【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第二章 寮祭

初めての炎の魔法

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 寮祭まで残り2週間となり、ジラソーレの寮生たちで騎馬戦の練習を開始することになった。寮対抗戦のため、いかに3チーム12人が協力できるかが、勝利の鍵となる。
 選抜されたメンバーで、騎馬戦のルールを学び、それぞれの動きの確認をする。
 そのためには、全員で集まって練習する必要があった。

「クリスの方から、王子2人にも声を掛けてくれないか?」

 寮の先輩にそう言われて、僕は内心弱っていた。
 アインハルトはまだしも、デュークが僕の言葉を聞くとは思えない。
 とはいえ、まさかそのまま先輩に説明するわけにはいかなかった。
 僕は、二人を誘うことを引き受けて、土曜日の魔法練習前に声を掛けることにした。


 
 だが、アインハルトですら僕の申し出を受け入れようとしない。

「当日確認すればいいだろう」

 アインハルトはそう言って、修練場のフィールドで自主練習を始めようとする。

「待ってください。騎馬戦は、当日確認するだけでは到底思ったようには動けません。事前に練習しておかないと難しいです」

 僕はそう言ったけれど、アインハルトは聞く耳を持たない。
 たった一日の遊びよりも、練習の方が大切だ。
 そう態度で示されると、僕も反論のしようがない。

 一方のデュークはというと、目も合わせずに断ってきた。
 曰く、「私は君ほど暇ではない」と。

 僕は、その場に一人取り残されて、項垂れてしまっていたようだ。
 ここまで二人に相手にされないとは、思ってもみなかった。

「困ったものね」

 僕たちを見ていたのだろう。
 ベアトリスが杖を弄びながら近付いてきた。

「クリスはできるだけのことをしたのだから、責任を感じる必要はないわ」

 そうだろうか。
 僕ではなく、もっとしっかりした人であればアインハルトを説得できた。
 僕ほど嫌われていなければ、デュークだって話に耳を貸してくれたかもしれない。

 胸に澱む重苦しい思いを溜息にして吐き出して、落ち込んでいても仕方がないと顔を上げた。
 気を取り直して、今できることをする以外にない。

 今日の練習では、先生が来るまでベアトリスが付き合ってくれることになっている。
 落ち込んでいる暇なんてない。貴重な機会だ。時間が惜しい。

 ベアトリスは僕から火属性の魔力を感じると話していた。
 同じ属性の者同士は引かれ合い、互いの力が読みやすくなるという。

「集中して力を込めれば、きっと能力が発現するはずよ」

 そして、僕のために杖まで用意してくれた。

「この杖は、練習用だけれど、能力の指向性がわかってから杖を作っても遅くはないわ」

 ベアトリスは、僕の手に杖を握らせて、基本的な動作について説明する。

「まずは、背筋をピンと伸ばして、足を肩幅に開く。そして、目を閉じて、杖の先に力を込めるイメージを高めるの」

 僕は言われた通りの姿勢を取ったが、力を込めるイメージというのがわからない。
 思った通りのことを言うと、「そうねえ」とベアトリスは呟いて、僕の背後に回る。

「あなたにとっての炎のイメージを言葉にしてみてくれるかしら」

 僕にとってのイメージ。
 最初に浮かんだのは、ベアトリスとデュークの試合だ。
 青い炎が、とても美しかった。

「青く立ち上がるほむらです。芯が色濃くて、先が鮮やかに光っている」
「いいわよ。その調子」

 ベアトリスが背中に手を当てて、先を促してきた。

「焔は柱のように空に向かってどこまでも伸びていて──」

 途端に、びりっと指先が痺れて、砂嵐が起きたようなざらざらとした音が耳元でした。
 周囲から声が上がり、思わず目を開けると、杖の先から青い火柱が立っていた。

「なに、これ……」
「集中を解かないで。そのまま力を込めて、炎を絞ってみてくださる?」

 炎を絞る。細くしていくってことだろうか。
 すると、幅のあった火柱が、みるみるうちに一本の光線となって修練場の奥まで伸びる。

「奥に黒い人型の的が見えますでしょう? あちらに光線を当ててごらんなさい」

 僕が方向を定めると、人型の的は青い炎に包まれて燃えだし、黒煙が立ち上った。

「そこまで!」

 突然、背後から声がして、頭の中に浮かべていたイメージが失われた。
 それと同時に、杖の先から出ていた光線も掻き消える。

 声の主は、オーベリン先生だった。
 大股で僕に近寄ると、顔を顰めて杖を取り上げる。

「まったく、油断も隙も無いな。急ぎ過ぎだ」

 そして、ベアトリスに険のある眼差しを向ける。

「覚えたての能力を使う危険性について、あれほど教えてきたはずだが、ベアトリス」
「申し訳ございません」

 ベアトリスは言い訳をせずに即座に非を認めて謝罪した。

「ベアトリスさんは、僕の希望を聞いてくれただけです」
「それが駄目だと言っているんだ。上級生だからこそ、危険性を認識して止めるべきなんだ」

 そこからしばらく叱責が続いたが、オーベリン先生が言葉を切ったタイミングで、鋭い声が割って入る。

「まだ続くのであれば、解散してください。私の時間をこれ以上、無駄にしてほしくはない」

 デュークの言葉に、その場が凍り付いた。
 オーベリン先生が、更に何か言うかと思ったが、デュークに対して反論はせずに僕とベアトリスから離れた。

「では、今日は組を変える。最初は、デュークとセレスだ。位置につきたまえ」

 話は終わりとばかりに、次の指示をする。
 その日の授業は始まり、僕は再び見学席に座って、皆の練習を眺めた。
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