【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第二章 寮祭

種目とチーム分け

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 楽しいランチタイムの時間。
 普段なら食堂の中で同級生たちと食べるが、今日は土曜日なのでファルコ・クラッセの面々と一緒だ。

「どうぞこちらへ」

 王子が二人、伯爵令嬢までいるとあって、食堂側の給仕もかしこまって案内してくれた。
 席は、食堂の外のテラス席だ。
 風がそよぎ、とても気持ちがいい。
 
 それなのに、なぜこんなに胃がきゅっと締め付けられ、痛みを訴えているのだろう。
 僕は、4人掛けのテーブルに着いて、そろりと顔ぶれを見回した。
 向かい側の席に、セレスとアインハルト王子。
 そして、僕の隣にはベアトリスが座っている。
 何だ、この配置は。

 通路を挟んだ隣のテーブルにイェレミーとデュークが座って、今日の練習について話している。
 僕もあっちに座りたい。

 席に着いて、さっきの状況の説明を求められるのだろうと思っていた。
 なぜベアトリスが僕にキスをしたのか。頬にとはいえ、キスはキスだ。
 だから、アインハルトの方から口火を切るのだろうと警戒していたが。

「今年も寮祭があるらしいな」

 最初に話題を振ったのは、そのアインハルトだ。

「寮祭、ですか」

 思いも寄らない話題に、僕はオウム返しすることしかできない。

「そういえばそうね。入学して一か月くらいでしたもの。そろそろ準備が始まるわ」

 ベアトリスが話を引き継ぎ、セレスが目を輝かせた。

「寮祭って、どんなことをするんですか?」

 アインハルトにはタメ口だったが、さすがにベアトリスには敬語を使うようだ。

「男子寮の対抗戦がメインで、女子寮は応援するくらいかしら」
「そうなんですか」

 途端にセレスは残念そうにした。
 てっきり自分も何らかの試合に出られると思っていたんだろう。
 
「その代わり、応援合戦があるわ。どちらの寮の応援がより良かったか、男子寮と先生方が選ぶのよ」
「え! 楽しそう!」

 そして、二人は応援の話で盛り上がり始めた。
 その間に料理が運ばれてきて、二人は食事をしながら話し続ける。
 仲睦まじい様子は微笑ましいのだが、僕は内心複雑な心境でいた。

 なぜなら、ベアトリスとセレスは、ゲーム内でこんなに仲良くはなかった。
 寮祭も互いに別の寮にいるため、対抗意識も相俟あいまって最初からベアトリスはケンカ腰だったのだ。それで、セレスもやる気を出して、応援の練習に力を入れるわけで。
 
 でも、今の2人にそんな様子はない。
 どこまでも楽しそうに話し、笑い合っている。

 寮祭では、応援するセレスの姿に、攻略対象たちは好印象を抱く。そして、セレスの寮が勝って、攻略対象と急接近し、ベアトリスは更にセレスに対しての恨みを加速させる。

 確かそんな流れだったはずだ。

 もしかしたら、このあとの展開で、二人は険悪になっていくのかもしれない。だが、今は楽しそうな二人の姿を、僕は見守っていたかった。どうかこのまま仲良くなって、セレスの生涯の友になってあげて欲しい。
 僕は、そう願った。

「なるほど。ベアトリスが惹かれるわけだ」

 突然そんな声がして、僕は二人からアインハルトへと視線を転じた。
 アインハルトは、組んでいた腕を解いて、自分の髪を軽く掻き上げた。

「今の君の顔、保護者のそれだった」
「え……そう、ですか?」

 僕は一体どんな顔をしていたんだろうかと、王子の青い瞳を見つめ返したが、もちろんそこに答えは書いていない。

「君は、セレスだけではなく、ベアトリスに対してもそんな目を向けるのだな」

 そして、王子の身体が緑色に光る。
 今のどこに、好感度を上げる要素があったのか。
 しかも、隣に座るセレスではなく、僕に対する好感度を上げるなんてどうかしている。

 意味がわからず、応えることもできなくなっていると、いつの間にか隣のテーブルのイェレミーにセレスが話しかけていた。

「僕は弓で出るよ。ただ、みんなと寮も違うからライバルということになる」

 そういえば、イェレミーは僕たちとは違う男子寮に所属している。
 グリューン魔法学院の男子寮は三つある。

 僕たちの寮、ジラソーレ。
 イェレミーの住む、ロザート。
 そして、ガローファノだ。
 ちなみに、ガローファノの監督教員が、オーベリン先生となっている。

 女子寮の方は二つで、セレスはペタロに、ベアトリスはフィオーレに住んでいる。

 アインハルトが、何か思い出したようで、宙を見ながら言った。

「たしか、前に父と見たことがある。騎馬戦だったように思うが」
 
 すると、ベアトリスがその言葉を引き継いだ。

「そう。騎馬戦が一番盛り上がるイベントよ」

 普段、魔法と武器で戦う学院の生徒たちが、己の肉体だけで戦う。
 それが寮祭の意義らしい。
 だから、一番激しい戦いとなる騎馬戦が、寮祭のメインイベントというわけだ。
 実際、ジラソーレに所属する攻略対象は、皆この騎馬戦に出る。

 そうして話している間に、デュークが食べ終わったようで、席を立って帰りかけている。
 すると、セレスが声を掛けた。

「デュークは、去年何かに出た?」

 王子相手にため口か。
 そこは、ベアトリス同様に敬語で話しかけるべきじゃないのか。
 僕がハラハラしていると、デュークは肩越しに振り返って答えた。

「リレーだ」
「リレー! その種目もあるのね、楽しみ!」

 二人はその後も一言二言話している。
 僕は、デュークを見ながら感心していた。
 足も速いのか。それはすごい。
 勉強一筋なのかと思いきや、そうではないらしい。
 背が高く、手脚の長い恵まれた体格だ。
 その上、俊敏性もあるなんて。

 僕はついじっと見つめてしまっていたらしく、デュークの視線が僕へ向けられた。
 見下ろしてくる目は、どこまでも冷たい。
 セレスに対する態度とは大違いだ。
 これが、主人公と脇役に対する、攻略対象の温度差なのかもしれない。
 むしろ、ベアトリスとアインハルト王子がおかしい。

 そこまで考えて、僕はハタと気付いた。
 そういえば、ベアトリスは攻略対象ではない。
 僕と同じ、いわば脇役だ。それなのに、脇役同士にイベントが発生するってどういう状況なんだろうか。
 やっぱり、ゲームとはだいぶ違うストーリーになっているのかもしれない。
 では、ラストも違ってくるんだろうか。

 そうして考え込んでいるうちに、楽しいランチタイムが終わり、それぞれの寮へと帰る。
 イェレミーが先に離れてロザートの方へと歩いてき、ベアトリスとセレスとも女子寮に向かうために途中で分かれた。
 最後にアインハルトと僕が残ったわけだけれど、最後までキスの件には触れてこなかった。



 その夜。僕たちはお風呂上り、消灯前の時間に寮の食堂に集められた。
 寮長が進み出て、寮祭についての説明を行う。
 どの種目に誰を選出するか。
 話は紛糾するかと思ったが、割とスムーズに進む。

 立候補や推薦によって次々種目に出る選手が決められていき、寮生は盛り上がっていた。
 僕の普通科のクラスメイトも何人か選ばれていて、上級生と肩を組んで笑い合っている。

「頼りにしているぜ、一年よ」
「お手柔らかにお願いします」
「それは無理ってものだ」

 楽しげな会話を聞いて和んでいると、最後に騎馬戦の選出メンバーと組み分けが発表された。

「では、騎馬戦にはうちの寮からは、このメンバーで出てもらおう」

 黒板には、フレディ、アインハルト、デューク。
 その上、僕の名前があったのだ。

「うそ、でしょ……?」

 ゲームでは、僕の出番はなかったはずだ。
 攻略対象である三人がそれぞれ別のチームの代表となり、競い合うシナリオだった。
 それなのに、三人と僕が一つのチームになるなんて、そんなのアリなのか?

 だが、三年生に対して一年の僕が反対意見を述べたところでどうしようもない。むしろ、反感を買われることになりそうだ。
 結局僕は何も言い出せないまま、騎馬戦にこのチームで出ることになった。
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