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新年になり、心が入れ替わる。暖かくなったら、旅に行こう。
バラーエナ
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「馬車に乗って移動しますか。それとも、歩きで海まで行きますか? 馬車だと銀貨二枚の料金を払えば二〇分くらいで海につきます。歩きだと二時間くらいですかね」
ロミアさんは馬車の停留所を指さしながら言った。
「走って五分で行こうか」
僕はルパの頭を撫でながら言う。
「うん。三分でもいいよ」
ルパは頷き、呟いた。
「はぁ……、お二人共、ここから海までは八キロメートル離れているんですよ。そんな馬が全力で走ったみたいな速度でずっと走れるわけないじゃないですか」
「……………」
僕とルパは見つめ合い、にやりと笑ったあと道路に立ち、走り出す。すぐに立ち止まり、どこに行けばいいのか分からないことに気が付いて、ロミアさんのもとに戻って来た。
「すみません、どこに行けばいいんですか」
「ニクスさんも案外天然な所があるんですね。安心しました」
「じゃあ、ロミア~案内して。私が運ぶから~」
ルパはロミアさんを肩車して持ち上げた。その状態で走ったらいったいどうなってしまうのだろう。ロミアさんは冷や汗だらだらだが、お金をもらうため肚は座らせている。
「こ、この道をずっと真っ直ぐ行けば、ブレーブ湾があります。そこなら、外交船じゃなく、通常の船が行き来する場所なので比較的安全です」
「真っ直ぐだね~。よし、いっくよ~!」
「ま、周りの馬車には気を付けてくださいね! あと、騎士に見つかっても捕まりますから、速度の出しすぎは控えてください」
「わかった。騎士に見つけられないくらいの速度で走ればいいんだね!」
「ちょ! なにもわかってない!」
ルパは地面を抉るほどの踏み込みで加速し、真っ直ぐ走っていった。僕も後を追い、周りの状況を見渡しながら走る。
万が一戦いが起った時、どこに身を隠すのが安全なのかを考慮するためだ。少し走ると、ルパの肩に乗ってグデ~っとしおれているロミアさんがいた。ルパの速度で眼を回してしまったらしい。まぁ、ルパの初速は僕よりも早い。怖いのも当然か。
「うわぁ~。ニクス、すごい広い。私達が住んでいるところの海も綺麗だけど、ここの海も綺麗……。空と海、船の三種類が一枚の絵になってるよ!」
「な、なんかルパちゃんの表現の仕方がニクスさんっぽいんですが……」
「まぁ、芸術家の行きつく先は皆同じと言いますからね。考え方も同じになってくるんですよ。そうだな~。題名を付けるとしたら『空と海に浮かぶ船』と言った感じかな~」
僕は親指と人差し指を伸ばし、指の間を直角にしてもう一方の手も同じ形をつくり、指同士をくっ付けてキャンバスに見立てる。
「この二人、やっぱり似てるわぁ……」
ルパはロミアさんを地面におろす。ロミアさんは少しふら付き、千鳥足になっていたが真っ直ぐ歩き始め、砂浜に向った。
僕達も砂浜に歩いていく。他の観光客の人も結構いて、ブレーブ展望台よりも人気があった。大きな船が人を運び、港におろしている。豪華客船から降りてきたのはお金持ちの貴族や冒険者達だろう。彼らとて仕事ばかりしていたら疲れると知っているのか、羽を伸ばしに来たようだ。もしかしたら実家に帰ってきた人たちかもしれない。そんな妄想が人間観察の面白い所だ。
「あの人……美しいな。貴族だろうか」
僕はルパに脛を蹴られた。骨に響く一撃で飛び跳ねるくらい痛い。
「ちょ、ルパ、何するの」
「ニクスの浮気者。やっぱりボンキュッボンの人がいいんだ」
ルパはプリプリと怒り、尻尾をあげて怒りの度合を表す。僕は別に浮気をしているわけではないのだが……。
「ルパ、僕は服装が美しいと思っただけだよ。と言うか、何で浮気になるのさ。結婚もしてないのに」
「な、なら初めからそう言え……。わかりにくいだろ」
ルパが何に怒っているのかはわからなかったが、機嫌を直してくれたようだ。
「ニクスさん、ルパちゃん。こっちに来てください。あんな所に大きなバーラエナがいますよ~。すごいすごい~
」
ロミアさんが指さす方向には頭から尻尾まで三〇メートル、幅が五メートルほどの大きな海洋生物が打ち上げられていた。すでに死んでいるのか、息をしておらず腹部が膨らんでいる。すでに周りに人だかりができており、物珍しい曲芸でも見ているようだった。
「ニクス、あれ、危ない。なんか、プスプスって聞こえる」
「え? そうなの」
僕は走って見に行こうとしているロミアさんを引き止める。
「どうしたんですか、ニクスさん。私達も早く見に行きましょうよ」
「いや、ルパがあのバーラエナは危険だと言っています。あの人だかりも早くどけた方が良いかと」
「危険? ルパちゃん、あれは海の生き物でバーラエナと言うとても大きな生き物だよ。大きくて怖いかもしれないけど、温厚な性格で船に乗らないと中々見られない生き物だから、今のうちにしっかり見ておいた方が良いよ」
ロミアさんはルパが大きな生き物に恐怖していると思ったのか、恐怖心を取るように説明した。
「違う。大きいから危険なんじゃない。あれ、破裂するかもしれない」
「え? 破裂……」
「あの体の中から空気がプチプチって弾ける音がするの。空気を入れ過ぎたボールみたいにパンって破裂するかも……」
「そ、そんなことが起こりえるの? でも、確かによく見たらお腹が膨れてる……」
観光客の人達は物珍しい生き物に大興奮で限りなく近づいていた。もしあの状態で破裂したら、近くにいる人達が危ない。
ロミアさんはルパを信じたのか、観光客のもとに走っていった。すでに五〇人ほど人が集まり、度胸試しでもするかのように近づいてく者もいる。
「皆さん! そのバーラエナは危険です! 破裂する可能性があるので今すぐに離れてください!」
ロミアさんは観光客に声をかけた。女性や子供達は素直に話を聞き、さっと離れていく。だが、女性に命令されたのが気に食わなかったのか、若い男達は忠告を聞かず、逆にどんどん近づいて行った。
「ニクス、あの大きい動物のお腹、もう限界みたい」
「限界って……。もう、そんなに体の中に何かが溜まっているか。ルパは危険だから、ここで待っていて。ロミアさんも近づき過ぎだし、僕が説得してくるよ」
「う、うん。気をつけて……。もう、時間無い」
「わかった」
僕はロミアさんにもとに駆け寄ろうとした。その時、男性の一人がナイフを取り出してバーラエナの腹部に指し込んだ。理由は定かではないが、膨らんだ腹部に何か入っているのかもしれないと思ったのかもしれない。
ナイフの穂先が腹に刺さった瞬間、バーラエナは刺された腹部から破裂した。破裂の影響で巨大な肉片が飛び散り、近くにいた男性たちは体が弾け飛んだ者や肉片に当たり重軽傷を負った者がいた。
「くっ! ロミアさん!」
僕は眼の前に飛んできた巨大な肉片を剣で切り裂き、無効化した。ロミアさんの方は小さな肉片がいくつも飛び、数カ所体を貫通してしまったらしく、前屈みに倒れ込んで血を流していた。
僕はすぐさま駆けつけ、頸動脈に指をあてる。心臓は止まっておらず、即死してはいない。
ロミアさんは馬車の停留所を指さしながら言った。
「走って五分で行こうか」
僕はルパの頭を撫でながら言う。
「うん。三分でもいいよ」
ルパは頷き、呟いた。
「はぁ……、お二人共、ここから海までは八キロメートル離れているんですよ。そんな馬が全力で走ったみたいな速度でずっと走れるわけないじゃないですか」
「……………」
僕とルパは見つめ合い、にやりと笑ったあと道路に立ち、走り出す。すぐに立ち止まり、どこに行けばいいのか分からないことに気が付いて、ロミアさんのもとに戻って来た。
「すみません、どこに行けばいいんですか」
「ニクスさんも案外天然な所があるんですね。安心しました」
「じゃあ、ロミア~案内して。私が運ぶから~」
ルパはロミアさんを肩車して持ち上げた。その状態で走ったらいったいどうなってしまうのだろう。ロミアさんは冷や汗だらだらだが、お金をもらうため肚は座らせている。
「こ、この道をずっと真っ直ぐ行けば、ブレーブ湾があります。そこなら、外交船じゃなく、通常の船が行き来する場所なので比較的安全です」
「真っ直ぐだね~。よし、いっくよ~!」
「ま、周りの馬車には気を付けてくださいね! あと、騎士に見つかっても捕まりますから、速度の出しすぎは控えてください」
「わかった。騎士に見つけられないくらいの速度で走ればいいんだね!」
「ちょ! なにもわかってない!」
ルパは地面を抉るほどの踏み込みで加速し、真っ直ぐ走っていった。僕も後を追い、周りの状況を見渡しながら走る。
万が一戦いが起った時、どこに身を隠すのが安全なのかを考慮するためだ。少し走ると、ルパの肩に乗ってグデ~っとしおれているロミアさんがいた。ルパの速度で眼を回してしまったらしい。まぁ、ルパの初速は僕よりも早い。怖いのも当然か。
「うわぁ~。ニクス、すごい広い。私達が住んでいるところの海も綺麗だけど、ここの海も綺麗……。空と海、船の三種類が一枚の絵になってるよ!」
「な、なんかルパちゃんの表現の仕方がニクスさんっぽいんですが……」
「まぁ、芸術家の行きつく先は皆同じと言いますからね。考え方も同じになってくるんですよ。そうだな~。題名を付けるとしたら『空と海に浮かぶ船』と言った感じかな~」
僕は親指と人差し指を伸ばし、指の間を直角にしてもう一方の手も同じ形をつくり、指同士をくっ付けてキャンバスに見立てる。
「この二人、やっぱり似てるわぁ……」
ルパはロミアさんを地面におろす。ロミアさんは少しふら付き、千鳥足になっていたが真っ直ぐ歩き始め、砂浜に向った。
僕達も砂浜に歩いていく。他の観光客の人も結構いて、ブレーブ展望台よりも人気があった。大きな船が人を運び、港におろしている。豪華客船から降りてきたのはお金持ちの貴族や冒険者達だろう。彼らとて仕事ばかりしていたら疲れると知っているのか、羽を伸ばしに来たようだ。もしかしたら実家に帰ってきた人たちかもしれない。そんな妄想が人間観察の面白い所だ。
「あの人……美しいな。貴族だろうか」
僕はルパに脛を蹴られた。骨に響く一撃で飛び跳ねるくらい痛い。
「ちょ、ルパ、何するの」
「ニクスの浮気者。やっぱりボンキュッボンの人がいいんだ」
ルパはプリプリと怒り、尻尾をあげて怒りの度合を表す。僕は別に浮気をしているわけではないのだが……。
「ルパ、僕は服装が美しいと思っただけだよ。と言うか、何で浮気になるのさ。結婚もしてないのに」
「な、なら初めからそう言え……。わかりにくいだろ」
ルパが何に怒っているのかはわからなかったが、機嫌を直してくれたようだ。
「ニクスさん、ルパちゃん。こっちに来てください。あんな所に大きなバーラエナがいますよ~。すごいすごい~
」
ロミアさんが指さす方向には頭から尻尾まで三〇メートル、幅が五メートルほどの大きな海洋生物が打ち上げられていた。すでに死んでいるのか、息をしておらず腹部が膨らんでいる。すでに周りに人だかりができており、物珍しい曲芸でも見ているようだった。
「ニクス、あれ、危ない。なんか、プスプスって聞こえる」
「え? そうなの」
僕は走って見に行こうとしているロミアさんを引き止める。
「どうしたんですか、ニクスさん。私達も早く見に行きましょうよ」
「いや、ルパがあのバーラエナは危険だと言っています。あの人だかりも早くどけた方が良いかと」
「危険? ルパちゃん、あれは海の生き物でバーラエナと言うとても大きな生き物だよ。大きくて怖いかもしれないけど、温厚な性格で船に乗らないと中々見られない生き物だから、今のうちにしっかり見ておいた方が良いよ」
ロミアさんはルパが大きな生き物に恐怖していると思ったのか、恐怖心を取るように説明した。
「違う。大きいから危険なんじゃない。あれ、破裂するかもしれない」
「え? 破裂……」
「あの体の中から空気がプチプチって弾ける音がするの。空気を入れ過ぎたボールみたいにパンって破裂するかも……」
「そ、そんなことが起こりえるの? でも、確かによく見たらお腹が膨れてる……」
観光客の人達は物珍しい生き物に大興奮で限りなく近づいていた。もしあの状態で破裂したら、近くにいる人達が危ない。
ロミアさんはルパを信じたのか、観光客のもとに走っていった。すでに五〇人ほど人が集まり、度胸試しでもするかのように近づいてく者もいる。
「皆さん! そのバーラエナは危険です! 破裂する可能性があるので今すぐに離れてください!」
ロミアさんは観光客に声をかけた。女性や子供達は素直に話を聞き、さっと離れていく。だが、女性に命令されたのが気に食わなかったのか、若い男達は忠告を聞かず、逆にどんどん近づいて行った。
「ニクス、あの大きい動物のお腹、もう限界みたい」
「限界って……。もう、そんなに体の中に何かが溜まっているか。ルパは危険だから、ここで待っていて。ロミアさんも近づき過ぎだし、僕が説得してくるよ」
「う、うん。気をつけて……。もう、時間無い」
「わかった」
僕はロミアさんにもとに駆け寄ろうとした。その時、男性の一人がナイフを取り出してバーラエナの腹部に指し込んだ。理由は定かではないが、膨らんだ腹部に何か入っているのかもしれないと思ったのかもしれない。
ナイフの穂先が腹に刺さった瞬間、バーラエナは刺された腹部から破裂した。破裂の影響で巨大な肉片が飛び散り、近くにいた男性たちは体が弾け飛んだ者や肉片に当たり重軽傷を負った者がいた。
「くっ! ロミアさん!」
僕は眼の前に飛んできた巨大な肉片を剣で切り裂き、無効化した。ロミアさんの方は小さな肉片がいくつも飛び、数カ所体を貫通してしまったらしく、前屈みに倒れ込んで血を流していた。
僕はすぐさま駆けつけ、頸動脈に指をあてる。心臓は止まっておらず、即死してはいない。
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