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第二章 寮祭
喜びと哀しみと
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スタート位置の線まで戻り、三人はゆっくりと僕を地面に下ろした。
頭の上に手が置かれて、帽子の上から撫でられる。
「よくやった」
アインハルトは笑って、尚も撫で続ける。
これでも同じ年なんだが、僕は手を避けずに応えた。
「いえ、僕の力じゃありません」
即座に否定すると、「君の力でもあるだろう」と言う声がした。
すぐに誰の声かはわかったが、僕は声のした方を振り向けない。
今相手の顔を見たら、今度こそ感情を抑えきれなくなる。
この迸るような衝動を、早く消し去りたい。
そのためには、これ以上の刺激は要らない。
「何だよ、もっと喜べって」
フレディが肘で小突いてきたが、僕は強張った笑みを作るので精一杯だった。
ジラソーレの寮生が集まってきて、最終結果を見守った。
当然、総合得点でもジラソーレが優勝となった。
グラウンドに歓声が上がり、口笛が吹かれた。
ライバル寮のメンバーも、みんな拍手を送ってくれている。
「胴上げするぞ!」
「まずはデューク王子だ!」
ジラソーレの寮生が駆け寄ってきて、デュークを支えて胴上げしようとする。
差し出されたたくさんの腕の上に、デュークは嫌がることなく仰向けに横たわる。僕はその様子を、少し離れたところから見つめた。本当は胴上げを一緒にしたかったけれど、今はそんなことできない。やがて、デュークが宙を飛んだ。
もしかしたら、去年も胴上げされたんだろうか。
全く動じた様子がない。
その後、フレディやアインハルトも胴上げされた。
アインハルトはもちろんのこと、フレディも動揺した様子がない。
もしかしたら、みんな胴上げ経験があるんだろうか。
それとも、このくらいのこと、どうってこともないくらいに落ち着いているのか。
恐らく両方なんだろう。
やがて僕にも順番が回ってきて、最初は断った。
「ほら、こっち来いって」
胴上げされるなんて初めてで、僕は地上で身体を支えられるのさえ怖かった。
仰向けになって上げられた瞬間、怖くて目を瞑る。
すると、一際大きな歓声とざわめき、そして口笛が鳴らされた。
「すげーな」
「さすが特待生」
何を言われているのかわからずに目を開けると、僕は宙に浮いていた。
胴上げのせいじゃない。空中に上げられたまま浮遊していたのだ。
「え……どうして……?」
自覚した途端に、ぐらりと身体が傾いだ。
すると、デュークが僕に向けて両腕を伸ばしてくる。
僕は、慌ててその腕に掴まり、胸で受け止めてもらった。
強い力で支えられたことに胸が騒いだが、そんな場合じゃない。
なんとか地面に足を下ろして、ホッと息を吐き、僕はお礼を言おうと顔を上げた。
だがそこで、デュークの顔を見て、息が止まる。
顔を顰め、眉根を寄せて、銀色の瞳を眇めている。
憎々しいものでも見る表情に、脳内で警鐘が鳴った。
「やはり、隠していたわけか」
低い声で言われて、何を誤解されたのかに気付き、僕は慌てて否定した。
「違います、僕は……っ」
「言い訳は不要だ。理由を説明されたところで、私は君の言葉を信じない」
きっぱりと言い切り、デュークは僕に背を向ける。
違う。そうじゃない。聞いてほしい。
心の中に感情が渦巻いて、声が出ない。
ぐらぐらと目の前が揺れて、足元が歪んだように感じられた。
「クリス、お前、酷い顔色だ。座れよ」
「何だ、貧血か?」
フレディやアインハルトが心配してくれたが、身体の震えが止まらない。
僕は、声も出せないまま、必死に自分の感情を押し殺して立ち尽くした。
「いいリーダーだった」
アインハルトに言われて、僕はぎこちなく笑う。
「ありがとな」
フレディには感謝されて、僕は視線で問いかけた。
「お前がオレを信じてくれたから勝てたんだ」
身体が緑色に光り、フレディの好感度が上がったのが見て取れた。
だが今は、それを分析できるほど脳が働いていない。
次いで、応援合戦の結果も発表されて、女子寮はセレスのいるペタロが勝った。
お祝いを言おうと近付くと、セレスとベアトリスが互いに手を取り、喜び合っていた。
「みんな可愛かったもの。中でもあなたが飛び切り可愛かったわ」
「ベアトリスさんの方こそ。とてもきれいで。私、感動しました」
ゲームの2人からは想像できない情景だ。
二人の顔を交互に見て、ようやく心が落ち着いてきた。
遠巻きに見守っていると、肩に手を置かれた。
「良かったな」
アインハルトが隣に立って、僕にそう言ってきた。
「はい、セレスに生涯の友が出来そうで、僕は嬉しいです」
すると、僕の肩に手を置き、アインハルトは耳元で囁いた。
「やっぱり、お前には人たらしの才能がある。──気に入った」
そして、頬に熱く柔らかいものが押し当てられる。
チュッと音を立てて離れていく存在。
僕はその段になって、頬にキスをされたのだと気付く。
どうして、僕なんだ?
好感度が上がるのは、セレスのはずじゃないか。
アインハルトはセレスの攻略対象だ。
その上、この場には婚約者のベアトリスだっているのに。
もう何が何だかわからない。
思考が千々に飛んで、収拾がつきそうにない。
「ごめん、なさい」
「クリス? おい、どこに行くんだよ!」
僕は気付けば駆け出していた。
もう、誰にも見られたくない。
僕に構わないでくれ。
そうして、グラウンドを走って抜けていき、僕は講堂の裏まで行った。
誰もいないことを確認したところで、声に出して泣いてしまう。
何がこんなに哀しくて、どうして自分がしゃくりあげているのかわからない。
でも、どうしても今は、涙を止めることができなかった。
初めての寮祭は涙のうちに終わり、季節は夏へと変わろうとしていた。
頭の上に手が置かれて、帽子の上から撫でられる。
「よくやった」
アインハルトは笑って、尚も撫で続ける。
これでも同じ年なんだが、僕は手を避けずに応えた。
「いえ、僕の力じゃありません」
即座に否定すると、「君の力でもあるだろう」と言う声がした。
すぐに誰の声かはわかったが、僕は声のした方を振り向けない。
今相手の顔を見たら、今度こそ感情を抑えきれなくなる。
この迸るような衝動を、早く消し去りたい。
そのためには、これ以上の刺激は要らない。
「何だよ、もっと喜べって」
フレディが肘で小突いてきたが、僕は強張った笑みを作るので精一杯だった。
ジラソーレの寮生が集まってきて、最終結果を見守った。
当然、総合得点でもジラソーレが優勝となった。
グラウンドに歓声が上がり、口笛が吹かれた。
ライバル寮のメンバーも、みんな拍手を送ってくれている。
「胴上げするぞ!」
「まずはデューク王子だ!」
ジラソーレの寮生が駆け寄ってきて、デュークを支えて胴上げしようとする。
差し出されたたくさんの腕の上に、デュークは嫌がることなく仰向けに横たわる。僕はその様子を、少し離れたところから見つめた。本当は胴上げを一緒にしたかったけれど、今はそんなことできない。やがて、デュークが宙を飛んだ。
もしかしたら、去年も胴上げされたんだろうか。
全く動じた様子がない。
その後、フレディやアインハルトも胴上げされた。
アインハルトはもちろんのこと、フレディも動揺した様子がない。
もしかしたら、みんな胴上げ経験があるんだろうか。
それとも、このくらいのこと、どうってこともないくらいに落ち着いているのか。
恐らく両方なんだろう。
やがて僕にも順番が回ってきて、最初は断った。
「ほら、こっち来いって」
胴上げされるなんて初めてで、僕は地上で身体を支えられるのさえ怖かった。
仰向けになって上げられた瞬間、怖くて目を瞑る。
すると、一際大きな歓声とざわめき、そして口笛が鳴らされた。
「すげーな」
「さすが特待生」
何を言われているのかわからずに目を開けると、僕は宙に浮いていた。
胴上げのせいじゃない。空中に上げられたまま浮遊していたのだ。
「え……どうして……?」
自覚した途端に、ぐらりと身体が傾いだ。
すると、デュークが僕に向けて両腕を伸ばしてくる。
僕は、慌ててその腕に掴まり、胸で受け止めてもらった。
強い力で支えられたことに胸が騒いだが、そんな場合じゃない。
なんとか地面に足を下ろして、ホッと息を吐き、僕はお礼を言おうと顔を上げた。
だがそこで、デュークの顔を見て、息が止まる。
顔を顰め、眉根を寄せて、銀色の瞳を眇めている。
憎々しいものでも見る表情に、脳内で警鐘が鳴った。
「やはり、隠していたわけか」
低い声で言われて、何を誤解されたのかに気付き、僕は慌てて否定した。
「違います、僕は……っ」
「言い訳は不要だ。理由を説明されたところで、私は君の言葉を信じない」
きっぱりと言い切り、デュークは僕に背を向ける。
違う。そうじゃない。聞いてほしい。
心の中に感情が渦巻いて、声が出ない。
ぐらぐらと目の前が揺れて、足元が歪んだように感じられた。
「クリス、お前、酷い顔色だ。座れよ」
「何だ、貧血か?」
フレディやアインハルトが心配してくれたが、身体の震えが止まらない。
僕は、声も出せないまま、必死に自分の感情を押し殺して立ち尽くした。
「いいリーダーだった」
アインハルトに言われて、僕はぎこちなく笑う。
「ありがとな」
フレディには感謝されて、僕は視線で問いかけた。
「お前がオレを信じてくれたから勝てたんだ」
身体が緑色に光り、フレディの好感度が上がったのが見て取れた。
だが今は、それを分析できるほど脳が働いていない。
次いで、応援合戦の結果も発表されて、女子寮はセレスのいるペタロが勝った。
お祝いを言おうと近付くと、セレスとベアトリスが互いに手を取り、喜び合っていた。
「みんな可愛かったもの。中でもあなたが飛び切り可愛かったわ」
「ベアトリスさんの方こそ。とてもきれいで。私、感動しました」
ゲームの2人からは想像できない情景だ。
二人の顔を交互に見て、ようやく心が落ち着いてきた。
遠巻きに見守っていると、肩に手を置かれた。
「良かったな」
アインハルトが隣に立って、僕にそう言ってきた。
「はい、セレスに生涯の友が出来そうで、僕は嬉しいです」
すると、僕の肩に手を置き、アインハルトは耳元で囁いた。
「やっぱり、お前には人たらしの才能がある。──気に入った」
そして、頬に熱く柔らかいものが押し当てられる。
チュッと音を立てて離れていく存在。
僕はその段になって、頬にキスをされたのだと気付く。
どうして、僕なんだ?
好感度が上がるのは、セレスのはずじゃないか。
アインハルトはセレスの攻略対象だ。
その上、この場には婚約者のベアトリスだっているのに。
もう何が何だかわからない。
思考が千々に飛んで、収拾がつきそうにない。
「ごめん、なさい」
「クリス? おい、どこに行くんだよ!」
僕は気付けば駆け出していた。
もう、誰にも見られたくない。
僕に構わないでくれ。
そうして、グラウンドを走って抜けていき、僕は講堂の裏まで行った。
誰もいないことを確認したところで、声に出して泣いてしまう。
何がこんなに哀しくて、どうして自分がしゃくりあげているのかわからない。
でも、どうしても今は、涙を止めることができなかった。
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