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第二章 寮祭
銀色の風
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寮祭当日。
僕は窓を開けて眩しさに目を眇めた。
空はどこまでも高く青く、悩む自分がちっぽけに思えるほどだ。
だが、仕方がない。僕はちっぽけな存在だ。
青い空を見たって、やっぱり心配なのは心配だ。
僕は窓を閉め、運動服に着替えて、食堂で朝食を摂った。
食堂は既に人で溢れていて、みんな既に興奮気味で、いつもより声が大きい。
僕は、落ち着かない気分で席に座り、もくもくとパンを食べる。
しっかり栄養を摂っておかないと。
最後は、体力勝負だ。
準備を終えると、僕たち寮生は全員グラウンドに集結した。
壇上に向かって整列したところで、男子寮3寮の代表によって開会が宣言された。
全員が拍手をし、最初の競技者を残して観客席に座る。
女子寮の応援チームが定位置に着き、準備を始めた。
僕はすぐにチアの中にいるセレスを見つけた。
セレスは僕に気付くと、ぽんぽんを高く掲げて飛び跳ねた。
それと同時に、サイドで結んだ長い金髪もぴょんぴょんと揺れる。
「あれ、クリスの妹か?」
「めちゃくちゃ可愛いな。スタイルいいし」
先輩に言われて、僕は曖昧に笑った。
ゲーム内ではセレス側の視点でしか語られないが、クリス側ではこんなやり取りが行われていたのか。攻略対象以外からも、矢印は向けられている。それはそうだ。我が妹ながらに、整った顔立ちもスタイルの良さも一目瞭然だ。
僕は、セレスに手を振り返してから、自分の席に着いた。
寮祭はまず、障害物競走から始まった。
フィールド400メートルのコースに、所狭しと障害物が並べられている。
さすがにこれは、ひどすぎないか?
登る壁なんて、3メートルはありそうだ。
ハードルも高いし、平均台はその下が泥沼になっている。
くぐり網は鉄製で、棘までついている。
障害物というより拷問器具に近い。
それでも、選手は軽々と通過していっている。
魔法を使わなくとも、元々の身体のスペックが高いということだろう。
もちろんそれは、日々の鍛錬の賜物なんだろうが。
その後の二人三脚もコースの難易度が高い、
真っ直ぐに走るのですら大変なのに、あんなにポールが立っていたら通り抜けるのも一苦労だ。
チーム戦の棒倒しなんか、まさに地獄絵図。
死人が出るんじゃないかと思うほどに熾烈な戦いとなっている。
騎馬戦で良かったと、僕はこっそり思ったんだが。
盛り上がりを見せるということは、これより凄まじい戦いになるんだろうか。
試合の中盤で、チアの応援合戦が挟まれた。
セレスのいるペタロとベアトリスのいるフィオーレ。
それぞれが交互に演技でバトルする。
紺色の制服のペタロとは対照的に、フィオーレは真っ赤なユニフォームだ。
セレスの格好は前に見たことがあったけれど、ベアトリスのユニフォーム姿は初めて見た。セレスのチームが元気溌剌な曇りのない姿とするなら、ベアトリスのチームは大人の女性の優美さと危うさを感じさせる。要するに、動きが蠱惑的だった。
個性と個性のぶつかり合いで、これは甲乙つけがたい。
結果は、大会終了時に、今の演技と応援を加味して発表になるとのことだったが、勝敗を決めるのは難しいに違いない。
チアの応援合戦の後には、弓の競技が行われた。
3分間に割ったバルーンの数で勝敗を決める競技で、両ごとに分かれたチーム戦だ。
「プロンティ!」
全員が配置に着き、一斉に弓を構える。
その中に、イェレミーの姿もあった。
「ヴィア!」
バルーンの割れる破裂音がグラウンドに響く。
3分猶予が与えられているというのに、イェレミーの率いるロザートは開始1分ですべてのバルーンを割っていた。まさに圧勝。同じ試合が5回行われたが、すべてロザートが白星を上げた。
「今年もロザートかあ」
周囲がざわつき、ロザートの寮生が雄叫びを上げた。
「さすがだな。あれほどの魔力をうまく隠している」
突然聞こえてきた声に振り返ると、そこにはオーベリン先生の姿があった。
「魔法、ですか?」
まさか、弓に魔法を乗せていたのか。
オーベリン先生は人差指を立てて、唇に押し当てる。
秘密にしろってことのようだが、僕は傍に寄って声を潜めた。
「ルール違反じゃないんですか?」
「審判にバレればの話だ」
たしかに先生は審判ではないが、ルール違反を見過ごすのかと少し呆れた。監督しているガローファノ寮ならまだわかるが、ロザート寮に勝ちを譲るような真似をするのが理解できない。
だが、見抜いたわけでもない僕が審判に告げ口するわけにはいかない。
どうしようもないことだ。
僕が先生からイェレミーへと視線を移動させたタイミングで、ぼそりと問われた。
「君もなのか? クリスティアン」
「……え?」
君も、とは?
僕がもう一度、オーベリン先生を振り返った時には、もうそこに姿はなかった。
一体どういう意味かと、僕は頭の中でぐるぐると考えた。
その間に、今度はリレーが始まった。
グラウンドには、フレディとデュークの姿がある。
どうやら二人とも、選手に選ばれていたようだ。
このあとすぐに騎馬戦があるのに、それでも足の速さを買われたんだろう。
「プロンティ!」
第一走者のフレディが、スタート地点に立つ。
「ヴィア!」
旗が振り下ろされると同時に、フレディが走り出した。
見る見るうちに、他の生徒を引き離し独走する。
こんなに速かったのかと、僕は驚いていた。
やっぱり僕との練習の時には、合わせてくれていたんだろう。
「フレディ!」
「いけいけー!!」
周囲の声に、僕も大声で名前を呼んだ。
フレディは皆の期待に応え、最後まで全力で走り抜いた。
次の人にバトンを渡して、コースから外れたところでしゃがみ込んでいる。
僕は駆け寄りたいのを我慢して、次の寮生を応援した。
次の寮生にバトンが引き継がれると、そこからペースが落ちた。
フレディが稼いだ距離はあっという間に縮まり、一人二人と抜かされて行く。あとは残すところアンカーのみという局面で、ジラソーレが最下位になった。応援に力は入るものの、やっぱり残念に思ってしまう。
そこで、最終ランナーであるデュークにバトンが渡った。
三年ではなく二年のデュークがアンカーになったのを不思議に思っていたけれど、走り出した瞬間に納得した。
「速い……っ!」
長い脚が地面を蹴り、あっという間に最初の一人を抜き去る。
わっと歓声が上がり、諦めてしょんぼりと座っていた仲間が立ち上がった。
「デューク先輩!!」
応援にも熱が入り、拳を振り上げて叫んでいる。
僕はその中にあって、声も出せずに見入っていた。
銀色の髪がなびき、陽光を反射して煌めいている。額に巻いたハチマキが風に舞い、デュークの足の速さがより際立っている。まるで銀色の風になったみたいだ。両腕を振る姿も、ピンと伸びた背中も、あまりに美しい。息をすることも、瞬きすらも忘れて、僕はデュークの姿を追った。
最後の一人を抜いて、誰よりも早くゴールのテープを切る。
寮生が雄叫びを上げ、拳を突き上げてデュークの名前を呼んでいる。
その声が届いたのか、デュークがこちらを向いて軽く手を挙げた。
「はー、かっこいいなあ。デューク先輩は」
「やっぱり今年もアンカーを任せて良かったよ」
素直に語り合う寮生たちの中で、僕だけが置き去りにされている心地がした。
なぜこんなに、僕の心は震えているんだろう。
気を抜いたら涙が溢れ出そうだ。
「次は、騎馬戦だ」
「ほら、準備しろよ、クリス」
ポンと背中を叩かれて我に返り、僕は強張った身体を動かして、騎馬戦のためにグラウンドの奥へと歩いて行った。
僕は窓を開けて眩しさに目を眇めた。
空はどこまでも高く青く、悩む自分がちっぽけに思えるほどだ。
だが、仕方がない。僕はちっぽけな存在だ。
青い空を見たって、やっぱり心配なのは心配だ。
僕は窓を閉め、運動服に着替えて、食堂で朝食を摂った。
食堂は既に人で溢れていて、みんな既に興奮気味で、いつもより声が大きい。
僕は、落ち着かない気分で席に座り、もくもくとパンを食べる。
しっかり栄養を摂っておかないと。
最後は、体力勝負だ。
準備を終えると、僕たち寮生は全員グラウンドに集結した。
壇上に向かって整列したところで、男子寮3寮の代表によって開会が宣言された。
全員が拍手をし、最初の競技者を残して観客席に座る。
女子寮の応援チームが定位置に着き、準備を始めた。
僕はすぐにチアの中にいるセレスを見つけた。
セレスは僕に気付くと、ぽんぽんを高く掲げて飛び跳ねた。
それと同時に、サイドで結んだ長い金髪もぴょんぴょんと揺れる。
「あれ、クリスの妹か?」
「めちゃくちゃ可愛いな。スタイルいいし」
先輩に言われて、僕は曖昧に笑った。
ゲーム内ではセレス側の視点でしか語られないが、クリス側ではこんなやり取りが行われていたのか。攻略対象以外からも、矢印は向けられている。それはそうだ。我が妹ながらに、整った顔立ちもスタイルの良さも一目瞭然だ。
僕は、セレスに手を振り返してから、自分の席に着いた。
寮祭はまず、障害物競走から始まった。
フィールド400メートルのコースに、所狭しと障害物が並べられている。
さすがにこれは、ひどすぎないか?
登る壁なんて、3メートルはありそうだ。
ハードルも高いし、平均台はその下が泥沼になっている。
くぐり網は鉄製で、棘までついている。
障害物というより拷問器具に近い。
それでも、選手は軽々と通過していっている。
魔法を使わなくとも、元々の身体のスペックが高いということだろう。
もちろんそれは、日々の鍛錬の賜物なんだろうが。
その後の二人三脚もコースの難易度が高い、
真っ直ぐに走るのですら大変なのに、あんなにポールが立っていたら通り抜けるのも一苦労だ。
チーム戦の棒倒しなんか、まさに地獄絵図。
死人が出るんじゃないかと思うほどに熾烈な戦いとなっている。
騎馬戦で良かったと、僕はこっそり思ったんだが。
盛り上がりを見せるということは、これより凄まじい戦いになるんだろうか。
試合の中盤で、チアの応援合戦が挟まれた。
セレスのいるペタロとベアトリスのいるフィオーレ。
それぞれが交互に演技でバトルする。
紺色の制服のペタロとは対照的に、フィオーレは真っ赤なユニフォームだ。
セレスの格好は前に見たことがあったけれど、ベアトリスのユニフォーム姿は初めて見た。セレスのチームが元気溌剌な曇りのない姿とするなら、ベアトリスのチームは大人の女性の優美さと危うさを感じさせる。要するに、動きが蠱惑的だった。
個性と個性のぶつかり合いで、これは甲乙つけがたい。
結果は、大会終了時に、今の演技と応援を加味して発表になるとのことだったが、勝敗を決めるのは難しいに違いない。
チアの応援合戦の後には、弓の競技が行われた。
3分間に割ったバルーンの数で勝敗を決める競技で、両ごとに分かれたチーム戦だ。
「プロンティ!」
全員が配置に着き、一斉に弓を構える。
その中に、イェレミーの姿もあった。
「ヴィア!」
バルーンの割れる破裂音がグラウンドに響く。
3分猶予が与えられているというのに、イェレミーの率いるロザートは開始1分ですべてのバルーンを割っていた。まさに圧勝。同じ試合が5回行われたが、すべてロザートが白星を上げた。
「今年もロザートかあ」
周囲がざわつき、ロザートの寮生が雄叫びを上げた。
「さすがだな。あれほどの魔力をうまく隠している」
突然聞こえてきた声に振り返ると、そこにはオーベリン先生の姿があった。
「魔法、ですか?」
まさか、弓に魔法を乗せていたのか。
オーベリン先生は人差指を立てて、唇に押し当てる。
秘密にしろってことのようだが、僕は傍に寄って声を潜めた。
「ルール違反じゃないんですか?」
「審判にバレればの話だ」
たしかに先生は審判ではないが、ルール違反を見過ごすのかと少し呆れた。監督しているガローファノ寮ならまだわかるが、ロザート寮に勝ちを譲るような真似をするのが理解できない。
だが、見抜いたわけでもない僕が審判に告げ口するわけにはいかない。
どうしようもないことだ。
僕が先生からイェレミーへと視線を移動させたタイミングで、ぼそりと問われた。
「君もなのか? クリスティアン」
「……え?」
君も、とは?
僕がもう一度、オーベリン先生を振り返った時には、もうそこに姿はなかった。
一体どういう意味かと、僕は頭の中でぐるぐると考えた。
その間に、今度はリレーが始まった。
グラウンドには、フレディとデュークの姿がある。
どうやら二人とも、選手に選ばれていたようだ。
このあとすぐに騎馬戦があるのに、それでも足の速さを買われたんだろう。
「プロンティ!」
第一走者のフレディが、スタート地点に立つ。
「ヴィア!」
旗が振り下ろされると同時に、フレディが走り出した。
見る見るうちに、他の生徒を引き離し独走する。
こんなに速かったのかと、僕は驚いていた。
やっぱり僕との練習の時には、合わせてくれていたんだろう。
「フレディ!」
「いけいけー!!」
周囲の声に、僕も大声で名前を呼んだ。
フレディは皆の期待に応え、最後まで全力で走り抜いた。
次の人にバトンを渡して、コースから外れたところでしゃがみ込んでいる。
僕は駆け寄りたいのを我慢して、次の寮生を応援した。
次の寮生にバトンが引き継がれると、そこからペースが落ちた。
フレディが稼いだ距離はあっという間に縮まり、一人二人と抜かされて行く。あとは残すところアンカーのみという局面で、ジラソーレが最下位になった。応援に力は入るものの、やっぱり残念に思ってしまう。
そこで、最終ランナーであるデュークにバトンが渡った。
三年ではなく二年のデュークがアンカーになったのを不思議に思っていたけれど、走り出した瞬間に納得した。
「速い……っ!」
長い脚が地面を蹴り、あっという間に最初の一人を抜き去る。
わっと歓声が上がり、諦めてしょんぼりと座っていた仲間が立ち上がった。
「デューク先輩!!」
応援にも熱が入り、拳を振り上げて叫んでいる。
僕はその中にあって、声も出せずに見入っていた。
銀色の髪がなびき、陽光を反射して煌めいている。額に巻いたハチマキが風に舞い、デュークの足の速さがより際立っている。まるで銀色の風になったみたいだ。両腕を振る姿も、ピンと伸びた背中も、あまりに美しい。息をすることも、瞬きすらも忘れて、僕はデュークの姿を追った。
最後の一人を抜いて、誰よりも早くゴールのテープを切る。
寮生が雄叫びを上げ、拳を突き上げてデュークの名前を呼んでいる。
その声が届いたのか、デュークがこちらを向いて軽く手を挙げた。
「はー、かっこいいなあ。デューク先輩は」
「やっぱり今年もアンカーを任せて良かったよ」
素直に語り合う寮生たちの中で、僕だけが置き去りにされている心地がした。
なぜこんなに、僕の心は震えているんだろう。
気を抜いたら涙が溢れ出そうだ。
「次は、騎馬戦だ」
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