんな映画を見るんですか?」
迫力を期待するなら、アクションかSFか。
「ゾンビ映画だ」
「え……ああ、そっち?」
まさかの回答に、俺は顔が引きつりそうになる。
俺が唯一苦手とする映画が、それだ。
スプラッタやホラーも、あまり得意ではないが。
よりにもよって、なぜ一発一点狙いみたいな趣味なんだろうか。
すると、美浜はいきなり低く笑った。
「冗談だ。君は意外と顔に出るな」
「からかわないでくださいよ」
こんな冗談も言うのかと、意外な一面を見た気がした。
「最近だとSFもだが、ミステリや恋愛ものも多い。あとはリバイバルだ」
「リバイバル。美浜さんのイメージにぴったりですね」
それこそ、家で見られそうなものだが、じっくり浸るのなら映画館がいいのかもしれない。
そこから、美浜の話を聞き、俺はふと思い出した。
「そういえば、カポーティの映画ならディスクがあります」
「君が、カポーティ?」
眉をひそめて聞いてこられて、今度は俺が笑った。
「ひどいですね。どんなイメージですか」
「それこそ、ゾンビ映画が好きだと言われた方が納得する」
俺は、美浜の笑顔を見ながら、ディスクをセットして映画を流した。
「私も、この映画が好きだ。もう何度も見ている」
映画のワンシーンを見ながら、美浜はこぼれ話や解説を聞かせてくれた。
その声も横顔も、職場で見るものとはまるで違う。
美浜がこんな顔をするのだと知ったら、仲本以上に崇拝者が出るのではないだろうか。
大人の男の余裕とはまた違う、柔らかな優しい顔だ。
二人でラグの上に座りながら、しばらく映画を見続けた。
俺は美浜の肩に手を回して抱き寄せ、話を聞き続ける。
「カポーティの原作は。ここで別れて二度と会えなくなる。映画版は、ハッピーエンドな点で評価が分かれている」
「俺は、こっちが好きですよ。このラストの歌も、キスシーンも」
「ああ、そうだな。ここで猫が──」
そう言って俺を見てきた美浜と、視線が絡む。
「二人に挟まれて、逃げ出すんですよね」
熱い眼差しで俺を見て、そのまま言葉を止めた。
そして、俺の掛けていた眼鏡を外してテーブルに置き、キスを仕掛けてくる。
「……っは……いちの、せ……」
「しないんじゃ、なかったんですか?」
くすくすと笑いながら答えていられたのは、最初だけだ。
俺の方が夢中になって、美浜を床に押し倒し、覆いかぶさって深いキスをした。
裾に手を入れて胸元に触ると、美浜は自分からシャツを脱ぎ出した。
俺もそれを手伝って裸にし、また抱き合う。
「突然、時間も言わずに押し掛けたのは私だ。遠慮なく浴びてきてくれ」
俺は、名残惜しく思いながら身を離し、バスルームに入る。
ざっと汗を流して髪も洗い、脱衣所に置いてある服の中からラフなものを選ぶ。
きっとこの後は、外に出かけることもないだろう。
俺は、着替えを済ませてから、美浜の分の着替えとタオルを出しておく。
部屋に戻ると、美浜は窓から外を見ていた。
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俺に気が付くと振り返り、ぽつりと言った。
「君とこんな明るいうちに会うのは、初めてだな」
「たしかに。プライベートでは、大体夜でしたね」
日中、仕事で会うことはあっても、こうして昼日中に顔を合わせることはい。
「君と恋人になったのだと、改めて感じた」
美浜は俺に近付き、両腕で抱き締めてくる。
「一ノ瀬、愛している」
俺も、美浜を抱き締め返し、息を吐いてから囁いた。
「美浜さん、ここ、ホテルより壁が薄いんですよ」
「今言うことか?」
このタイミングだから言うんじゃないだろうか。
美浜は、俺に身を預けたまま、同じように小声で言葉を返す。
「……しなければいいのではないか?」
「それは、無理です」
今すぐにでも抱きたいと思っているのに、手を出さずにいられるわけがない。
美浜は俺から身を離し、目を逸らして言った。
「シャワーを借りる」
「どうぞ。タオルと着替えは出してあります」
美浜は一瞬、何か言いたそうに唇を開いたが、結局噤んでバスルームに行った。
一体、何を考えたのかと思ったが、ドアを閉める前に聞こえてきた。
「君は、ここに何人連れ込んだんだ? あまりにも、用意周到過ぎる」
「それは──」
吉田がいつも泊まりに来ているせいだと答えようとしたが、その前にドアが閉まった。
まさか、ここに不特定多数の人間を連れ込んでいると誤解しているのか。
ずいぶんと貞操観念のない人間だと思われているようだ。
まあ、いちいち否定しても始まらない。
俺は、ソファに座ってスマホを確認した。
もしここで、吉田から連絡が来ていたら事だ。
美浜と鉢合わせするのはまずい。
そう思って見てみると、どうやら今日は練習試合に行っているようだ。
吉田は、週末にいろんなスポーツチームに顔を出している。
俺から言わせれば、休みの日にチームスポーツをする方がよくできるなと思うのだが。
吉田にとってはいい気分転換になるらしい。
SNSにアップされている写真を見て、その行動力に驚かされる。
すると、吉田の背後に、もう一人見知った人物が映り込んでいた。
拡大してみると、やっぱり見間違いじゃない。仲本だ。
今まで二人一緒に行動しているとは知らなかったが、結構仲が良いのか。
意外に思いながら眺めていると、美浜がバスルームから出てくる。
買ったばかりだとはいえ、スウェットに長袖Tシャツだ。
そんな格好の美浜は、なかなか見応えがある。
「似合わないと言いたいのだろう?」
「いえ、案外似合っていてびっくりですよ」
前髪が下りているせいもあるのだろうか。
年相応か、俺と同じくらいに見える。
スーツ姿だと大きく見えていたが、そういえば俺より背が低かった。
オーバーサイズ気味に来ている姿は、結構可愛い。
そんなことを言うと怒られそうで、黙って微笑むに止めた
こうして、部屋着でのんびりできるようにしたが、ひとつ聞いておく必要がある。
「夜は和食でもいいですか?」
うちで食べるのなら、ご飯を炊いておく必要がある。
すると、美浜は意外そうに目を見開いた。
「君は料理をするのか?」
「それなりに、何とか」
そんなに喜ばれると申し訳ない。
材料から考えても、鶏肉料理になりそうだ。
親子丼とか唐揚げとか、照り焼きとか。
美浜を満足させられるかはわからないけれど。
だが、美浜は子供のように目を輝かせている。
「手料理が食べられるとは、思っていなかった」
「あまり、期待しないでくださいね」
俺はそう言って、美浜と他愛無い話を続けた。
さっきのランニングシューズから、美浜の趣味の話にもなる。
「趣味か。続けていることと言えば、映画を見るくらいだ」
「へえ、それは家でですか?」
美浜なら、シアタールームも持っていそうだ。
プロジェクターとか大きなオーディオセットを思い浮かべる。
「いや、大抵映画館で見ている」
美浜が映画館で見ているとは、ちょっと意外だ。
人といる空間を煩わしいと感じるタイプかと思っていた。
部屋でのんびりと酒でも飲みながら、映画鑑賞するのは似合いそうだ。
「映画館は、迫力が違う。それに、プラチナかプレミアシートなら、人との距離も気にならない」
「あ、はい。それがありましたね」
金の使い方が、全然違っていた。
俺の想像するシートでは、見るわけがないか。
「今度、一緒に見に行かないか?」
「ええ、ぜひ。美浜さんがはどんな映画を見るんですか?」
迫力を期待するなら、アクションかSFか。
「ゾンビ映画だ」
「え……ああ、そっち?」
まさかの回答に、俺は顔が引きつりそうになる。
俺が唯一苦手とする映画が、それだ。
スプラッタやホラーも、あまり得意ではないが。
よりにもよって、なぜ一発一点狙いみたいな趣味なんだろうか。
すると、美浜はいきなり低く笑った。
「冗談だ。君は意外と顔に出るな」
「からかわないでくださいよ」
こんな冗談も言うのかと、意外な一面を見た気がした。
「最近だとSFもだが、ミステリや恋愛ものも多い。あとはリバイバルだ」
「リバイバル。美浜さんのイメージにぴったりですね」
それこそ、家で見られそうなものだが、じっくり浸るのなら映画館がいいのかもしれない。
そこから、美浜の話を聞き、俺はふと思い出した。
「そういえば、カポーティの映画ならディスクがあります」
「君が、カポーティ?」
眉をひそめて聞いてこられて、今度は俺が笑った。
「ひどいですね。どんなイメージですか」
「それこそ、ゾンビ映画が好きだと言われた方が納得する」
俺は、美浜の笑顔を見ながら、ディスクをセットして映画を流した。
「私も、この映画が好きだ。もう何度も見ている」
映画のワンシーンを見ながら、美浜はこぼれ話や解説を聞かせてくれた。
その声も横顔も、職場で見るものとはまるで違う。
美浜がこんな顔をするのだと知ったら、仲本以上に崇拝者が出るのではないだろうか。
大人の男の余裕とはまた違う、柔らかな優しい顔だ。
二人でラグの上に座りながら、しばらく映画を見続けた。
俺は美浜の肩に手を回して抱き寄せ、話を聞き続ける。
「カポーティの原作は。ここで別れて二度と会えなくなる。映画版は、ハッピーエンドな点で評価が分かれている」
「俺は、こっちが好きですよ。このラストの歌も、キスシーンも」
「ああ、そうだな。ここで猫が──」
そう言って俺を見てきた美浜と、視線が絡む。
「二人に挟まれて、逃げ出すんですよね」
熱い眼差しで俺を見て、そのまま言葉を止めた。
そして、俺の掛けていた眼鏡を外してテーブルに置き、キスを仕掛けてくる。
「……っは……いちの、せ……」
「しないんじゃ、なかったんですか?」
くすくすと笑いながら答えていられたのは、最初だけだ。
俺の方が夢中になって、美浜を床に押し倒し、覆いかぶさって深いキスをした。
裾に手を入れて胸元に触ると、美浜は自分からシャツを脱ぎ出した。
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