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第7話 もう一つの、理由 俯瞰視点

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「姉さん、申し訳ありません。そのように、余計な戸惑いを生んでしまうと理解してはいたのですよ」

 おもわず固まってしまっている、ソフィア。最愛の人であり姉に向けて、一度ソファーから立ち上がり、オリヴァーは深々と背を折り曲げました。

「ですがそれでも、どうしても打ち明けなければならなかったのですよ。本心を伏せたまま話を進めると、姉さんが誤った感情を抱いてしまいますので」

 わたしのために、そこまでしてくれるなんて。ありがとう――。
 確かに『ソフィアのために』という思いもありましたが、それ以上に私的な想いがありました。

 事情がどうであれ、愛し尊敬している人にこんな嘘は吐きたくない。
 こんな形で好印象を抱かせたくない。

 そんな考えが、ありました。
 そのためオリヴァーは、すべてを承知で告白していたのです。

「ですので先ほど僕は、あのように口にしました。私的な怒りを多く含む、僕自身のための行動でもあるため、ああいった感謝は不要なのですよ」
「………………そう。そうだったのね。オリヴァー、とても貴方らしい理由だわ」

 ようやく表情筋などを動かせるようになり、ソフィアは目を柔らかく細めました。そして更に二言三言伝えようとしましたが、そうしている暇はないと判断し、違う言葉を口にすることにしました。

「オリヴァー。もう行くのね?」
「はい。早く次の行動に移らないと、必要な仕込みをできませんので。失礼します」

 オリヴァー考案の策を実行するには、イーサンとアヴリーヌの準備に合わせて動く必要がありました。そしてその時はもうすぐ訪れるため、オリヴァーに再度座って会話を行う余裕はなかったのです。

「突然訪れ、突然打ち明け、突然去る。まるで嵐のようになってしまうことを、お許しください」
「それらはそれこそ、わたしのためにしてくれた行動なんですもの。今度はこちらが、『不要』を返す番よ」
「……ありがとうございます。では姉さん、また明日お会いしましょう」
「ええ、また明日。どうもありがとう。よろしくお願いします」

『次の行動を起こす前に、必ずや行っておかなければならない』、とオリヴァーが考えていること。そちらはこうして終了し、微笑みを送り合ってオリヴァーはその場を去ります。
 そうして彼は計画の第二段階をスタートさせ、そんな出来事を知る由もない二人は――


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