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第三章 領地開発
第41話 奴隷商人ベルント
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――二か月が経ち、六月になった。
この異世界にも暦がある。
三十日で一月、十二か月で一年だ。
王都から北部王領に追放同然で放り出されてから、あっという間の二か月だ。
六月と言ってもそれほど暑くなく、まだ長袖で過ごしている。
ここは大陸のかなり北側に位置しているからな。
日本で言うと北海道や東北地方に気候が近いのだと思う。
日本との違いは、梅雨がなく、空気が乾燥としている所だ。かなり過ごしやすい。
この二か月で、領主エリアに俺たちの住む館が出来た。
俺とルーナ先生が土魔法で作った石の外壁に、商業都市ザムザから来た大工たちが窓枠やドアを取り付けて完成だ。
毎朝毎晩、大工たちを転移魔法で商業都市ザムザから送り迎えした甲斐があったよ。
さて、北部王領改めアンジェロ領に住むところが出来た。
次に必要なのは、住む人だ。
アンジェロ領の住人は増やしたいが、元流刑地に住みたがる物好きはいない。
そこで、今日は奴隷を買いに商業都市ザムザにやってきた。俺に同行するのは、ルーナ先生と商業担当のジョバンニだ。
俺は商業都市ザムザの大通りを歩きながら、深いため息をつく。
「アンジェロ様。やはり奴隷を買うのは、お嫌ですか?」
ジョバンニが俺に気を遣う。
「大丈夫。ちゃんと納得しているよ」
奴隷を買う事に、俺は納得している。理屈の上では。
アンジェロ領を発展させるには、働き手になる住人が必要で、手っ取り早いのは奴隷購入だ。俺たちの住むフリージア王国でも奴隷は当たり前に沢山いる。
だが、俺は奴隷制度が、どうしても好きになれない。
転生前の日本人としての記憶、感覚、倫理観、道徳観が、俺の中に存在しているからだろう。
転生前の二十二年間を奴隷制度のない日本で過ごしていたのだ。こればかりは、どうしようもない。
「ジョバンニ! 購入した奴隷は、ちゃんと扱うのだぞ! ちゃんとした奴隷商人から買うのだぞ!」
「はい。アンジェロ様のお申し付け通りに!」
この世界での奴隷は物だ。
人間ではなく、あくまで主人の所有物なのだ。
なかには、馬以下のひどい扱いをする主人もいると聞く。
奴隷商人に中には、『人狩り』をするけしからん商人もいるらしい。
俺は、そんなのは認めない。奴隷を買うなら、ちゃんとした奴隷商人から買って、ちゃんとした扱いをしたい。偽善かもしれないが、そうでもしないと俺の日本人倫理観と折り合いがつけられないのだ。
ジョバンニが一軒の店の前で立ち止まった。
「こちらの店です」
「大きい店だね……」
大通りに面した木造三階建ての立派な商館だ。素人目にも、良い建材を使っているのがわかる。
奴隷商は、儲かるのだな。
扉の前には、槍を持ったゴツイ面構えの大男二人が番をしている。
ジョバンニの姿を見ると、すぐに主人に取り次いでくれた。
「これは! これは! アンジェロ殿下! お待ちしておりました! どうぞ中へ! さあ、どうぞ!」
主人はマジで揉み手をして俺たちを迎えた。
久しぶりに偉い人扱いをされた気がする。
最近は白狼族のサラに『オマエ!』、『オイ! アンジェロ!』を連発されていたからな。
さて、今日は王子らしく振舞うか。
「うむ、世話になる」
「はは~!」
主人は大きな体を卑屈なくらい屈めて俺に頭を下げた。
商人にしては、かなり体格が良い。年は三十才くらいか?
背が高く、金髪、彫の深い顔……、うん、この人はたぶんブルムント地方の人だね。
店の中の応接室に通されて、ソファーに座る。
ルーナ先生とジョバンニは、立ったまま俺の後ろに控えている。
主人も立ったままだ。
なんか居心地が悪いな……。
元日本人感覚が強い俺としては、オマエ扱いされた方が過ごしやすいと再確認した。
さて、商談の前に世間話でもして、少し場をほぐしますか。
「ご主人はブルムント地方のご出身か?」
「左様でございます。ブルムントのシャーレの出でございます」
ブルムント地方は、フリージア王国の北東側、地図で言うと右上の地域だ。
小国が乱立していて、戦争が多い。
「シャーレと言うと、ここザムザから近いな」
「はい、殿下。内海を渡って、少し北に行った所でございます」
「名を聞いておこう」
「ベルントと申します」
主人のベルントは、徐々に緊張がほぐれて来たようだ。
ジョバンニが発言の許可を求めて来たので、自由に話すようにジョバンニにも奴隷商人ベルントにも申し渡した。
「アンジェロ様。ベルント殿は、ブルムントから奴隷を仕入れているのです。今日ご覧頂くのはブルムントで買い付けた奴隷です」
「大丈夫なのか? 外国から奴隷を入れても問題ないのか?」
奴隷商人のベルントが胸を張って請け負った。
「ご安心ください、殿下! 当商会は正規の手続きを経た奴隷のみを取り扱っております!」
ベルントは、誠実そうな印象だし、店も小ぎれいにしていて清潔感がある。
この商会と取引しても良いだろう。
俺がそんな事を考えていると、ベルントが色々と説明を始めた。
「――という事でございます。ジョバンニさんから、奴隷のご相談を受けました中で、農民、木こり、鍛冶師を手配いたしました」
「うむ」
おっ! 鍛冶師に木こり!
ポイント高いな!
「ブルムント地方は寒冷な地域ですので、アンジェロ様の御領地でも問題なく住まう事が出来ると思います」
なるほど。気候か。
アンジェロ領は、フリージア王国の最北にある。暖かい地方出身の奴隷では、なじまないかもしれない。
それで、寒冷なブルムント地方出身の奴隷商人ベルントを選んだのか。
「良いだろう。奴隷は全員ブルムント出身者か?」
「左様でございます。殿下。私は、ブルムント地方の領主に顔が利きますので、仕入れも間違いありません」
「間違いないと言うのは、犯罪まがいに連れて来た奴隷ではないという意味か?」
「左様でございます。ご安心してお取引いただけると自負しております」
「わかった。良いだろう」
ベルントが恭しく頭を下げた。
「ありがとうございます! 本日は新鮮な奴隷を取り揃えておりますので、きっとご満足いただけるかと存じます」
「新鮮?」
「はい。奴隷になって日が浅い者たちでございます!」
ベルントはニッコリと笑って答えた。
ベルント自体は、真面目な奴隷商人なのだろうが……。
ベルントの笑顔は、見事なシャイニースマイルなのだが……。
これだ! これだよ!
人間を生鮮食品扱いだよ!
これだから、奴隷制度はクソだ!
ベルントは購入候補の奴隷を連れに、応接室から出て行った。
俺は深くため息をつくとジョバンニと打ち合わせを始めた。
「今回、購入する奴隷は、どういう人たちなのだ?」
「農民と木こりは、税が払えず奴隷落ち。領主が売りに出したと聞いています。ただ……、鍛冶師は犯罪奴隷でして……」
む? 犯罪奴隷?
うーん、大丈夫なのか?
「申し訳ありません。鍛冶師は、なかなか見つからず……」
「まあ、鍛冶師はどの国でも大事にされるからな。武器防具から農具まで、仕事にあぶれる事はない。そりゃ、奴隷でも鍛冶師は、なかなか見つからないよな」
「はい。おっしゃる通りです。商業ギルドにも紹介を頼んでおりますが、なかなか見つけられません。そこで、犯罪奴隷でも良いからと……」
「とりあえず会ってみよう」
俺は奴隷商人ベルントが戻って来るのを待った。
この異世界にも暦がある。
三十日で一月、十二か月で一年だ。
王都から北部王領に追放同然で放り出されてから、あっという間の二か月だ。
六月と言ってもそれほど暑くなく、まだ長袖で過ごしている。
ここは大陸のかなり北側に位置しているからな。
日本で言うと北海道や東北地方に気候が近いのだと思う。
日本との違いは、梅雨がなく、空気が乾燥としている所だ。かなり過ごしやすい。
この二か月で、領主エリアに俺たちの住む館が出来た。
俺とルーナ先生が土魔法で作った石の外壁に、商業都市ザムザから来た大工たちが窓枠やドアを取り付けて完成だ。
毎朝毎晩、大工たちを転移魔法で商業都市ザムザから送り迎えした甲斐があったよ。
さて、北部王領改めアンジェロ領に住むところが出来た。
次に必要なのは、住む人だ。
アンジェロ領の住人は増やしたいが、元流刑地に住みたがる物好きはいない。
そこで、今日は奴隷を買いに商業都市ザムザにやってきた。俺に同行するのは、ルーナ先生と商業担当のジョバンニだ。
俺は商業都市ザムザの大通りを歩きながら、深いため息をつく。
「アンジェロ様。やはり奴隷を買うのは、お嫌ですか?」
ジョバンニが俺に気を遣う。
「大丈夫。ちゃんと納得しているよ」
奴隷を買う事に、俺は納得している。理屈の上では。
アンジェロ領を発展させるには、働き手になる住人が必要で、手っ取り早いのは奴隷購入だ。俺たちの住むフリージア王国でも奴隷は当たり前に沢山いる。
だが、俺は奴隷制度が、どうしても好きになれない。
転生前の日本人としての記憶、感覚、倫理観、道徳観が、俺の中に存在しているからだろう。
転生前の二十二年間を奴隷制度のない日本で過ごしていたのだ。こればかりは、どうしようもない。
「ジョバンニ! 購入した奴隷は、ちゃんと扱うのだぞ! ちゃんとした奴隷商人から買うのだぞ!」
「はい。アンジェロ様のお申し付け通りに!」
この世界での奴隷は物だ。
人間ではなく、あくまで主人の所有物なのだ。
なかには、馬以下のひどい扱いをする主人もいると聞く。
奴隷商人に中には、『人狩り』をするけしからん商人もいるらしい。
俺は、そんなのは認めない。奴隷を買うなら、ちゃんとした奴隷商人から買って、ちゃんとした扱いをしたい。偽善かもしれないが、そうでもしないと俺の日本人倫理観と折り合いがつけられないのだ。
ジョバンニが一軒の店の前で立ち止まった。
「こちらの店です」
「大きい店だね……」
大通りに面した木造三階建ての立派な商館だ。素人目にも、良い建材を使っているのがわかる。
奴隷商は、儲かるのだな。
扉の前には、槍を持ったゴツイ面構えの大男二人が番をしている。
ジョバンニの姿を見ると、すぐに主人に取り次いでくれた。
「これは! これは! アンジェロ殿下! お待ちしておりました! どうぞ中へ! さあ、どうぞ!」
主人はマジで揉み手をして俺たちを迎えた。
久しぶりに偉い人扱いをされた気がする。
最近は白狼族のサラに『オマエ!』、『オイ! アンジェロ!』を連発されていたからな。
さて、今日は王子らしく振舞うか。
「うむ、世話になる」
「はは~!」
主人は大きな体を卑屈なくらい屈めて俺に頭を下げた。
商人にしては、かなり体格が良い。年は三十才くらいか?
背が高く、金髪、彫の深い顔……、うん、この人はたぶんブルムント地方の人だね。
店の中の応接室に通されて、ソファーに座る。
ルーナ先生とジョバンニは、立ったまま俺の後ろに控えている。
主人も立ったままだ。
なんか居心地が悪いな……。
元日本人感覚が強い俺としては、オマエ扱いされた方が過ごしやすいと再確認した。
さて、商談の前に世間話でもして、少し場をほぐしますか。
「ご主人はブルムント地方のご出身か?」
「左様でございます。ブルムントのシャーレの出でございます」
ブルムント地方は、フリージア王国の北東側、地図で言うと右上の地域だ。
小国が乱立していて、戦争が多い。
「シャーレと言うと、ここザムザから近いな」
「はい、殿下。内海を渡って、少し北に行った所でございます」
「名を聞いておこう」
「ベルントと申します」
主人のベルントは、徐々に緊張がほぐれて来たようだ。
ジョバンニが発言の許可を求めて来たので、自由に話すようにジョバンニにも奴隷商人ベルントにも申し渡した。
「アンジェロ様。ベルント殿は、ブルムントから奴隷を仕入れているのです。今日ご覧頂くのはブルムントで買い付けた奴隷です」
「大丈夫なのか? 外国から奴隷を入れても問題ないのか?」
奴隷商人のベルントが胸を張って請け負った。
「ご安心ください、殿下! 当商会は正規の手続きを経た奴隷のみを取り扱っております!」
ベルントは、誠実そうな印象だし、店も小ぎれいにしていて清潔感がある。
この商会と取引しても良いだろう。
俺がそんな事を考えていると、ベルントが色々と説明を始めた。
「――という事でございます。ジョバンニさんから、奴隷のご相談を受けました中で、農民、木こり、鍛冶師を手配いたしました」
「うむ」
おっ! 鍛冶師に木こり!
ポイント高いな!
「ブルムント地方は寒冷な地域ですので、アンジェロ様の御領地でも問題なく住まう事が出来ると思います」
なるほど。気候か。
アンジェロ領は、フリージア王国の最北にある。暖かい地方出身の奴隷では、なじまないかもしれない。
それで、寒冷なブルムント地方出身の奴隷商人ベルントを選んだのか。
「良いだろう。奴隷は全員ブルムント出身者か?」
「左様でございます。殿下。私は、ブルムント地方の領主に顔が利きますので、仕入れも間違いありません」
「間違いないと言うのは、犯罪まがいに連れて来た奴隷ではないという意味か?」
「左様でございます。ご安心してお取引いただけると自負しております」
「わかった。良いだろう」
ベルントが恭しく頭を下げた。
「ありがとうございます! 本日は新鮮な奴隷を取り揃えておりますので、きっとご満足いただけるかと存じます」
「新鮮?」
「はい。奴隷になって日が浅い者たちでございます!」
ベルントはニッコリと笑って答えた。
ベルント自体は、真面目な奴隷商人なのだろうが……。
ベルントの笑顔は、見事なシャイニースマイルなのだが……。
これだ! これだよ!
人間を生鮮食品扱いだよ!
これだから、奴隷制度はクソだ!
ベルントは購入候補の奴隷を連れに、応接室から出て行った。
俺は深くため息をつくとジョバンニと打ち合わせを始めた。
「今回、購入する奴隷は、どういう人たちなのだ?」
「農民と木こりは、税が払えず奴隷落ち。領主が売りに出したと聞いています。ただ……、鍛冶師は犯罪奴隷でして……」
む? 犯罪奴隷?
うーん、大丈夫なのか?
「申し訳ありません。鍛冶師は、なかなか見つからず……」
「まあ、鍛冶師はどの国でも大事にされるからな。武器防具から農具まで、仕事にあぶれる事はない。そりゃ、奴隷でも鍛冶師は、なかなか見つからないよな」
「はい。おっしゃる通りです。商業ギルドにも紹介を頼んでおりますが、なかなか見つけられません。そこで、犯罪奴隷でも良いからと……」
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