催眠探偵術師のミク

柚木ゆず

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2 ご挨拶(2)

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「あっ、貴方が噂の転校生ちゃんね。私は寮母の村江、よろしくね」
「安西三久ですっ。よろしくお願いしますーっ」

 こんな風にご挨拶をしながら、またスタスタトコトコ。ぴかぴかの廊下や階段を移動して、『218号室』の前で止まった。

「ここが、あなたのお部屋よ。安西三久さん、どうぞ」
「はい。失礼しますっ」

 学園長先生が扉を開け、わたしはペコッとお辞儀をして入る。
 そうしたらお部屋の中にはツリ目とツーサイドアップの、かわいいウサギちゃんみたいな子がいて――

「あっ。はじめ」
『しーっ。少しストップですっ』

 ――入口近くで待っていてくれた夢卯ちゃんに向けて、お口の前で人差し指を立てた。

「「? ??」」
「んっと………………だいじょうぶ、ですっ。隠しカメラとか盗聴器とかはなかったので、わたしのことを喋ってもらってもオーケーです」

 ――知らない部屋に入った時は、隠しカメラや盗聴器があると思って探しなさい――。
 これも、探偵の鉄則の一つなのですっ。

「カメラ…………ぁ、もしかして。佐々木さんが最初に、学園長室で一周見られていたのも……」
「そーですっ。そこって学園長先生以外が入れるところじゃないですけど、やっておきましたっ」

 ――決めつけは大失敗をもたらす。決めつけて物事を行ってはならない――。
 こっちも、鉄則。なにかあったら大変だから、きちっと確かめましたっ。

「この部屋にもないですし、壁は厚いので問題ありませんっ。何を喋っても悪いことは起きませんよー」
「そ、そうなのですか。それなら夢兎、御挨拶の続きを――スミマセン失礼します」

 学園長先生のスマホが震えて、大事な連絡みたい。すまなそうにお背中を向けて、お電話に出る。

「……はい、はい……。………………そう、ですか。でしたら…………そうですね。はい、はい。ええ、ええ。至急うかがいます」

 学園長先生はお話を終えると、はぁとため息を一つ吐いた。
 そっかそっか。ここにいられなくなっちゃったんだね。

「他校の学校長との会談が、先方の都合で前倒しになりました。なので御説明の途中なのですけど、抜けないといけなくなってしまったのですよ……」
「重要な部分は、もうお聞きしましたー。あとは学園での生活についてだけなので、ソコは夢卯ちゃんに教わりますよー」
「ママ、あとはあたしがやります。任せて」
「え、ええ分かったわ。夢兎、よろしくね」

 学園長は肩を窄めてわたしにお辞儀をして、パタン。扉が閉まる直前もお詫びを言ってくれて、お仕事に向かったのでした。

「バタバタしちゃてゴメンナサイ。えっと。アナタのことは、人がいるところでもいないところでもミクちゃんって呼ばせていいかな?」
「うんっ、どーぞっ。これからよろしくお願いしますっ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。……ミクちゃん。あたしのためにワザワザ来てくれて、ありがとうございます。感謝しています」
「んーんっ。夢卯ちゃんは、被害者さんなんだもん。お気になさらずにだよーっ」

 夢卯ちゃんと学園長先生は、迷惑をかけられてる人達。そういうのは要らないのですっ。

「じゃーはじめましてのご挨拶はお仕舞で、あそうだっ。夢卯ちゃんが気になってると思うとこを、はっきりさせておくね」
「あたしが、気になってるところ……。それって、催眠術の……」
「そーそーっ。夢卯ちゃんは、催眠術って本当にあるの? 効くの? って思ってるよね? だからね、これからちゃんとあるってお見せするよー」

 これは探偵と催眠術師のではなくって、お仕事をする時の鉄則なんだ。
 だって信用できないことがあると、不安になっちゃうもんね。被害者さんの不安を早くなくすのも、催眠探偵術師のお仕事なのですっ!

「催眠術についてくわしーく説明すると頭がパンクしちゃうから、夢卯ちゃんに体験してもらうねーっ」

 催眠術とは、人の潜在意識に働きかけて行う心理学や脳科学などを利用した『技術』である――。とか。
 修行の時にお勉強した内容をお話しても、チンプンカンプンになっちゃう。というワケでっ、実際にやってみましょーっ。

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