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第5話 ひとつの仕掛け ティファニー視点(2)

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「どこかの誰かさんは――ああ失礼、目の前にいらっしゃるレオナルド・ラインメーズ様でしたね。貴方様はティファニーが居たら不幸になると仰ったそうですが、不思議ですね? ティファニーが傍に居ても、不幸なことは何一つありませんでしたよ?」

 こくりと首を傾げていたあと。フィルベールさんは左に傾けていた首を戻し、次は右にゆっくりと傾けました。

「僕を含め何十何百の人間が近くにいましたが、誰にも一度もなかった。それに僕は昨日まで、彼女と婚約していました。当時の貴方様と同じ状態だったのに、僕自身にも『家』にも、財に関する問題などもまったく起きませんでしたね。はて、これはどういうことなのでしょうか……?」
「……………………」
「ああ、分かりました。利益減少の件は、始まった時期と婚約がたまたま重なっただけ。あの出来事は単純に、ハピンズ商会の経営陣が原因。舵を取る者が無能だったが故に起きたものだった――」
「言葉に気をつけろ!! 俺が無能だと!? ふざけるな!!」

 落ち着いた声は、ヒステリックな大声にかき消されました。

「ハピンズ商会はそれまでずっと安定して利益をあげていたんだぞ!! 同じことを続けているのに変わってしまった!! 明らかにミントのせいじゃないか!!」
(ふふ、とっくに分かっているくせに。でも、それでいい)「いえいえとんでもない、彼女のせいなんかではありません。別の理由でも、『ティファニーは疫病神ではない』と断言できますよ」
「べつの理由!? なっ、なんだ!? なぜそう言える!?」
「婚約破棄の前後で、そちらはなにも変わっていないからですよ。……レオナルド・ラインメーズ様。ハピンズ商会は曰く疫病神がいなくなってから、利益が戻りましたか? 一時的にではなく、安定してもとに近い数字を出せるようになりましたか?」
「っっ」

 レオナルド様はああ言っていましたが、戻っていないのは明白。それどころか、悪化する一方だと分かります。
 その事実が一瞬だけ口を噤ませましたが、その口はすぐに再びせわしなく動き始めました。

「ああっ、戻ったとも!! なったとも!! お前は俺がさっき言った内容をもう忘れたのか!? 規模縮小はそういったことが理由ではないと言っただろう!! ソレは口外できない計画が理由っ、ハピンンズ商会の更なる飛翔のための力溜めなんだよっ!! ミントがいなくなったらすぐに回復してっ、あっという間に元の水準まで戻っている!! 今日までずっっとな!!」
「へぇ、そうだったのですね。別人のようにやつれているのは、経営状態の悪化よる影響かと思っておりました」
「そっ、それもっ、多忙が理由だと説明したはずだ!! 来年の春には、状況ががらりと変わるっ。サナギは華々しく蝶になると言っただろうが!!」
「おっと失礼、そういえばそのように仰っておりましたね。そうですか、そうですか。来年の春には、ティファニーは疫病神だったとご自身の主張が正しいと証明していただけるのですね」

 そう言いながら笑みを返した、その直後でした。フィルベールさんは小声で、(この様子なら乗ってくるね)と呟きました。
 そして、少しだけ口元を緩めながら――
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