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しおりを挟む卒業パーティの会場とは思えない、ウィリエールの弁明の声が響く場。
四方豪華絢爛な空間で、彼女たちの勇気はアウスやセンガルの背中を押し心の闘志を更に燃え上がらせた。
流石に頭を抱えるしかなくなった国王皇后両陛下は、言い訳の為に口を開き続けるウィリエールの口を閉ざすように指示を出し天を見上げ深く大きなため息をついた。
国王皇后両陛下からしたら、自分達の息子が跡取りとなるための社会勉強も含めた大きな学院という土地で学び成長することを切に願っていた。
望んでいたのはこんな断罪パーティーではない。
皇后は震える声で息子に問う。
「貴方は何をこの学院で学んだのですか」
皇后陛下、マリア・レ・テシリアはテシリア家の長女で、ブロンドの髪を長く伸ばし流行の前髪や髪型をせず常に纏めて冷酷と呼ばれ続けた女性。
教学に秀でていて、いつも本を手に持ち学生時代は友人と喋るより本を読んで静かに過ごすことを好んでいた。
十三歳、進学した学院でノルマンと同級になり、ノルマンの一目惚れで常にアピールされ追われていたが、それまでの学生時代を誰かと過ごすことをしてこなかったマリアにはその明るさ、会話をしようと追ってくるノルマンが理解できず怖さすらあった。
ノルマンが王族だと理解した上で、愛の告白を断り続けた。ノルマンは諦めず、何度も何度も告白をし続けた。
「貴方が言うように私が好きだと言い続け、私が折れもし結婚したら私は王族に入ることになる。いつか生まれてくる子がその王権争いに入り、平穏など何処にもなくなる。子が貴方に似れば良いかもしれないけれど、私に似れば王の器ではなくなる」
ふと、告白を断りつつマリアの言った言葉にノルマンは悪意なく「そこまで俺との未来を考えてくれているなんて嬉しい。諦める気はないからね」と笑ったことでマリアはそれまで四年の間逃げていたことを諦めるようにその告白を受け入れることを決めた。
マリアとノルマンの間に生まれる子が、どちらに似ようともきっとノルマンとなら大丈夫だと信じていた。
十七歳で王宮入りしたマリアには今日に至るまでまさに地獄のような時間だった。
婚姻は交わしたものの、ノルマンの王権争いに巻き込まれて立場は安定しない現実。そして、ノルマンの父である先代国王デクドーからの執拗な嫌がらせ。
二十三歳で子を、ウィリエールを身籠ったマリアは自身の子を喜べなかった。絶対に、喜んではならなかった。
ノルマンは例えどんな理由があっても『俺たちの子』と言い張ったが、マリアは……マリアだけはその言葉すら辛かった。
だからこそ、マリアは絶対に悪夢を繰り返さぬよう必死になった。
エトワール家に産まれた子が聖女の現れだと言われ、ノルマンがエトワール家当主オズモンドと学友であった繋がりがあった故に王座に就いた。たったそれだけの理由。
すぐにでも壊れる儚い玉座にノルマンもマリアも一時たりとも油断したことはない。
息子であるウィリエールには安定した未来を、約束したかった。
まさか自分たちの目が入らない学院という場で。
ウィリエールがノルマン、マリアに似てもにつかぬデクドーと瓜二つの容姿で性格で独裁国家を立ち上げていたなんて。
「……答えなさいウィリエール、貴方はこの学院で何を学んだのです?人を陥れる方法?人を蹴落とし登り詰める方法?自分より弱く守らねばならない人を踏みにじり嘲り笑う方法?………貴方が先代国王に似ていること、私はずっと憎くて愛せずにいた。ノルマンがどうであろうと我々の子だと言い続けてくれたからこそ諦めずにいれた。けれど、私にはもうその責を負えるだけの覚悟はないのです」
誰も声をあげられない、豪華絢爛なホール内。
国王であるノルマンの周りのものが聞いたことも無い怒号が響く中、マリアはウィリエールに対し「……貴方は兄であるノルマンをどれだけ踏みにじれば気が済みますか」と冷たい言葉で告げた。
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