【完結】元つく二人の珍道中!〜(元)魔王と聖女の全国行脚美食旅〜

白(しろ)

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第二章 西の国の花の祭り編

聖女、とは

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 露天商から離れた頃にはもう空は橙と藍色のグラデーションに染まり掛けていた。二日に掛けて開催される花祭りは夜になったら一度終わる、という訳ではなく夜になっても明かりは消えずに賑やかな時間が続くらしい。
 夜になれば光の精霊の加護によって照らされた花の飾りが夜空に浮かび上がる幻想的な景色になるらしいのだが、ステラはそれを見ることが出来なさそうだった。
 目を閉じていろと言われた通りステラは目を閉じていた。むしろ積極的に両手で顔を覆っていた。理由はとても簡単だ。リヴィウスに抱き上げられながら進むことにステラの羞恥心が臨界点を突破していたのだ。

「リ、リヴィ、一人で歩けるので…っ」
「黙れ」

 ぴしゃんと言いつけられてステラはそれ以上何も言えなくなってしまった。どうやらリヴィウスはご機嫌斜めらしい。どうにかてぷにも助けを求めようとするのだが、てぷもどうやら怒っているようでステラの無言の要求を全て無視している。

(……どうして怒っているんですか二人共…!)

 二人が怒っている理由がステラはさっぱりわからなかった。露天商の店主がステラの目を見ようとした時から機嫌は悪かったが、ステラが自分から見せようとした瞬間怒りの臨界点を超えてしまった気がする。そうなったタイミングまでは理解ができるけれど、それがなぜ怒りに繋がるのかがわからなかった。

 それを問おうにも口を開けば黙れと言われてしまうし、周りからの視線が凄そうで顔から手を離すことも出来ない。救いがあるとすれば今日が花祭りだということだ。
 賑やかな音や夜になるからとまた始まった花火の音に祭り客の歓声の声が上がる。注目すべき点がいくつも存在してくれているからこそ、ステラには注目は集まっていないと思いたい。
 願望だ。
 それからもう少しすると雑踏の音が少なくなった。どこかの建物の中に入ったのが木造の扉を押し開けた音でわかった。

『戻ったんだぞ』
「お帰りなさいま、せ?」

 どうやら宿に戻ってきたらしい。リヴィウスに抱えられているステラを見て従業員が驚いているのが空気と声の感じで伝わってきてステラは居た堪れなかった。宿屋に行っても抱き上げられたままリヴィウスとてぷは進んでいく。そう時間も掛からず自分たちの泊まる部屋へと到着して、そろそろとステラが顔から手を離すのと体がベッドに投げられるのはほとんど同じタイミングだった。

「え、うわぁっ!」

 一瞬の浮遊感のあと全身を柔らかな素材で包まれたから痛くはないが驚いてはいる。久しぶりにも感じられる光に眩さを感じながら目を凝らせば、ステラが想像していたよりも遥かに機嫌が悪そうな顔をした二人が並んでいて、ステラの喉から「ひぇ」となんとも情けない声が上がった。

『ステラ、どうしてボクたちが怒ってるのかわかる?』

 子供の姿のまま腕を組んで仁王立ちしているてぷの言葉にステラは困り果ててしまった。

「……お恥ずかしながら、全く…」

 それに溜息を吐いたのはリヴィウスだった。心底呆れたと言うようなそんな溜息だ。ますます居心地の悪さに眉を下げていると怒った顔のままてぷが口を開いた。

『ステラが大切だから怒ってるんだぞ』
「……ぇ」

 大切、思っても見なかった言葉に目が丸くなる。

『あの男、ステラのことを金儲けの道具にしようとしたんだぞ。ボクは嫌だった。リヴィだっておんなじこと思ってるぞ』

 リヴィウスは何も言わない。けれどその沈黙が肯定だということは、もうステラはわかっている。理解はしたけれど、それでもステラは不思議だった。

「…で、でも目の色くらい。世間ではもう聖女は死んだことになっていますし、今後私の目と同じ色のアクセサリーが販売されたところで、何も」
「お前は」

 温度の無い低音が耳に届いた。視線を上げると、無表情のリヴィウスがいて心臓が嫌な音を立てて軋んだ。

「聖女だった自分を他人のように扱うんだな」

 さくりと、胸にナイフを突き立てられたような心地だった。
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