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第9話 もう一人の末路 俯瞰視点
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「兄さん。当主の座から降りていただきます」
奇跡的に意識が回復したジェラルドが突如意識を失ってから、3か月後。父マズトのもとを、複数人の親族を連れて実弟ラマールが訪れていました。
「ラマール! こんな時に何を言って……!!」
「こんな時だからこそ、言っているのですよ」
嫡男の回復の見込みはなく、代わりになる子どもはいない。このままでは新たな世代が誕生することがなく、最悪の事態を回避するべく出来るだけ早い段階で、『一族の中から養子をもらう』『当主を変える』を選択することとなります。
とはいえ特にこの国では、実子に継承させていくケースが殆ど。前の代、今の代、次の代と実の子のバトンを繋げていけるよう、一族は後者に決めていたのです。
「医者が言っているように、回復の見込みはない。早急に動くべきなのですよ」
「ジェラルドは一度意識を取り戻した! ならば再び――」
「その話は知っていますよ。我々が知らない間に工作をしていたようですが、なにやらきな臭い動きがあったようですね」
実弟や親族は『ノルズエ家』を最優先とするものの、それでも道理は通す。真実を認知されると猛烈な非難を受けるため隠していましたが、当主交代に関する準備をしている際に知得されてしまっていました。
「その件に関しては後日、我々が謝罪します。すべてにおいて貴方の出る幕はもうないのですよ、兄上」
「……………………」
「そしてもうひとつ。貴方の居場所も、もうありませんよ」
婚約解消の真実を白日のもとに晒した場合、ジェラルド親子を置いておくと『ノルズエ家』の印象が更に悪くなってしまう。ソレを避けるため、追放も同時に決まっていたのです。
「ま、待ってくれ! せめて内密に温情をくれ……! それくらい可能だろう……!?」
「可能ではありますが、そちらに関しては一族から猛反対が出ます。無理な相談ですね」
余計な騒ぎを起こした者に差し伸べる手なんてない。
一族内に味方はおらず、ラマールの同行者達は一様に首を縦に振りました。
「とはいえ、問題児であっても病人を放り捨てるわけにはいけません。ジェラルドはこちらで治療先を探しておきましょう」
「なっ、ならば私も混ぜてくれ! 私だって当初は反対したんだ!! だが家のためを思って――ふたりの子を考えて賛同したんだ! 一番悪いのはジェラルドでっ、それより酷い目に遭うのはおかしいじゃないか!!」
「家をため、よりも自分のための方が多いでしょう? その言い訳は通用しませんよ。……見苦しい」
「まっ、待ってくれ! だから――っ!? 離せ!!」
これ以上告げることは、ない。マズトは2人の男に両腕を拘束され、出入口へと引きずられ始めました。
「やめろ! 不条理だぁああああ!! おかしい!! おかしいい! おかしいいいいいいいいい!!」
いくら叫んでも、反応する者は誰もいません。そのままマズトは、屋敷、そして敷地の外へと連れて行かれてしまい――
元当主だった彼はすべてを失い、路頭に迷う羽目になってしまったのでした。
奇跡的に意識が回復したジェラルドが突如意識を失ってから、3か月後。父マズトのもとを、複数人の親族を連れて実弟ラマールが訪れていました。
「ラマール! こんな時に何を言って……!!」
「こんな時だからこそ、言っているのですよ」
嫡男の回復の見込みはなく、代わりになる子どもはいない。このままでは新たな世代が誕生することがなく、最悪の事態を回避するべく出来るだけ早い段階で、『一族の中から養子をもらう』『当主を変える』を選択することとなります。
とはいえ特にこの国では、実子に継承させていくケースが殆ど。前の代、今の代、次の代と実の子のバトンを繋げていけるよう、一族は後者に決めていたのです。
「医者が言っているように、回復の見込みはない。早急に動くべきなのですよ」
「ジェラルドは一度意識を取り戻した! ならば再び――」
「その話は知っていますよ。我々が知らない間に工作をしていたようですが、なにやらきな臭い動きがあったようですね」
実弟や親族は『ノルズエ家』を最優先とするものの、それでも道理は通す。真実を認知されると猛烈な非難を受けるため隠していましたが、当主交代に関する準備をしている際に知得されてしまっていました。
「その件に関しては後日、我々が謝罪します。すべてにおいて貴方の出る幕はもうないのですよ、兄上」
「……………………」
「そしてもうひとつ。貴方の居場所も、もうありませんよ」
婚約解消の真実を白日のもとに晒した場合、ジェラルド親子を置いておくと『ノルズエ家』の印象が更に悪くなってしまう。ソレを避けるため、追放も同時に決まっていたのです。
「ま、待ってくれ! せめて内密に温情をくれ……! それくらい可能だろう……!?」
「可能ではありますが、そちらに関しては一族から猛反対が出ます。無理な相談ですね」
余計な騒ぎを起こした者に差し伸べる手なんてない。
一族内に味方はおらず、ラマールの同行者達は一様に首を縦に振りました。
「とはいえ、問題児であっても病人を放り捨てるわけにはいけません。ジェラルドはこちらで治療先を探しておきましょう」
「なっ、ならば私も混ぜてくれ! 私だって当初は反対したんだ!! だが家のためを思って――ふたりの子を考えて賛同したんだ! 一番悪いのはジェラルドでっ、それより酷い目に遭うのはおかしいじゃないか!!」
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「やめろ! 不条理だぁああああ!! おかしい!! おかしいい! おかしいいいいいいいいい!!」
いくら叫んでも、反応する者は誰もいません。そのままマズトは、屋敷、そして敷地の外へと連れて行かれてしまい――
元当主だった彼はすべてを失い、路頭に迷う羽目になってしまったのでした。
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