【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第一章 入学

ワンクリックの授業内容

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「初回は、イェレミーからだ」

 オーベリン先生が教壇から下り、代わりにイェレミーが立つ。

「それでは、僕から魔法学における属性区分について、発表いたします」

 発表?
 ちらりと先輩の一人、ベアトリスに視線を向けると、ノートを開いた状態で話を聞こうとしている。だが、教科書らしきものはない。まさか、ゼミ形式なのか? ガイダンスもなく初日から?

 僕が驚いている間に、イェレミーは黒板に白墨で文字を書いていく。カツカツと乾いた音を立てながらチョークを走らせ、属性区分について説明を始めた。

「ご存じのように、属性は大きく4つに分けられる。風・火・水・土だ。このうち、風と火、水と土の相性が良く、2つの属性を備える魔法使いは少なくありません。稀に、光と闇の属性を持つ者もあらわれるが、エルフやドワーフといった人間種以外の者がほとんどだ」

 セレスはペンを持ってはいるが、メモを取ることなく聞き入っている。次席だけあって、既に知っている内容なのだろう。僕もなんとなく知ってはいるけれど、忘れないようにメモを取った方がいいかと、板書の内容をノートに書き写す。

「セレスティーナ君のように、全属性を持ち合わせている者は珍しいが、この場合も光と闇は除外されている。それでも、4属性を生まれながらに使えるとは、稀有な才能だ。素晴らしいよ」
「ありがとうございます」

 イェレミーの誉め言葉に、セレスはちょっと驚いた表情で礼を述べた。

「この属性間の能力についてだが、たとえば──」

 そこからイェレミーの話は、いきなり専門性を上げた。
 まるで、足し算からひとっ飛びで二次関数の応用について議論し始めたようなものだ。

 ちょっと待ってほしい。
 繰り返すけれど、今日は授業初日だよね?

 焦る僕の横では、ようやくセレスもノートを取り出した。
 どうやら、イェレミーの話を図にしているようだ。
 前の方に座るベアトリスも、何やらペンを走らせている。

 ただ、斜め前にいるアインハルト王子は、足を組んだまま微動だにしていない。
 僕と同様に呆気に取られているのだろうか。
 それはそうだろう。もっと初歩的な話をしてもらいたい。
 それか、せめて教科書のような本を渡してほしい。

「以上が、僕の見解です」

 そうこうしているうちに、イェレミーが話を終わらせた。

「では、質疑応答に入る。質問のある者は挙手を」

 オーベリン先生が、椅子から立ち上がって僕たちの方に告げた。
 質問と言われても、まったくわからなかったから、質問のしようがない。
 すると、アインハルト王子が足を組みかえて、イェレミーに質問した。

「今の話だと、風魔法の使い手が飛翔能力を有する説明付けとして弱い。解明したとは言い難いのでは?」
「ご指摘の通り、僕の説明はあくまでも仮説の一つで、すべてを説明するものではありません」

 そして、二人は意見のやり取りを始めた。
 なぜ、授業初日で、一年生のアインハルトは質問に立っているんだ?
 頼むから、それ以上チートはやめてほしい。
 僕は盛大に顔を引きつらせながら、もうノートを取ることも諦めて二人の話を聞くふりをした。なぜなら、言葉の意味すらもさっぱり分からなかったからだ。

 そして、数分にわたって二人が議論を続けていると、オーベリン先生が僕の後方を指し示した。一体何のジェスチャーかと思ったところで、背後から深みのある声が聞こえてきた。

「机上の空論をどれだけ積み上げても無意味だ。君たちは、12年前に王都で起きた風魔法の事件をどう捉えている? 今の解釈では、何ら説明がつかないと思うが?」

 途端に、イェレミーもアインハルトも黙り込む。
 教室が静まり返り、誰も言葉を発さない。

「イェレミー・クレモア。席に戻っていい。ここからは、私が説明しよう」

 そして、オーベリン先生に話は引き継がれ、講義が始まった。
 さっきのイェレミーよりは嚙み砕いた説明をしてくれたため、手も足も出ないという感じはしなかったけれど、圧倒的な知識不足でメモを取るのがやっとだ。あとで参考文献を聞いて勉強しないと、ついて行けそうにない。

 僕は、転生前のことを思い出した。
 ようやく大学に入学した頃のことだ。
 意気揚々と講義に出たら、教授の話がまるで分からなかった。
 同期に聞いてみたところ、「そんなのわからなくても困らない」と言われた。
 そして、「わかろうとするなんて無駄なことだ」とも。
 じゃあ、なんでみんな、大学を受験したんだろう。

 僕は、その疑問を抱いたまま、ゴールデンウィークまで過ごした。
 そして、姉のおつかいに出かけた帰りに事故に遭い、転生する羽目になったのだが。

 今こうして、目の前で同じように授業初日を迎えている。
 でも、前世とはまるで違う。
 ここでは、誰もが真剣で、むしろ僕が一番できていない。
 それなら、望むところだ。
 
 今度こそ、必死に食らいついてやる。
 僕は、全力で勉強して、授業を理解できるようにする。

 そう、一人決意を新たにしたわけだけれど。

 ただ一つ違うのは、僕はまだ15歳で、ここは現実世界で言うところの高校だ。
 ちょっと、展開が早すぎやしないだろうか?

 それにしても、ゲーム上では「授業時間」でしかなくて、ワンクリックで終わらせることのできたイベントの内容が、こんなにハードだなんて聞いていない。
 もしかしたら、この後のクラスもこの調子なんだろうか。
 僕は、初日にしては濃い授業を受け終わり、普通科の教室に向かうために立ち上がった。

 講義室後方にあるドアから出ようとしたところで、デュークと目が合った。
 銀色の瞳でじろりと僕を見ると、立ち上がって前方へと階段を下りていく。
 そして、すれ違いざまにぽつりと口にした。

「これでよく、ファルコ・クラッセに入れたものだ」
「……っ」

 それはそうだ。まったくもって言い返せない。
 だけど、わざわざ聞こえるように言う必要もないだろう?

 僕は、デュークの背中を見送ってから、とぼとぼと講義室を出た。
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