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第3話 過去~8年間・レオナルドの場合~ 俯瞰視点

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「疫病神がいなくなった! これで減り続けていた黒字が元通りになるぞっ!」

 泥棒未遂という罪をでっち上げ、ティファニーミントを屋敷から追い出したあとのこと。レオナルドは家族とともに、満面の笑みを浮かべ――ましたが、そんな未来が訪れはしませんでした。

 突然の利益減少、その原因はもちろんミントでありません。

 黒字の減少が起き始めた真の原因は、レオナルド達一族の――ハピンズ商会の、経営方針にありました。

 良く言えば、世の中の動きに左右されない。
 悪く言えば、流行に合わせて変化できない。

 〇〇が売れているからずっと〇〇で勝負しよう。
 ハピンズ商会はそんな方針を取っていたため、ちょうど婚約が成立した頃から需要と供給に『ズレ』が生まれるようになっていたのです。


『ミント! お前と婚約してから商会の利益は減る一方だ!! これが偶然だと思うか!? 違う! 俺たちはずっと結果を出してきた超有能な経営者でっ、そんな経営陣がこれまで通りの行動をしているんだぞ! なのに利益だけが悪い方向に変わり始めたのはっ、おまえのせい! この屋敷に疫病神が加わってしまっていたからだったんだ!!』


 変わり始めたのは、なにも変わっていないから。
 ハピンズ商会は、所謂ワンマン経営。下の者は誰もが経営陣を恐れ、思っていることを口に出せない状態。舵を取っているレオナルド達がその事実に気付けないのであれば、ミントがいなくなっても好転するはずがありません。

『くそっ。どうして減少が止まらないんだ……!?』

『ちぃっ。疫病神の残り香か……!?』

『いやっ、違う! 良いニュースだぞレオナルド!』
『? 父上? どうしたんだ……?』
『久しぶりに黒字が増えたぞ!! やっと、消えた! 我々はついに疫病神から解放されたのだ!!』

 たまに起きる、需要と供給の一時的な一致。それにより時折数字が回復したことにより、レオナルド達の中で『ミント=疫病神』が勘違いとなる日は最近まで・・・・訪れませんでした。
 そのため何も対策を取ることはなく現状維持を続けてしまい、

 4年前、ついに商会は赤字に転落。

 それによってレオナルド達は所有していた物件の大半を売却することになり、生活を切り詰めないといけなくなる羽目にもなってしまいました。
 そういった出来事――心身の負担の急増によって、レオナルド達全員の容姿も変わり始める。

 ふくよかだった身体は、食事の質と量の低下によって痩せたものへと変化。
 幼く見える童顔だった顔は、焦りと将来への不安によって一回り以上老けてみる顔へと変化。

 ティファニーが気付かない姿へと、変貌していたのでした。
 現在はようやく事実に気が付いたものの、すでに時遅し。自力での商会の立て直しは、もはや不可能な状況となっていたのでした――。

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