才能取扱い店 二好屋

１０ 了

　皆様、ごきげんよう。本日は趣向を変え、とある雑誌の記事をお届けしましょう。

『では、最後の質問になりますが。これまで大変だったな、辛かったな、という出来事はありましたか？　もしあった場合、それはどうやって乗り越えましたか？』
『まずあるかないかですが、山ほどありましたよ。しかもどれも絶望的で、当時の自分ではどんなに足掻いても克服できないものでした』
『そう、なのですか……。それで…………そのような問題は、どう乗り切ったのですか？』
『……残念ながら、解決や達成は無理でした。なので……その……。家族との約束もあり、自分を曲げざるを得なくなってしまったんです』
『そ、そうなのですか……』
『ですが、曲げても「諦める」ことはしませんでした。とある方に金言を頂き、違う道を進んでいても、心は常に自分が目指したい方向に向いていました』
『へぇ～、そうなんですかっ。ところでその方とは？』
『申し訳ありませんが、本人様の希望もあって詳しくお教えできないのですよ。ですので変わりに、「世の中にいる昔の自分」にアドバイスをさせていただきます』
『おおっ。是非お願い致します！』
『…………もしも絶対○○になりたいという強い強い意志があるなら、この先、何があっても諦めないでください。例え人生の決断をしなければならない時が近づいていても、決して生き急がないでください。心が折れなければ「夢への道」が真に絶たれることはなく、いつか進めるチャンスはやってきますから。必ず、やってきますから』
『う～ん、含蓄のあるお言葉ですねぇ……！　本日は長時間に渡ってインタビューに御答え頂き、ありがとうございましたっ』

　これは、とある雑誌。とある音楽関係の雑誌の１ページ。冒頭に、


　26歳でデビューの天才ピアニスト・吉祥翠特集


　という文字のある、ひとりの元少女のインタビューが載った雑誌の１ページ。