上 下
4 / 19

第2話 はじまり アラン視点(2)

しおりを挟む
「アラン様。あの時のお言葉を、覚えていらっしゃいますよね?」

 それは、二種の絶品を堪能して10分ほどが経った頃だった。引き続き楽しくお喋りをしていたら、シャルロットが淑やかに微笑んだ。

「一個目は1か月前の、午後5時14分37秒。二個目は昨日の、午後4時41分13秒。そのタイミングでアラン様が仰られた、あのお言葉たちですわ」
「え……。ごじ……さんじゅうなな、びょう……? よじ……じゅうさん、びょう……?」
「あら? 覚えていらっしゃいませんか? 『君と過ごす時に起きた出来事は、秒単位で全てを記憶している』『忘れるはずがないじゃないか』、そう仰られていたのに」
「いやいやっ、もちろん覚えているよ! 午後5時14分37秒と午後4時41分13秒に俺が言った言葉だよねっ!? ちゃんと覚えているよっ!」

 確かに俺はそう言ったが、あれは少々誇張した。せめてその時のシチュエーションを教えてもらわないと、何を口にしたのか皆目見当もつかない。
 だがそれを正直に伝えてしまうと、幻滅させてしまう。常に完璧な、『アラン様像』が崩れてしまう。
 そこで表情や声音を巧みに使い、あたかも真実であるかのように否定した。

「そうでしたか。安心いたしました」
「はははっ、不安にさせてごめんよ。それで、シャルロット。その二つの言葉が、どうかしたのかい?」
「……わたくしはあのお言葉によって、アラン様との婚約を決めたのです。アラン様が、口にされたもの。そのお言葉があったからこそ、『今』があるのですわ」
「ああっ! そうだね! ああそうだ! 俺達の関係は、あの言葉が切っ掛けで1ステップ2ステップ進んだんだね!」

 それを聞いて、発言内容が思い当たった。
 その時に言った言葉は、


『わたくしに、プレゼントだなんて……。いくら政略結婚といえど、ベアトリスお姉様に内緒でいただけません』
『シャルロット、聞いておくれ。政略結婚だからこそ、受け取ってもらって構わないんだよ。俺とベアトリスの間に、元々愛はなかったのだからね』

『アラン様。こっそりお会いするのは、もう止めていただきたく思います』
『大丈夫だよ、シャルロット。前にも言ったよね? 俺とベアトリスに、愛はなかった。今も昔も、愛なんて存在しないんだ。君が気に病む必要はないんだよ』

 コレだ。
 シャルロットは心優しく思い遣りのあるレディだから、ずっと戸惑っていた。
 だがその言葉が――俺の心を込めた言の葉が、彼女の『心』を囲う『壁』を壊してくれた。
 素直に、なってもいいと――。その胸の中にある感情に、素直に従ってもいいと――。シャルロットが気付いてくれたんだ。

「はい、そうでございます。……いくつも問題はあったものの、それらは動き出す切っ掛けとしては少しばかり弱かった。わたくしの中にある最低限の常識とモラルが、行動を止めておりました」
「うんうん、そうだよね。最低限のじょうしきとも――ん……?」

 常識……? モラル……?
 シャルロットは、何を言っているんだ……?
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私が王女です

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:34,171pt お気に入り:344

異世界に転生したので、とりあえず戦闘メイドを育てます。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,214pt お気に入り:945

グラティールの公爵令嬢

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:17,928pt お気に入り:3,349

白い結婚の契約ですね? 喜んで務めさせていただきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,004pt お気に入り:63

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:163pt お気に入り:1,917

妹の妊娠と未来への絆

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,567pt お気に入り:29

【完結】真実の愛はおいしいですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,552pt お気に入り:207

真実の愛がどうなろうと関係ありません。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,726pt お気に入り:2,923

処理中です...