婚約破棄ですか? ありがとうございます!

柚木ゆず

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第10話(3)

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「男性さん、女性さん、ありがとうございます。お二人が止めてくださらなければ、アイズの想いを台無しにしてしまうところでした」

 嬉し涙を拭った彼女は嫋やかに何度もお辞儀を行い、急いで馬車に戻ろうとして、止まる。
 乗ってきた馬車は、さっき帰っちゃったもんね。国に戻る手段がない。

(アルフレッド。あたしが乗ってきた馬車、使わせてもらってもいいかな?)
(俺も、そう思ってたところ)「あの。よろしければ、ウチの――」
「わたくしは王族にお仕えする、ラングスと申します。現在王の命でアオプ湖の視察を行っておりまして、よろしければお送りさせていただきたく思います」

 ラングスさんが偶然を装い、王家の紋章を提示しながら声をかけてきた。
 他国の貴族、しかも身分が高そうな貴族に恩を売っていれば、今後何かの役に立つかもしれない――。そんな魂胆なんでしょうね。

「移動でお困りの用でしたので、無礼と承知で手を挙げさせていただきました。どうぞご利用くださいませ」
「…………………………。王族の方でしたら、安心ですね。お言葉に甘えさせていただきますわ」

 令嬢様はラングスさんをじっと見つめたあと、綺麗なカーテ・シーを行った。
 じっと見てる際に、若干目が細まった気がしたのは……。気のせいではない気がする。

「男性さん、女性さん、本当にありがとうございました。大変申し訳ないのですが、現在は諸事情で名前と身分をお伝え出来ません。ですので後日恩返しを行うために、お二人のお名前を教えていただけますか?」
「…………」

 ジトー。
 頭上にそんな擬音が出そうな眼差しが、ラングスさんから注がれる。
 はいはい、分かってますってば。連想されないように、正体は明かしませんよ。

「あたし達は自分勝手に動いただけで、お礼なんて不要です」
「その笑顔とその言葉で、俺達は満足してます。お元気で」

 こういう時は、逃げるが勝ち。あたし達はあはははっと笑ってこの場を去り、バスケットやシートを回収して馬車に戻る。
 もうじき、午後の3時。キリがいいし、アルフレッドは遅刻しちゃうと大変だもんね。今日はお仕舞いにしよう。

「今日、楽しかった。家のお仕事、頑張ってね」
「サンキュ。気を付けて帰るんだぞ」

 馬車に乗り込むあたしに手を振り、専属の御者さんに安全運転をお願いして、再びあたしに顔が向く。

「他貴族との会談とかが立て込んでて、次に会えるのは5日後になりそうなんだ。だからそれまで、座席にあるソレで暇を潰しててくれ」
「ぁ、知らない間に何かある。これって………………パズルだ」

 置かれてあったのは、1000ピースのパズル。今日足を運んでいた場所はパズルが有名で、ここに来る前に買ってくれたみたい。

「ありがと、アルフレッド。次に会う時には、完成したのを披露するよ」
「おう、楽しみにしてる。そういや次は、ウチで会わないか? 使用人レナモさんも会いたがってるし、母さんにも顔を見せてあげて欲しいんだよ」
「あたしも会いたかったし、おば様にご挨拶をしたい。次はロザス家で決まりだね」

 その日は午後3時くらいに戻れるから、今日みたいに迎えを出す。庭で紅茶やお菓子を食べてのんびりしよう。
 そんな風に打ち合わせを軽くして、バイバイ。今回も次回の約束をして、あたし達は一旦のお別れをしたのでした。

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