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第四章 未知
合宿の日々
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アインハルト所有の闘技場は、スケールが違った。
修練場よりもはるかに広い。しかも、美しい。
グリューン魔法学院の見学席は石造りだったが、ここはすべて大理石でできている。
割ったら大変なことになるんじゃないかと、修理代が気になった。
たぶん、そんなことを考えているのは、僕くらいなものなんだろう。
みんな、まったく手控えることなく魔力を使って戦っている。
誰もが真剣なんだ。
僕はまだ、覚悟が足りていないのかもしれない。
今まさに、僕も摸擬戦に挑もうとしている。
相手は、デュークだ。
審判役は、イェレミーが引き受けてくれた。
「プロンティ」
遠くで構えを見た時とは違う。
真正面に立つデュークは、研ぎ澄まされた剣のようだ。
気迫が伝わってきて、ぞくりと背中が痺れ、鳥肌が立った。
「ヴィア!」
イェレミーが合図したと同時に、僕は氷の矢を放つ。
これまで何度も練習してきたおかげで、氷の結晶から矢に変化するまで、コンマ1秒くらいの時間に短縮できるようになっていた。
真正面からの攻撃は、すぐにデュークに弾かれる。
そして、防戦から流れるようにデュークは攻撃に転じた。
「うわっ!」
慌てて防いだが、あまりにも速い。
飛んでくる矢を一つまた一つと砕いていたところ、いきなり10を超える矢が降り注いだ。
「くっ!」
ドーム状の氷を張ったが、矢の威力に負けて貫通する。
慌てて身を翻して避けたが、二投目が飛んできた。
しゃがんで避けたが間に合わず、つい目を瞑ったところで、みしりと軋んだ音が聞こえた。
「そこまで!」
突き刺さる寸前でイェレミーが試合を止め、宙で氷が霧に変わる。
ドライアイスのような煙が辺りに漂い、風で薄まっていく。
見れば、デュークは開始地点から一歩も動いていない。
「次だ、立て」
息が上がっている僕とは違い、声もいつもと変わらない。
すぐに身を起こして、二回戦に臨んだが、また一瞬で勝敗が決した。
水属性に絞ると言われて、飛翔が使えない戦いの難しさを知る。
全属性が使えたら、少しはマシになる。
これでは、デュークの練習にならない。
続けてもらうことを申し訳なく思うのに、デュークはやめようとせず、パターンを変えて攻撃してきた。
「くそっ」
何度転んでも奥歯を噛み締めて立ち上がり、氷での攻撃を続ける。
「もう一度」
デュークは、静かな声で繰り返し、僕を相手に戦った。
どうして水属性に絞るなんて言ったんだろう。
圧倒的な力の差を感じて、僕は自分が情けなくなってきた。
せめて、もう少し手応えのある相手になれれば。
「プロンティ」
イェレミーが手を上げる。
「ヴィア!」
振り下ろした瞬間に僕は駆け出した。
こうなったら、立つ位置だけでも変えさせたい。
足下までダッシュで近寄り、0距離から攻撃する。
魔法の特性である、遠距離攻撃を無視した手に出たが、あと一歩というところで氷を噴射された。
「うぷっ……げほっ」
顔面に吹き付けられて横に逃げ、デュークの足下から氷の矢を放つ。
そこで初めて、デュークは一歩退いた。
僕は、下での攻撃中に練り込んでいた氷の塊を、デュークめがけて落下させる。
デュークが氷を砕いたところで、破片を矢に変えようと目論んでいたのだが、氷の塊は砕けずに方向を変えた。
「えっ! 嘘だろ……っ」
僕は慌てて頭上に向けて矢を放って砕き、何とか事なきを得たが、氷は大量の水となって降りかかってきた。
息ができないほどの土砂降り状態。
また同じ手で負けた。
「はい、そこまで」
イェレミーが、笑い含みに割って入り、背後を親指で指し示す。
「お待ちかねの、ランチタイムだ。クリスティアン君は、その前にお風呂だね」
「……はい」
僕たちは、一度城に帰り、昼食を摂ってから仕切り直した。
こんな調子で、バッヘム城での訓練は続き、短い夏休みが終わりを迎えた。
三日目の夕方。
そろそろ陽が沈むという頃、オーベリン先生とデューク、イェレミーの3人が先に帰ることになった。
どうやら王都の方で、用事があるという。
「では、また月曜日に」
そう言って、一つの馬車に乗り合うのではなく、それぞれ馬車に乗って帰っていった。
残った4人は、最後の夕食を食べてからということで、帰るまでの時間を城で過ごした。
「本当に、懐かしいですわね」
夕食後の時間、一階のテラスで休んでいると、ベアトリスは写真立てを手にした。
「これ、ベアトリスさんですか?」
「ええ、前に遊びに来たことがあって」
そこに映っているのは、今の面影を残した少年と少女だ。
「アインハルトさんとは、この頃からお知り合いだったんですか?」
「生まれる前から、許婚と決まっていたんですって」
先代の王とベアトリスの祖父の仲が良くて、孫が生まれたら引き合わせようと約束していたらしい。
「今は昔のお話ですわ」
そこから、二人の想い出話から始まり、アインハルトの妹についても聞いた。
全部で4人いるという妹と、ベアトリスはよくここに遊びに来たということだ。
ベアトリスが話す間、アインハルトは会話に参加せず、口も挟まずに窓の外を眺めていた。
その横顔には、特に疎むような色もなく、僕は少しホッとしていた。
こんなに昔からの知り合いだというのに、どうしてこんなにもつれているんだろう。
僕は、自分がこの世界に転生したせいではないかと、内心感じていた。
ゲーム「グリューン・ストーリア」のクリスティアンは、こんな風に二人と近しい立場になかった。もちろん、頬にキスされるような間柄でもない。
なぜ、こうなってしまったんだろう。
本来であれば、この役柄はセレスが担うはずだ。
だが、そこまで考えてふと気付いた。
ゲームの中では、王子を選んだ場合、ベアトリスは悪女として国外に追放される。
セレスティーヌを羨み、妬んで、王子との仲を引き裂こうとした。
その結果、行き過ぎた行動に出て、追放されるにいたるわけだが。
今は、そんな片鱗はない。
そう考えると、ゲームの中よりも二人の関係はまだ友好的であると言える。
もちろん、セレスとベアトリスの関係性も、ゲームと比べるべくもない。
僕は、奇妙な感が拭えないまま、帰りの時間までベアトリスの話を聞いて過ごした。
修練場よりもはるかに広い。しかも、美しい。
グリューン魔法学院の見学席は石造りだったが、ここはすべて大理石でできている。
割ったら大変なことになるんじゃないかと、修理代が気になった。
たぶん、そんなことを考えているのは、僕くらいなものなんだろう。
みんな、まったく手控えることなく魔力を使って戦っている。
誰もが真剣なんだ。
僕はまだ、覚悟が足りていないのかもしれない。
今まさに、僕も摸擬戦に挑もうとしている。
相手は、デュークだ。
審判役は、イェレミーが引き受けてくれた。
「プロンティ」
遠くで構えを見た時とは違う。
真正面に立つデュークは、研ぎ澄まされた剣のようだ。
気迫が伝わってきて、ぞくりと背中が痺れ、鳥肌が立った。
「ヴィア!」
イェレミーが合図したと同時に、僕は氷の矢を放つ。
これまで何度も練習してきたおかげで、氷の結晶から矢に変化するまで、コンマ1秒くらいの時間に短縮できるようになっていた。
真正面からの攻撃は、すぐにデュークに弾かれる。
そして、防戦から流れるようにデュークは攻撃に転じた。
「うわっ!」
慌てて防いだが、あまりにも速い。
飛んでくる矢を一つまた一つと砕いていたところ、いきなり10を超える矢が降り注いだ。
「くっ!」
ドーム状の氷を張ったが、矢の威力に負けて貫通する。
慌てて身を翻して避けたが、二投目が飛んできた。
しゃがんで避けたが間に合わず、つい目を瞑ったところで、みしりと軋んだ音が聞こえた。
「そこまで!」
突き刺さる寸前でイェレミーが試合を止め、宙で氷が霧に変わる。
ドライアイスのような煙が辺りに漂い、風で薄まっていく。
見れば、デュークは開始地点から一歩も動いていない。
「次だ、立て」
息が上がっている僕とは違い、声もいつもと変わらない。
すぐに身を起こして、二回戦に臨んだが、また一瞬で勝敗が決した。
水属性に絞ると言われて、飛翔が使えない戦いの難しさを知る。
全属性が使えたら、少しはマシになる。
これでは、デュークの練習にならない。
続けてもらうことを申し訳なく思うのに、デュークはやめようとせず、パターンを変えて攻撃してきた。
「くそっ」
何度転んでも奥歯を噛み締めて立ち上がり、氷での攻撃を続ける。
「もう一度」
デュークは、静かな声で繰り返し、僕を相手に戦った。
どうして水属性に絞るなんて言ったんだろう。
圧倒的な力の差を感じて、僕は自分が情けなくなってきた。
せめて、もう少し手応えのある相手になれれば。
「プロンティ」
イェレミーが手を上げる。
「ヴィア!」
振り下ろした瞬間に僕は駆け出した。
こうなったら、立つ位置だけでも変えさせたい。
足下までダッシュで近寄り、0距離から攻撃する。
魔法の特性である、遠距離攻撃を無視した手に出たが、あと一歩というところで氷を噴射された。
「うぷっ……げほっ」
顔面に吹き付けられて横に逃げ、デュークの足下から氷の矢を放つ。
そこで初めて、デュークは一歩退いた。
僕は、下での攻撃中に練り込んでいた氷の塊を、デュークめがけて落下させる。
デュークが氷を砕いたところで、破片を矢に変えようと目論んでいたのだが、氷の塊は砕けずに方向を変えた。
「えっ! 嘘だろ……っ」
僕は慌てて頭上に向けて矢を放って砕き、何とか事なきを得たが、氷は大量の水となって降りかかってきた。
息ができないほどの土砂降り状態。
また同じ手で負けた。
「はい、そこまで」
イェレミーが、笑い含みに割って入り、背後を親指で指し示す。
「お待ちかねの、ランチタイムだ。クリスティアン君は、その前にお風呂だね」
「……はい」
僕たちは、一度城に帰り、昼食を摂ってから仕切り直した。
こんな調子で、バッヘム城での訓練は続き、短い夏休みが終わりを迎えた。
三日目の夕方。
そろそろ陽が沈むという頃、オーベリン先生とデューク、イェレミーの3人が先に帰ることになった。
どうやら王都の方で、用事があるという。
「では、また月曜日に」
そう言って、一つの馬車に乗り合うのではなく、それぞれ馬車に乗って帰っていった。
残った4人は、最後の夕食を食べてからということで、帰るまでの時間を城で過ごした。
「本当に、懐かしいですわね」
夕食後の時間、一階のテラスで休んでいると、ベアトリスは写真立てを手にした。
「これ、ベアトリスさんですか?」
「ええ、前に遊びに来たことがあって」
そこに映っているのは、今の面影を残した少年と少女だ。
「アインハルトさんとは、この頃からお知り合いだったんですか?」
「生まれる前から、許婚と決まっていたんですって」
先代の王とベアトリスの祖父の仲が良くて、孫が生まれたら引き合わせようと約束していたらしい。
「今は昔のお話ですわ」
そこから、二人の想い出話から始まり、アインハルトの妹についても聞いた。
全部で4人いるという妹と、ベアトリスはよくここに遊びに来たということだ。
ベアトリスが話す間、アインハルトは会話に参加せず、口も挟まずに窓の外を眺めていた。
その横顔には、特に疎むような色もなく、僕は少しホッとしていた。
こんなに昔からの知り合いだというのに、どうしてこんなにもつれているんだろう。
僕は、自分がこの世界に転生したせいではないかと、内心感じていた。
ゲーム「グリューン・ストーリア」のクリスティアンは、こんな風に二人と近しい立場になかった。もちろん、頬にキスされるような間柄でもない。
なぜ、こうなってしまったんだろう。
本来であれば、この役柄はセレスが担うはずだ。
だが、そこまで考えてふと気付いた。
ゲームの中では、王子を選んだ場合、ベアトリスは悪女として国外に追放される。
セレスティーヌを羨み、妬んで、王子との仲を引き裂こうとした。
その結果、行き過ぎた行動に出て、追放されるにいたるわけだが。
今は、そんな片鱗はない。
そう考えると、ゲームの中よりも二人の関係はまだ友好的であると言える。
もちろん、セレスとベアトリスの関係性も、ゲームと比べるべくもない。
僕は、奇妙な感が拭えないまま、帰りの時間までベアトリスの話を聞いて過ごした。
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