【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

文字の大きさ
15 / 55
第二章 寮祭

騎馬戦本番

しおりを挟む
 リレーを観戦し終えて、騎馬戦の集合場所に向かっていると、途中でセレスとベアトリスに出くわした。二人とも応援合戦を終え、緊張が解けているようだ。

「さっきのリレー、すごかったね!」

 セレスが朗らかに笑い、ベアトリスも頷いている。

「デューク王子は、本当に素晴らしい脚をしていらっしゃるわ」

 脚だけじゃない。
 僕は、さっきの姿を思い出しかけて、情景を追いやろうと頭を振った。

「ねえ、クリス。それより何か言うことない?」

 そう訊かれて、目配せをされてすぐに気付く。
 要するに、ベアトリスについて何か言えということなんだろう。
 僕は、応援合戦の時のことを頭に浮かべながら伝えた。

「応援、とても素敵でした。ユニフォームも似合っているし、何よりダンスが素晴らしかったです。動きに切れがあって、それでいてとても優美で──ってうわ!」

 突然ベアトリスに抱き着かれて、僕は驚いて及び腰になる。

「ベアトリス、さん?」
「ありがとう。あなたに褒めてもらえて、本当に嬉しいわ」

 そして、にっこりと微笑んだ。

「あなたの言葉には嘘がない。追従でもなく、本心からだとわかります」
「もちろん、本心からです」

 喜んでもらえたのは嬉しいが、抱き着かれたままだと心臓に悪い。
 だが、こちらから離れてくれとは言いづらい。

「お前には、ベアトリスも警戒心なく打ち解けるんだな」

 突然そんな言葉が聞こえてきて、振り返るとアインハルトが立っていた。
 感情の読み取れない表情に、僕は我知らず一歩退いた。
 感情の起伏がない方が、いつもよりも凄味がある。
 僕が、言葉を返せないでいると、アインハルトから言った。

「なかなか来ないから、呼びに来た」
「え! すみません……っ」

 アインハルトが呼びに来ることになるなんて、あまりに申し訳なさすぎる。
 騎馬戦の時間が差し迫っていることを失念してしまっていた。

「──行くぞ」

 どこかぶっきらぼうに言われて、僕はもしかしたら、と思う。
 ベアトリスは、アインハルトの婚約者だ。
 もしかして、いつもとは違う表情をしているのは、僕とベアトリスのやり取りを見ていたからか?
 アインハルトの後ろを歩きながら考えていたが、まさかこちらから話は振れない。
 第一、釈明するようなことでもないはずだ。

「おーい、こっちだ!」

 グラウンドの待機場所が見えてくると、フレディが僕たちを手招きした。
 そして、手にしていたシャツを僕とアインハルトに渡してくる。
 鮮やかな黄色いシャツだ。まるで夏に咲き誇るひまわりのように。
 どうやら、うちの寮のイメージカラーらしい。

「試合ではそのシャツとハチマキをするらしいよ。あと、騎手が帽子を被る」

 なるほど。
 騎手の帽子を取れば勝ち、取られれば負けというルールだった。
 だから、上に乗る騎手だけ帽子を被るわけだ。

「それで、誰が騎手になりますか?」

 背の高い方が有利だと言われているし、俊敏なフレディがいいだろうか。
 僕が考えながら訊ねると、変な沈黙が生じた。

「誰って、お前」

 アインハルトは呆れたように言い、デュークは胸の前で腕を組んでじろりと睨む。
 何か変なことを聞いただろうか。
 すると、フレディがぽんぽんと僕の肩を叩く。

「騎手なんて、お前以外にいないだろ」
「……はい?」

 アインハルトが、当然だとでも言いたげに頷いた。
 デュークも否定はしない。

 僕が上に乗る?
 嘘でしょ。

「お前が俺たちの誰かを支えられるとでも?」

 アインハルトに逆に訊ねられて、ぐうの音も出ない。
 それは、そうだけれど。
 この三人を土台にして、その上に僕が立つって、あり得ないと思うんだが。

 僕が狼狽えている間にも、三人は話を進めている。

「問題は誰がどのポジションに立つかだが」

 アインハルトがそう前置きし、フレディが自分を指差しながら質問してきた。

「で? オレはどこを担当すればいい?」
「え、僕が決めるのか?」

 フレディの問いに逆に問うと、また奇妙な間が生じた。

「当然、騎手が決める」

 話を引き継いだのはデュークだ。
 早くしろと言わんばかりに、指先で自身の腕をタップしている。

 騎馬は、三角形を描くような配置で作る。
 となると、前はフレディがいい。
 全体を見通して、機敏に動ける人といえば、フレディだろう。
 そして、後方に王子二人を配置したい。

 僕が希望を述べると、すぐに騎馬が組まれた。
 しっかりと、あぶみとなる手を繋ぎ、僕に足を乗せるよう促してくる。
 躊躇いがちに手に足を乗せて、フレディの肩に跨る。

 高い!
 想像以上に地面が遠くて、僕は思わずフレディの頭を掴んで身体を支えた。

「ごめん、フレディ」
「気にするなって」

 そうして騎馬に乗ったところで、白線の外側のスタート地点に立つように言われた。
 もう本番なのか。
 打ち合わせどころか、まだ走ったこともないのに。

 三寮の代表選手がすべて位置につくと、審判が手を挙げた。

「プロンティ!」

 途端に、ぞくりと背中を何かが駆け上がった。
 一体、何が……?
 そう思った途端に理解した。
 これは、三人の気迫だ。
 びりびりと空気を揺るがすほどの闘気。
 あんなに遊び扱いしていたのに、三人とも勝つ気でいる。

「ヴィア!」

 手が振り下ろされた途端に、向かい側にいた選手が飛び出してきた。

「指示を出せ!」

 アインハルトが下から言ってきて、僕は進行方向を指差した。

「方向を言え」

 深みのある声で命じられて、僕は考える。

「2時の方向に走って!」

 すると、ぐいと上半身が背後に倒れかけるほどの速さで前進した。

「うわっ」
「もっと脚に力を入れてバランスを取れ」

 アインハルトに言われて、三人の手を踏み締める。
 後ろにいるデュークやアインハルトとは、走っている間は話ができそうにない。
 フレディに指示を出すのでやっとだ。

「背後に回り込まれている」

 前しか注視せずにいると、デュークがそう言ってきた。

「右に旋回!」

 僕が告げると、急速旋回して敵の手を避けた。

「そのまま止まって!」

 僕は指示を出し、バランスを何とか取りながら、相手の帽子を奪った。

「ナイス!」

 フレディが喜びの声を上げ、僕はようやく一つ帽子を取れたことにホッとした。
 あと帽子は5つだ。

 見回すと、味方の一人は既に帽子を取られて、線の外側に戻っている。
 全員帽子を被っているのは、赤のシャツを着た寮だ。
 
 ロザートだ。
 あそこは、イェレミーのいる寮で、総合得点もかなり高い。
 騎馬戦で不利になれば、ロザートが優勝するのは間違いない。

「フレディ!」
「おう!」

 向かい側から迫ってくる相手に、こちらから駆け寄り、フレディの方へと身を倒す。高さを使って相手の頭に手をやり、帽子を奪おうとするも混戦模様になる。
 騎馬がぶつかり合い、土煙が上がる。相手チームは衝撃で崩れかけているが、こちらの騎馬はびくともしない。
 さすがはアインハルトとデュークだ。
 後方でしっかり支えてくれている。

「大丈夫ですか? 怪我は?」
「俺たちのことはいい」
「気を抜くな」

 下からそんな声が聞こえてきて、僕は顔を上げて前方を見た。
 次々に襲い掛かってくる騎馬に、こちらから体当たりを仕掛ける。
 最初はフレディに掴まっていたが、僕は手を離して、猛然と掴みかかった。

 僕たちが帽子を奪っている間に、味方チームは総崩れを起こしていた。
 こうなったら、僕たちだけで全員から剥ぎ取るしかない。

 そうして、帽子を取りに行っては離脱し、伸びてくる手から間一髪で逃げ、立ち向かった。

 もう一つ、ガローファの白い帽子を取った途端に、ホイッスルが鳴った。
 気が付けば残っていたのは僕たちだけだった。

「勝った……?」
「ああ、勝ったな」

 フレディは、掠れた声で僕の問いに答える。
 これだけ走っていたんだ。
 さすがのフレディでも息が上がるだろう。

 僕は終わったことにホッとして、危うく騎馬から落ちてしまいそうになった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

役目を終えた悪役令息は、第二の人生で呪われた冷徹公爵に見初められました

綺沙きさき(きさきさき)
BL
旧題:悪役令息の役目も終わったので第二の人生、歩ませていただきます 〜一年だけの契約結婚のはずがなぜか公爵様に溺愛されています〜 【元・悪役令息の溺愛セカンドライフ物語】 *真面目で紳士的だが少し天然気味のスパダリ系公爵✕元・悪役令息 「ダリル・コッド、君との婚約はこの場をもって破棄する!」 婚約者のアルフレッドの言葉に、ダリルは俯き、震える拳を握りしめた。 (……や、やっと、これで悪役令息の役目から開放される!) 悪役令息、ダリル・コッドは知っている。 この世界が、妹の書いたBL小説の世界だと……――。 ダリルには前世の記憶があり、自分がBL小説『薔薇色の君』に登場する悪役令息だということも理解している。 最初は悪役令息の言動に抵抗があり、穏便に婚約破棄の流れに持っていけないか奮闘していたダリルだが、物語と違った行動をする度に過去に飛ばされやり直しを強いられてしまう。 そのやり直しで弟を巻き込んでしまい彼を死なせてしまったダリルは、心を鬼にして悪役令息の役目をやり通すことを決めた。 そしてついに、婚約者のアルフレッドから婚約破棄を言い渡された……――。 (もうこれからは小説の展開なんか気にしないで自由に生きれるんだ……!) 学園追放&勘当され、晴れて自由の身となったダリルは、高額な給金につられ、呪われていると噂されるハウエル公爵家の使用人として働き始める。 そこで、顔の痣のせいで心を閉ざすハウエル家令息のカイルに気に入られ、さらには父親――ハウエル公爵家現当主であるカーティスと再婚してほしいとせがまれ、一年だけの契約結婚をすることになったのだが……―― 元・悪役令息が第二の人生で公爵様に溺愛されるお話です。

冷酷無慈悲なラスボス王子はモブの従者を逃がさない

北川晶
BL
冷徹王子に殺されるモブ従者の子供時代に転生したので、死亡回避に奔走するけど、なんでか婚約者になって執着溺愛王子から逃げられない話。 ノワールは四歳のときに乙女ゲーム『花びらを恋の数だけ抱きしめて』の世界に転生したと気づいた。自分の役どころは冷酷無慈悲なラスボス王子ネロディアスの従者。従者になってしまうと十八歳でラスボス王子に殺される運命だ。 四歳である今はまだ従者ではない。 死亡回避のためネロディアスにみつからぬようにしていたが、なぜかうまくいかないし、その上婚約することにもなってしまった?? 十八歳で死にたくないので、婚約も従者もごめんです。だけど家の事情で断れない。 こうなったら婚約も従者契約も撤回するよう王子を説得しよう! そう思ったノワールはなんとか策を練るのだが、ネロディアスは撤回どころかもっと執着してきてーー!? クールで理論派、ラスボスからなんとか逃げたいモブ従者のノワールと、そんな従者を絶対逃がさない冷酷無慈悲?なラスボス王子ネロディアスの恋愛頭脳戦。

悪役令嬢のモブ兄に転生したら、攻略対象から溺愛されてしまいました

藍沢真啓/庚あき
BL
俺──ルシアン・イベリスは学園の卒業パーティで起こった、妹ルシアが我が国の王子で婚約者で友人でもあるジュリアンから断罪される光景を見て思い出す。 (あ、これ乙女ゲームの悪役令嬢断罪シーンだ)と。 ちなみに、普通だったら攻略対象の立ち位置にあるべき筈なのに、予算の関係かモブ兄の俺。 しかし、うちの可愛い妹は、ゲームとは別の展開をして、会場から立ち去るのを追いかけようとしたら、攻略対象の一人で親友のリュカ・チューベローズに引き止められ、そして……。 気づけば、親友にでろっでろに溺愛されてしまったモブ兄の運命は── 異世界転生ラブラブコメディです。 ご都合主義な展開が多いので、苦手な方はお気を付けください。

転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!

梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。 あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。 突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。 何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……? 人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。 僕って最低最悪な王子じゃん!? このままだと、破滅的未来しか残ってないし! 心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!? これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!? 前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー! 騎士×王子の王道カップリングでお送りします。 第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。 本当にありがとうございます!! ※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います

BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生! しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!? モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....? ゆっくり更新です。

【完結】義妹(いもうと)を応援してたら、俺が騎士に溺愛されました

未希かずは(Miki)
BL
第13回BL大賞 奨励賞 受賞しました。 皆さまありがとうございます。 「ねえ、私だけを見て」 これは受けを愛しすぎて様子のおかしい攻めのフィンと、攻めが気になる受けエリゼオの恋のお話です。 エリゼオは母の再婚により、義妹(いもうと)ができた。彼には前世の記憶があり、その前世の後悔から、エリゼオは今度こそ義妹を守ると誓う。そこに現れた一人の騎士、フィン。彼は何と、義妹と両想いらしい。まだ付き合えていない義妹とフィンの恋を応援しようとするエリゼオ。けれどフィンの優しさに触れ、気付けば自分がフィンを好きになってしまった。 「この恋、早く諦めなくちゃ……」 本人の思いとはうらはらに、フィンはエリゼオを放っておかない。 この恋、どうなる!? じれキュン転生ファンタジー。ハピエンです。 番外編。 リナルド×ガルディア。王族と近衞騎士の恋。 ――忠誠を誓った相手を、愛してはいけないと思っていた。切ない身分差、年の差の恋。恋の自覚は、相手が成人してからになります。

処理中です...