【完結】乙女ゲームの女主人公の兄なので、ちょっと僕を狙わないでもらえますか?

佑々木(うさぎ)

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第五章 人質

四人の宴

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 宴の場には、僕たち4人の姿しかない。
 てっきり、王と王妃も加わると思っていたため、僕は少し残念に思った。
 できれば、王と王妃、そしてデュークの母に会いたいと思っていたからだ。
 ただ、デュークの母については、もしかしたらと感じてもいる。
 でも、まだ確証はないし、僕からは聞けない。

「さてと、飲もうじゃないか」

 部屋の中央には毛足の長いじゅうたんが敷かれていて、大きなクッションがいくつもある。つまり、ここに丸くなって座って飲むということなんだろう。先に双子が片膝を立てて座り、デュークは足を投げ出して片膝を抱えた。僕は、少し考えてから、結局正座した。

 2人は僕たちを手招きし、額を寄せ合うようにして、喋り出す。

「お前たちがここに来たのは、他でもない。──フォーシュリンドに出兵した件なんだろう?」
 
 兄のルカーシュが尋ね、デュークは頷くことなく瞳を見据える。

「そんな顔をするな。あれは、私が命じたわけではない」
「もちろん、私でもないぞ」

 どういうことなのかと視線で問うと、ルカーシュはクッションにもたれた。

「我々ではなく、軍を動かしたものがいる。つまり、そういうことだ」

 僕にはさっぱりわからないが、デュークはそれで理解したらしい。

「炙り出しは、成功したというわけか」

 デュークの言葉に、ルドビークは人の悪い笑みを浮かべる。

「これまで待った甲斐があった」

 感慨深げに言って、酒を口に運んだ兄を、デュークはじろりと睨む。

「出兵を止めることもできた。だが、炙り出しを優先した」
「そうだ」
「そのせいでフォーシュリンド王国は警戒心を強めた。両国の関係が拗れるとは考えなかったのか?」

 問いの形を取ってはいるが、これはデュークからの叱責のようなものだ。
 ルドビークはそこで肩を竦め、ルカーシュは杯を持つ手をデュークに向ける。

「政変が起きて、アルヴェスト王国が倒れれば、フォーシュリンドにも被害は及ぶ。その方が、両国にとって大きな問題だ」

 それはそうだ。
 フォーシュリンド王国が、この機にアルヴェストに攻め入ることもできるだろうが。
 国王にその意思があるかは、僕にはわからない。
 今回の件で、すぐに出兵しなかったことから、可能性は低そうに思える。
 いずれにしても、アルヴェストが倒れた波紋は周囲に及び、フォーシュリンドに影響することは間違いない。

「あと2日もあれば決着する。心配せずに待っていろ」

 ルカーシュは簡単にそう言うが、この騒動をどう治めるつもりなのか。
 僕には、容易くは思えない。

「その間、城にこもるのは退屈だろう。王都観光でもするといい」
「早めの新婚旅行だ」

 本気で言っているのか、それとも揶揄っているだけなのか。
 僕には判断がつかず、デュークの顔を窺う。
 渋い表情をしてはいるが、怒っている風ではない。

 僕は、そんな3人を見ながら、内心喜んでいた。
 デュークから聞き及んでいたことから、双子の兄は険悪な関係で、国を二分しているのかと思っていた。
 だが、少なくとも二人は、デュークのことを大切に思っている。
 大胆な計画に出る人ではあるようだけれど、心があるのは伝わってくる。

 僕が三人を見守っていると、不意にデュークが訊いた。

「父王はどうしている?」

 すると、双子は顔を見合わせ、一つ溜息を吐く。

「恋人を紹介したいのはわかるが、今は時期じゃない」
「まだ早い。もう少し待て」

 詳しくは言えないということは、何か障りがあるんだろうか。
 この政変に父親が関わっているのか、それとも守ろうとしているのか。
 二人の表情から読もうとしていると、二人もまた僕を見た。

「ところで、クリスティアンと言ったか」
「デュークのどこに惚れたんだ」

 この問いに、なぜかデュークまで視線を向けてきた。
 こういう時は、助け船を出す役じゃないのか。
 丸投げされたように感じて、僕は何とか答えようとした。

「それは──」

 だが、応えようとすると頬が火照り、言葉が出てこない。
 何か言わなければと焦れば焦るほど、何も思いつかなくなる。

 すると、ルドビークが片手を僕に向けて翳した。

「もういい。その表情が見られれば十分だ」
「惚気は、すべてが終わったら改めて聞かせてもらおう」

 二人は何か盛大な勘違いをしたようだが、僕にとっては都合がいい。
 これで何とか誤魔化せた。

 そして、宴はそこで散会した。

「おやすみなさい」

 その場に二人を残して扉を閉め、僕とデュークは部屋に戻った。
 
「ベッドをもう一つ用意させるのも考えたが、それでは不自然だ。私がソファで寝る」

 湯浴みを済ませて寝る段になると、デュークはそう言ってソファに向かう。
 僕は慌てて、デュークを止めた。

「そんなこと、デューク王子にさせられません」
 
 誰かに見咎められるとか、そういうことじゃない。
 勝手に僕がついてきたというのに、ベッドを奪うことなんてできない。
 たしかに、ベッドが一つになってしまったのは、デュークのせいではあるけれど。

 だが、デュークは、僕の言葉にではなく呼称に反応した。

「デュークだ。アインハルトのことは敬称なしに呼んでいるんだ。私もそうしてほしい」

 なぜそこでアインハルトの名前が出てくるのか。
 聞きたいところだが、今ここで話題にしても始まらない。

「わかりました。デュークさん」
「呼び捨てで構わない」
「僕が構います」

 王子であり、先輩でもあるんだ。
 本人を前に、呼び捨てにするなんてできない。

「仕方がない。妥協する。今は、寝よう」

 デュークは先にベッドに入り、なかなか来ない僕に焦れたのか、上掛けをめくる。

「来い」

 僕は、少し気後れしたけれど、逆らわずに隣に寝た。
 意識すればするほど、ぎこちなくなる。
 それなら、抵抗せずに従った方がいい。

 僕は目を閉じ、深く呼吸を繰り返す。
 デュークの呼吸が重なり、どちらのものなのかわからなくなる。
 もぞりとベッドの中で身動ぎ、僕はそのまま眠りに落ちた。
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