【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第一章 入学

ファルコ・クラッセ

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 特待生は、普通科の学生とは違い、魔法のクラスだけ複式学級で授業を受ける。つまり、1年から3年までが1クラスで学ぶことになる。そのクラスのことを、ファルコ・クラッセと呼び、そのクラスに所属する生徒は全校生徒の憧れの的だ。

 凡人である僕、クリスティアンがこのクラスに入れたのは、妹が駄々をこねたことに起因するわけだが、学院側が簡単に折れたのには理由がある。ファルコ・クラッセの評判が、ここのところ芳しくなくて、テコ入れが必要だったからだ。ここで妹にまで拒絶されれば、学院の面目は潰れる。もっと言えば、一般のクラスで能力が発揮できるのであれば、ファルコ・クラッセなど要らないということになってしまう。
 ただ名誉を与え、他の生徒との差別化を図るために存続させるだけならば、形骸化したクラスなど失くすに限る。
 学院に寄付している貴族たちに言われるほどに、危機的状況にあった。

 そこに現れたのが、王太子であるアインハルトとセレスだ。
 片や国の礎となる未来の王であり、更にセレスは全属性を使える見込みのある生徒だ。
 だからこそ、学院側は二人を繋ぎ止めることに躍起になっている。
 僕程度の人間が入ることになろうと、妹の損失に比べれば大したことはない。

 まあ、ゲームによるとそんな理由らしいが、はっきり言って苦しい。
 ただ単に、攻略対象外の人間をファルコ・クラッセに所属させるための方便だろう。

 今僕たちは、その学院の特別待遇クラスの講義室に集められた。
 攻略対象の面々が、ずらりと顔を並べている。

 教壇に立つのは、クラス担任のオーベリンだ。
 落ち着いた黒髪の人物だが、赤い瞳が彼の内に秘めた苛烈さを象徴しているかのようだ。タクトのような細い黒い杖を手にして、僕たちを睥睨している。顎で示すと、一番前の席にいた人物が立ち上がった。

「新入生の諸君。ファルコ・クラッセへようこそ。僕が級長のイェレミーだ。歓迎するよ」

 腰まである美しいプラチナブロンドを低い位置で一つにまとめた生徒で、ヴァイオレットの瞳を細めて挨拶した。張りのある声は耳に心地良く、彼の性格を知らなければコロッと騙されるだろう。現にセレスは、感嘆の声を漏らしている。
 若々しく、穏やかに見えるが、彼はエルフの末裔で年齢不詳だ。
 少なくとも、学長よりも長生きしている。
 この学校に入学した理由は、ルートに入らないと明かされないらしく、姉はこのイェレミーがイチオシだった。

「では、まず新入生から、自己紹介をしてくれないか? そうだな。やはり主席の殿下から」

 すると、アインハルトが席に座ったまま口を開く。

「俺は、アインハルト・フォーシュリンド。この国の第一王子だ」

 そして、口を閉ざした。

「それだけですの?」

 問いかけたのは、2年生のベアトリスだ。
 金髪の巻き毛にブルーグレーの瞳の彼女は、このゲームのいわば悪役令嬢キャラ。
 何かにつけてセレスに絡んでくるのだが、実はアインハルトの許婚でもある。

 ベアトリスの問いに、アインハルトは前髪を掻き上げた。
 
「他に説明が必要かい?」

 たしかに、アインハルトを知らない者は、ここにはいない……はずだった。
 自己紹介は次の人物のターンになるかというタイミングで、声が割って入る。

「はい! 私は、もっとお聞きしたいです!」

 きらきらと期待に瞳を輝かせて、セレスが手を挙げたのだ。
 
「だって、名前と王子であることしか、今の紹介じゃわからないじゃないですか」

 そう、この一言で、アインハルト王子はセレスに興味を抱く。
 これまで、王太子としてしか扱われていない彼にとって、自分個人に興味を持った女性はこれまでいなかった。

 その時だ。
 アインハルトの身体が、ピンク色に染まった。
 まるで、カーテンに包まれたかのようにピンクの光の只中にいる。

 一体何が起きたのか。
 そう思ったのは、ほんの一瞬だ。

 そうか。これが、セレスへの好感度が上がったエフェクトか。

「なるほど、わかりやすい」

 僕は、ついぽつりと口に出した。
 ハッとして慌てたが、どうやら誰の耳にも届いてはいないようだ。

「君は?」

 セレスに問うたのは、級長のイェレミーではなく、王子本人だ。

「私の名前は、セレスティーナ・アッシュベルト。この学院には、生涯の友を探しに来ました」
「──生涯の、友?」

 セレスの言葉を繰り返した声は、背後からした。
 振り返ると、いつからそこにいたのか、銀髪の生徒が立っている。

 すらりとした長躯、感情を覗わせない銀の瞳。
 短く切られた襟足とは対照的に、右側の前髪は目元を隠すほどに長い。
 形の良い銀色の眉を顰め、セレスを見下ろしている。

「デューク。君は今までどこにいたんだ?」

 イェレミーがその生徒に尋ねると、手にしていた分厚い本をドンと机に置いた。

「このくだらない茶番は、まだ続くのか?」

 その一言で、教室の空気が急転直下、一気に冷え切った。
 全員が黙り込む中、教壇の方から答える声がした。

「いや、たった今終了した。授業を始める。君も席に着け、デューク・アルヴェスタム」

 僕の後ろに座った気配がしたが、もちろん振り返ることはできなかった。
 この人も攻略対象の一人で、国費留学生だ。
 そして、隣国アルヴェストの第三王子でもある。

 隣の席に座っていたセレスも、張り詰めた空気を感じ取ったのか、だらけた姿勢を一変させて前を向いた。

 かくして、ファルコ・クラッセの最初の授業が始まった。
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