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第三章 結末
日々是鍛錬
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普通科の授業が終わり、ほとんどの生徒が修練場に向かう。
僕は、図書室に本を返してからその波に入り、廊下を歩いていた。
隣にセレスの姿はない。
きっと先に修練場に着いて、もう訓練を始めているはずだ。
前はどこに行くにもついてきていたが、今は自分の時間を優先するようになっている。
兄である僕から卒業できたことは、彼女にとっていいことだ。
それは、実はゲームの中ではなかった変化で、僕にとっては喜ばしい。
修練場につくと既に自主練習が始まっていた。
決まったエリアでそれぞれが練習することになっていて、手前が一年生、左が二年生、右が三年生だ。
そして、最奥がファルコ・クラッセのメンバーのエリアだ。
前は一年生のエリアで見学していたが、今は僕もファルコ・クラッセのメンバーと共に自主練習をするようになっていた。
「まだオレンジが強いですわね。もう少し、温度を上げられるはずよ」
「はい!」
ベアトリスとセレスが、火の魔法の訓練を行っている。
学年は二年も開いているが、二人の友情は日々確かなものになりつつある。
違う女子寮に住んでいても、セレスは何かにつけベアトリスの部屋を訪れているらしい。勉強を教わるとか訓練をするとか、それだけではなくて、お互いに自分の話をすることも多いようだ。内容については、さすがに把握していないが、二人でいる時間について僕に語る様子は、とても楽しそうでホッとする。
「クリス、何をしている」
既に訓練を始めていたアインハルトが、僕を呼ぶ。
「今行きます!」
アインハルトは、デュークと共に水魔法の練習をしていたようだ。
僕は最近、この二人と共に水魔法について勉強している。
飛翔ができるということで、最初はアインハルトと風魔法の練習もしてみたが、どうやら飛翔以外の能力はからきしのようで、すぐに見切りをつけた。
それよりも、潜在的に強い能力のある水魔法を伸ばす方がいいというのが、オーベリン先生の見立てだ。
水魔法の練習と言っても、一番の使い手であるデュークから何か言ってくるということはない。
デュークの練習相手にアインハルトが立候補して、二人で競い合っているのを僕が見学するという状況だ。見て覚えているうちに、感覚が研ぎ澄まされて、能力の発現が速まることが長年の研究で実証されている。恐らく僕にも効果的だろうと、こうして見学するチャンスをもらっていた。
今僕が何とか使えるのは、火属性の能力だけだ。中でも炎の魔法は、ベアトリスのおかげで辛うじて使える。
土属性の能力は、どうやら持ち合わせていないらしい。
各属性について、手探り状態なのには理由がある。
通常なら、測定器で属性と大まかなレベルがわかるのだが、未だに僕の能力測定ができていない。
見当がつかない以上、こうして発現を待つしかない。
当初は、僕がすべての能力を持ち合わせているくせに、意図的にそれを隠していると思われていたようだけれど、あまりのポンコツ具合に疑惑は払拭されたようだ。
それは、本当は情けないことなのかもしれないが、僕は内心喜んでいた。
なぜなら、僕を警戒していたデュークの態度が、少しだけ和らいだからだ。
未だに直接二人きりで話すことはないが、険しい視線で射竦められることも、取り付く島もない態度を取られることもなくなった。冷たくあしらわれることがない。たったそれだけのことなのに、僕にとっては大きな変化だと言える。
寮祭以来、食堂や大浴場で顔を合わせても気まずかったが、今はそこまでデュークとの間に壁を感じない。近くに存在することを許してもらえている。そんな気がする。
僕たち5人が自主練習をする中、イェレミーだけはこの場にいない。
弓の練習をしているのかと思いきや、話によると研究室にいるという。
グリューン魔法学院には、魔法の研究所があって、教授が各研究室に所属している。イェレミーはどうやらその研究室の一つに、オブザーバーとして参加しているということだ。
きっとそれは、エルフの末裔で、長命種であるということも関係しているのだろう。
イェレミーが何の研究をしているのかは、ファルコ・クラッセの誰も知らないし、実はゲーム内でも語られてはいない。
あまりに謎の多い人で、底知れない何かを感じるが、話してみると意外に気さくだ。一癖も二癖もあるのはゲームで知っているけれど、表面上の付き合いをする分には特に支障はない。
「なかなか矢のようにならないな」
ふとそんな声が聞こえてきて顔を上げると、アインハルトが顎に指先を当てて考え込んでいた。デュークの得意の攻撃ではあるが、アインハルトにはそのコツが掴めていないようだ。防戦する訓練を積み、氷の障壁を作ることはできるようになったアインハルトだが、攻撃に転じることは上手くできていない。
もちろん、それを手取り足取り教える義務はデュークにはなくて、アインハルト自身が自分で試行錯誤するしかない。
「最初から矢にしようとするな」
向こう正面に立つデュークが、いきなりアインハルトの言葉に答えた。
「矢にしない?」
アインハルトは訊き返して、デュークの方へと近付いていく。
「水滴は速度に応じて形を変え、鋭さを増すのはわかるだろう。氷のつぶての先が尖る原理だ」
それは、ベアトリスとの練習でも見たことがある。
「たしかに、速度は重要だ」
すると、デュークは頷いて、腕を組んだ。
「その要領だ」
「なるほど、理解した」
今の会話のどこで理解できるのか。
僕は、二人のやり取りを聞きながら、さっぱりわからなかった。
だが、デュークの言葉を聞いた後、アインハルトは即座に氷の矢を放てるようになる。
「まだ強度が足りないが、練習を積むといい」
「助かった。ありがとう」
アインハルトはそう言って、デュークに笑いかける。
デュークは一つ頷くと、練習を再開した。
また一つ、彼らから後れを取った。
差は開いていく一方だ。
僕は焦りを覚え、いつの間にか白くなるほどにきつく拳を握っていた。
皆の練習はまだ続いていたが、僕は修練場を出て図書室に向かった。
時間があまりにも足りない。
ただでさえ、優秀で勤勉な彼らに、僕はいつになったら追いつけるのだろう。
「……考えるな。今に、集中しろ」
僕は自分に言い聞かせて、図書室で今日の授業の復習をした。
僕は、図書室に本を返してからその波に入り、廊下を歩いていた。
隣にセレスの姿はない。
きっと先に修練場に着いて、もう訓練を始めているはずだ。
前はどこに行くにもついてきていたが、今は自分の時間を優先するようになっている。
兄である僕から卒業できたことは、彼女にとっていいことだ。
それは、実はゲームの中ではなかった変化で、僕にとっては喜ばしい。
修練場につくと既に自主練習が始まっていた。
決まったエリアでそれぞれが練習することになっていて、手前が一年生、左が二年生、右が三年生だ。
そして、最奥がファルコ・クラッセのメンバーのエリアだ。
前は一年生のエリアで見学していたが、今は僕もファルコ・クラッセのメンバーと共に自主練習をするようになっていた。
「まだオレンジが強いですわね。もう少し、温度を上げられるはずよ」
「はい!」
ベアトリスとセレスが、火の魔法の訓練を行っている。
学年は二年も開いているが、二人の友情は日々確かなものになりつつある。
違う女子寮に住んでいても、セレスは何かにつけベアトリスの部屋を訪れているらしい。勉強を教わるとか訓練をするとか、それだけではなくて、お互いに自分の話をすることも多いようだ。内容については、さすがに把握していないが、二人でいる時間について僕に語る様子は、とても楽しそうでホッとする。
「クリス、何をしている」
既に訓練を始めていたアインハルトが、僕を呼ぶ。
「今行きます!」
アインハルトは、デュークと共に水魔法の練習をしていたようだ。
僕は最近、この二人と共に水魔法について勉強している。
飛翔ができるということで、最初はアインハルトと風魔法の練習もしてみたが、どうやら飛翔以外の能力はからきしのようで、すぐに見切りをつけた。
それよりも、潜在的に強い能力のある水魔法を伸ばす方がいいというのが、オーベリン先生の見立てだ。
水魔法の練習と言っても、一番の使い手であるデュークから何か言ってくるということはない。
デュークの練習相手にアインハルトが立候補して、二人で競い合っているのを僕が見学するという状況だ。見て覚えているうちに、感覚が研ぎ澄まされて、能力の発現が速まることが長年の研究で実証されている。恐らく僕にも効果的だろうと、こうして見学するチャンスをもらっていた。
今僕が何とか使えるのは、火属性の能力だけだ。中でも炎の魔法は、ベアトリスのおかげで辛うじて使える。
土属性の能力は、どうやら持ち合わせていないらしい。
各属性について、手探り状態なのには理由がある。
通常なら、測定器で属性と大まかなレベルがわかるのだが、未だに僕の能力測定ができていない。
見当がつかない以上、こうして発現を待つしかない。
当初は、僕がすべての能力を持ち合わせているくせに、意図的にそれを隠していると思われていたようだけれど、あまりのポンコツ具合に疑惑は払拭されたようだ。
それは、本当は情けないことなのかもしれないが、僕は内心喜んでいた。
なぜなら、僕を警戒していたデュークの態度が、少しだけ和らいだからだ。
未だに直接二人きりで話すことはないが、険しい視線で射竦められることも、取り付く島もない態度を取られることもなくなった。冷たくあしらわれることがない。たったそれだけのことなのに、僕にとっては大きな変化だと言える。
寮祭以来、食堂や大浴場で顔を合わせても気まずかったが、今はそこまでデュークとの間に壁を感じない。近くに存在することを許してもらえている。そんな気がする。
僕たち5人が自主練習をする中、イェレミーだけはこの場にいない。
弓の練習をしているのかと思いきや、話によると研究室にいるという。
グリューン魔法学院には、魔法の研究所があって、教授が各研究室に所属している。イェレミーはどうやらその研究室の一つに、オブザーバーとして参加しているということだ。
きっとそれは、エルフの末裔で、長命種であるということも関係しているのだろう。
イェレミーが何の研究をしているのかは、ファルコ・クラッセの誰も知らないし、実はゲーム内でも語られてはいない。
あまりに謎の多い人で、底知れない何かを感じるが、話してみると意外に気さくだ。一癖も二癖もあるのはゲームで知っているけれど、表面上の付き合いをする分には特に支障はない。
「なかなか矢のようにならないな」
ふとそんな声が聞こえてきて顔を上げると、アインハルトが顎に指先を当てて考え込んでいた。デュークの得意の攻撃ではあるが、アインハルトにはそのコツが掴めていないようだ。防戦する訓練を積み、氷の障壁を作ることはできるようになったアインハルトだが、攻撃に転じることは上手くできていない。
もちろん、それを手取り足取り教える義務はデュークにはなくて、アインハルト自身が自分で試行錯誤するしかない。
「最初から矢にしようとするな」
向こう正面に立つデュークが、いきなりアインハルトの言葉に答えた。
「矢にしない?」
アインハルトは訊き返して、デュークの方へと近付いていく。
「水滴は速度に応じて形を変え、鋭さを増すのはわかるだろう。氷のつぶての先が尖る原理だ」
それは、ベアトリスとの練習でも見たことがある。
「たしかに、速度は重要だ」
すると、デュークは頷いて、腕を組んだ。
「その要領だ」
「なるほど、理解した」
今の会話のどこで理解できるのか。
僕は、二人のやり取りを聞きながら、さっぱりわからなかった。
だが、デュークの言葉を聞いた後、アインハルトは即座に氷の矢を放てるようになる。
「まだ強度が足りないが、練習を積むといい」
「助かった。ありがとう」
アインハルトはそう言って、デュークに笑いかける。
デュークは一つ頷くと、練習を再開した。
また一つ、彼らから後れを取った。
差は開いていく一方だ。
僕は焦りを覚え、いつの間にか白くなるほどにきつく拳を握っていた。
皆の練習はまだ続いていたが、僕は修練場を出て図書室に向かった。
時間があまりにも足りない。
ただでさえ、優秀で勤勉な彼らに、僕はいつになったら追いつけるのだろう。
「……考えるな。今に、集中しろ」
僕は自分に言い聞かせて、図書室で今日の授業の復習をした。
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