【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第一章 入学

放課後の過ごし方

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 放課後の魔法の自主練習。
 ゲームでは、そんな設定はなかったはずだ。
 
「クリスティアン君も行くのか?」
「クリスでいいよ」

 教室に残っていたクラスメイトに話し掛けられて、僕はそう答えた。

「じゃあ、クリス。オレと行こうぜ」

 どうやら、僕がいない間に、教室内では自主練習について上級生から説明があったらしい。
 場所は、屋外にある修練場だという。

 クラスメイトと二人、遅れて到着すると、中では既に練習が始まっていた。
 空を飛んでいるのは、制服のネクタイの色からして、二年生だ。
 一年生は、赤。二年生は、青。三年生は黒と決められている。
 
 一年生はというと、修練場の手前で先輩たちの動きをただ見つめているだけっぽい。
 それはそうだ。魔法適性はわかっても、まだ初歩的なことさえ教わっていないのだから。
 こんな状態で、修練場にいたところで、見学するくらいの意味しかない。
 
 せっかくさっき、オーベリン先生から参考文献について教わったのだから、できれば図書室に行って勉強したい。
 一応セレスには断っておいた方がいいだろうと修練場を見渡すと、遥か彼方に先輩たちに交じって練習しているのが見えた。
 その場にいるのは、ファルコ・クラッセの面々だ。
 さすがに声までは聞こえないが、楽しそうに話している。
 これなら、僕が離れても大丈夫だろう。

 僕は、修練場を離れて、その足で図書室に向かう。
 図書室は、校舎の北側にあった。ちょうど木の陰になっている場所で、大きな窓があるわりに、中にまでは陽射しが届かない。既に天井には明かりが灯っているが、修練場に比べて薄暗く感じる。
 床にカーペットが敷かれているおかげで、靴音はまったくしない。話す人もいないようで、人影は見えるのにしんと静まり返っている。

 僕はまずカウンターに行って、魔法学の本のある区域を教えてもらった。
 本の並び順はどうなっているのかと規則性がわからず、最初に1冊を探すのに手間取った。それでも、他の本は同じ列の棚にあったため、すぐに目的の本は集まる。同じ本は数冊ずつ取り揃えられていて、僕が借りても他の生徒の分もあるようで問題はなさそうだ。こういうところが学校の図書室という感じがする。

 カウンターでは、一度に5冊まで借りられるとあった。
 机に置いて中身を確認し、選びに選んでまずは参考文献の中から3冊、残り2冊は初心者用の手引書にした。こっちは薄いし専門的でもないから、すぐに読み切れるだろう。
 せっかくだから、少し読んでいってもいいかと、借りる予定にない本も手に取ってみる。四大魔法について図解した本で、授業中にセレスが書いていた図を思い起こした。
 きっと、セレスの頭の中では、もうこれらの情報はインプットされているんだろう。
 僕も、授業に追いついていけるようになりたい。

 カウンターで貸し出し作業をしてもらい、図書室から出ようとしたところで、入り口付近にある自習室が目に入った。中には数人いて、勉強をしている。この人たちは、僕と同じように、魔法の自主練よりも勉強を選んだということか。

 その一番奥の席に、僕は銀色の髪の人物を見つけた。
 机の上に数冊の本を置き、ノートに何かメモしている。
 白く長い指がペンを走らせる姿に、僕は目を引かれた。
 
 ──『これでよく、ファルコ・クラッセに入れたものだ』

 講義室で言われた台詞が蘇った。
 たしかに、僕は言われても仕方のないような人間だ。
 入学したての初日だったとはいえ、受験勉強をしていたわけだから、少しは理解できても良さそうなものだ。どう考えても、僕自身の失態だと捉えられても仕方がない。
 実際は、今日生まれたての赤ちゃんみたいなものなんだが。
 そんな言い訳は通用しないし、もちろん言うつもりもない。

 僕は、デュークに声を掛けることなく、図書室を出て寮に向かった。
 魔法学院で過ごす間、学生は全員、寮に住むことになっている。
 3つある男子寮のうちの1つ、ジラソーレ・ドミトーリオ。
 主に、王族と貴族が暮らす寮だ。
 一応僕は、辺境の子爵家の人間の為、この寮に入ることが許された。

 部屋の中には、既に家から荷物が届いているはずで、僕はそれをこれから片付けなければならない。と言っても、普段は制服で過ごすわけで、それほど荷物量は多くない。

 青い段通の敷かれた廊下を歩いた先、階段を上がったところに部屋はある。
 渡された鍵で開けようとしていると、隣の部屋から人が顔を出した。

 薄い色合いの緑の髪。僕よりも20センチは高い背丈。
 広い肩幅や筋肉質な腕が、制服の上からでも見て取れる。
 黒い瞳で僕を捉えると、口端を上げて笑う。

「隣なんだな。特待生」

 皮肉気に聞こえるが、多分深い意味はないだろう。
 僕は、先に手を差し伸べた。

「クリスティアンだ。クリスと呼んでくれ」

 すると、一瞬目を見開いた後に、今度は屈託のない顔で笑った。

「オレはフレディ。よろしくな」

 僕たちは握手を交わし、軽く自己紹介をした。

「そうか。結構遠くから来たんだな。オレは、生まれも育ちも王都だ」

 だが、それしか言わない。
 自分が、元帥の息子であることを、フレディは敢えて触れなかった。
 この辺りに、フレディの複雑な心境がある。
 
 すぐ上の兄と比べられて、不遇な少年期を送ってきたこと。
 普通は15歳で入るはずの魔法学院に、人より一年遅れて入学したことも、その要因の一つだろう。

 だが、ゲームで知り得たことを、僕は顔には出さなかった。
 知ったかぶりをするのは、フェアじゃないからだ。

 そうして廊下で話していると、不意に僕を呼ぶ声がした。

「もう! 探したんだからね!」

 駆け寄ってきたのは、セレスだ。
 拗ねたような顔をされて謝っていると、フレディが視線で問いかけてきた。

「こっちは、妹のセレスティーヌだ」
「妹?」

 フレディが訊き返すと、セレスが話を引き継いだ。

「私たち、双子なの」
「道理で、二人とも似てるよ」

 似ている? 僕とセレスが?
 たしかに、髪と瞳の色は同じだが、似てはいないだろう。

「じゃ、またな」

 フレディは、気を利かせたのか、そこで僕たちから離れた。
 僕は、その背中を見送った後、セレスと一緒に部屋に入った。
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