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鶏を買ったら……知り合いが増えた。

縄を作り出した

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 僕は角ウサギの肉を食べ終わり、日課の素振りを始めた。

「ふっ! ふっ! ふっ! ふっ!」

 剣を一万回ほど振った後、いったん休憩した。その時、ルパの姿が目に入る。

 ルパは一人で黙々と何かを作っていた。ルパに裁縫が出来る道具を買ってあげた覚えはないし、あのルパが何か小物を作れるとも思えな。いったい何をしているのだろうと思い、覗いてみた。

「ルパ、何を作ってるの?」

「な、何でもない。ただ、縄を編んでただけ」

 ルパは木の皮を裂き、細い皮を捩じりながら縄を作っていた。縄はよく使うので重宝する。いつも僕一人で作っていたのだが、ルパがなぜか作ってくれていた。

「何で、縄を作ろうなんて思ったの?」

「ひ、暇だったから……。あと、昔やってたから……、ちょっとくらい作れると思っただけ」

「ありがとうね、ルパ。助かるよ」

 僕はルパに抱き着いて褒めた。ルパが自分から何か行動を起こしてくれたことがとても嬉しかったのだ。

「ちょっ! 汗のにおい凄いから、近づくな。臭い! ベタベタして気持ち悪い! もぅ……、体にニクスの臭いついちゃった……」

「ご、ごめん。そう言えば、僕、汗でベトベトだったんだ」

 ルパは怒ったあとに自分の体の臭いを嗅いでいた。嫌だと言っていたわりには、尻尾が振られているのはなぜなのだろう。口から出た言葉と尻尾の表す意味が全くかみ合わない。

「じゃあ、お湯を持ってくるから体を拭こうか?」

「ううん。面倒だから、このままでいい。どうせ後で拭くんだし、今はもうちょっとこれやってる」

 ルパは縄作りを再度やりだした。木の皮をねじねじと編み、長くしていく作業を行っている。とても面倒なのに、彼女はもくもくとやり続けていた。元から小物を作ったりする工程が好きなのかもしれない。なぜそう思うかと言えば、縄を作っている時は尻尾が少し揺れているのだ。

 僕はルパが黙々と作業をする中、素振りを再開する。

 ルパに脅威が迫って来た時、倒せるように自分を鍛えておかなければならないと考えたのだ。怖いと言う感情が先行しているが、ルパを守るためなら頑張れそうな気がした。本当に気がするだけで、実際のところはルパを抱えながら逃げるだけかもしれない。でも、この場でルパと一緒に生活していくためには少なからず力が必要だった。

「ふっ! はっ! ふっ! はっ!」

「主、気合いが入っていますね。いつもは無言で淡々と行っているのに、今日は剣をずいぶんと本気で振っているんですね」

 プルスは僕の頭に座っている。
 
「まぁね。無意識で剣を振るのもいいけど、こうやって意識しながら剣を振る工程も大切かなと思ってさ。練習相手のルパがいないから少し寂しいけど、日課だから続けないと」

「熱心に鍛錬されるのは素晴らしいことです。私も主の魔力を沢山得て、早く大きくならなくてはなりませんね」

「え、プルスって今が最終形態じゃないの?」

「いえ。私にはまだ別の姿があるのですよ。まだ数回しかなった覚えがありませんけどね」

「へぇー。どんな姿になるの?」

「秘密です。お教えしたら面白くないですから」

「何それ。教えてくれてもいいのに……。ま、プルスが強くなってくれれば僕も楽が出来るからいいか。今でも十分助かってるんだけど、今以上に強く成られても困るよな。ますます血の気が多くなりそう……」

「そうですねー。否定はしません」

 どうやらプルスには別の形態があるらしい。僕に詳しい話をしてくれないので、そこまで重要な話ではないのだろう。それならあまり気にする必要もないので僕は剣を振る作業に没頭した。

 僕が剣を振る作業に没頭してからどれほど経っただろうか。真っ青だった空が赤み掛かり、しだいに暗くなっていく。

「ニクス。お腹減った~」

「そうだね。そろそろ夕食にしようか」

 僕は布で全身の汗を拭き、焚火場のもとに向う。そのさい、ルパを抱きあげて移動した。

「スンスン……。うっ……、また一段と汗臭い……」

「ごめん、確かに今は臭いかも。ルパは焼いてある角ウサギの肉を先に食べててもいいよ。僕は川で水浴びをしてくるから。その方が汗臭くなくていいでしょ」

「べ、別に私は気にしないし。くっ付かれなければそこまで嫌じゃないから……」

「そう。なら、あとからでもいいか」

 僕はルパを焚火場の傍に置き、集めた薪を持ってくる。小さかった焚火に薪を入れていき大きくした。熱せられた木の中に入っていた水分が弾け、火の粉と薪がぱちぱちと飛ぶ。

「ルパ、角ウサギに塩を掛ける?」

「掛ける」

 僕はルパの食べる角ウサギに塩を降りかけ、味を着けた。やはり塩は万能すぎる。ただ降りかけるだけで美味しくなるなんて魔法の粉かと思うくらいだ。

「いただきます」

「い、いただきます……」

「あれ、ルパもするの? いただきますって」

「べ、別にしようとしまいと私の勝手。ニクスには関係ない」

「そうだね。確かに関係ない。でも、一緒にいただきますって言うとなんか仲良くなった気がするよね。食事を共にする存在になれた気がして僕は嬉しいよ。ありがとう」

「いただきますの一言くらいで、感謝しないで。この言葉を言ったほうが美味しく感じると思ったから、言っただけ」

「はは……。そうなんだ。でも、いただきますって言えてルパは偉いね」

「だから褒めるなって……。動かしたくないのに尻尾が揺れちゃう……」

 ルパの態度とは裏腹に、尻尾はやはり正直だった。尻尾が振られると僕も少し安心するのだ。ルパに僕の言葉が通じているのだと。

 僕達は夕食を終え、汗を掻いた体を洗いに川に向った。

「さてと、ルパはまだ体が思い通りに動かないと思うから、ちょっと待っててね。僕が先に水浴びしちゃうから」

「ちょ、何で私の目の前で脱ぐの。見えない所で脱いできて」

「別に下着一枚になるだけだよ。それくらいどうってことないでしょ」

「そうだけど……。ニクスの体、思ったよりも筋肉が凄いから……、眼で追っちゃう。見たくないのに、勝手に視線に入ってこないで」

「なんか理不尽……。まぁ、ルパが嫌なことはしないよ」

 僕はルパの視界からどき、冷たい川に下着一枚で飛び込んだ。体に着いた汗を流し、さっぱりした気持ちで陸に上がる。乾いた布で体を拭き、綺麗な服に着替えた。

 ルパに川の冷たさを味合わせるわけにはいかないので、お湯を沸かしてぬるま湯を作ろうと考えた。

 家に戻り、葉で作った器に水を入れ、沸騰させる。草は中の水が燃え尽きないと簡単には燃えない。そのため、草で作った器でも水を沸かせるのだ。

 沸騰させたお湯に少し冷たいお湯を足して人肌にした。乾いた布を浸し、ぎゅっと絞る。
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