改造王女の後継争奪記

ユズキ

文字の大きさ
6 / 42

6話:貧民街へ

しおりを挟む
 マドゥに案内されて、カエはカルリトスを肩にのせて外に出た。

「うわあ…」

 目の前にデンッと停まる一台の車。黒塗りのバカデカイそれは、セレブや要人が乗り回すあの高級車にソックリだ。

「ファンタジーなのに…馬車じゃないんだ?」
「馬車なんぞ、農民や業者が使うもんじゃ」
「…そ、そうなんだ……」

(まあ、ファンタジーも多種多様…。それにしても凄い高級感。ロールスなんとかいうのに似てるなあ~)

「ドコへ行くんだ、カルリトス」

 運転手の男が車から出てきた。

「王女のソティラスを揃えに行く。まずは貧民街だの」
「おうけい」

 そう言って、運転手はタバコを「ぷかあ」とふかした。

(なにこの態度の悪い、ムサいオッサン…)

 痩身で不精髭顔、全身からだらしなさが漂っている。しかし太々しい態度とは裏腹に、どこか、猛禽類に似た鋭さを感じた。

「こやつは、運転や下働きをするシャムじゃ」
「へぇ、ついに仕上がったってワケか。まあ、見た目は及第点だな」

 怪訝そうに見上げるカエを、シャムは偉そうに見下ろした。

「なんか田舎くせー雰囲気が、滲みだしすぎてんぞ」
「ンなっ」
「見た目はソックリだが、気品の欠片もねーじゃん。庶民丸出しってやつだ。もっと優雅に振舞え、オ・ウ・ジョ・サ・マ」

(カッチーン! なんなのよコイツムカツク!)
(雑用ごときがエラソーにい!!)

 田舎臭いだの、気品がだのと、図星の王子様過ぎてカエは唸る。自覚しているぶん、心にグサッと深く突き刺さった。

「どうどう、車に乗るがよい」

 カルリトスは小さな手で、慰めるようにカエの頬をぺちぺち叩く。

(チンチラに慰められたし! くっそう!)

 カエは悔しさで半べそになりながら、車に乗り込んだ。



 カエが熱心に外を見ていたからなのか、シャムは車をゆっくり走らせてくれた。
 広大な敷地の外はあまり日本と差がないと思うくらい、近代化した街並みが広がっていた。遠景に高層ビルが見当たらないくらいだろうか。
 電柱は立っているし、他にも車が走っている。自転車もバイクもあった。
 歩いてる人たちの服装は洋服の形をしているが、攻めた柄がアジアン風の民族衣装に似ている。

(異世界って聞くと、中世ヨーロッパっぽいイメージが私の中で定着してたかも。西洋のアンティークな町並みと、のどかな牧草地。貴族のお屋敷と馬が闊歩する世界)

 好んで読むラノベの世界は、そんな世界観が多い。

(でもここってモロ、映画にあるインド風な感じだもんね。私の衣装、めちゃ派手派手だし…。サリーとかいうんだっけ)

 斜め前の助手席に座るマドゥを見る。ピンク色の生地に黄金のブレードの縁取りは、カエより地味だが充分豪奢だった。
 近代的な街並みを通り過ぎ、郊外の草原を抜け、やがて森のようなところに入り込んでいく。道は舗装されておらず、むき出しの地面はあぜ道のようだ。

「着いたぜ」

 高さが不揃いの竹で囲まれた集落の入り口前に、車は止まった。

「あれが、貧民街じゃ」

 廃材で組まれたあばら家が、ずらっと奥に続いている。
 あばら家にドアなどなく、襤褸きれをカーテンのようにつけてるだけ。台風がきたら一貫の終わりだ。

(廃墟の間違いじゃ…)

 しかし環境に負けないくらい、住民には活気があった。飛び交う大声、様々な笑い声、子供たちの元気な声が、絶えまなく集落を騒がせていた。
 見える範囲では、魚を軒下に吊るしながら、笑い声を交わす人々。破れた服は細かく繕われ、何度も染め直した色合いが、かえって目を引いた。

(見た目はちょっと酷いけど、雰囲気明るいなあ。人として、ちゃんと暮らしてる)
(なんか、あったかいな)

 時代劇ドラマで見た、おんぼろ長屋みたいな感じだなと思った。

老師せんせい、ソティラスってどうやって見つければいいの?」
「まず10歳から14歳までの子供が対象じゃ。そして、寿命が多い程良い」

 カエは小首をかしげる。

「んー、どうやって寿命が多いって判るの?」
「儂が判る」
「おおっ! さすが数千年を生きるチンチラ! ……いやもう、その存在だけで色々おかしいけど!」

 肩に乗るチンチラを、カエは大絶賛した。カルリトスはどやぁっと胸を張った。

「じゃあ、集落に入って探せばいいね」

 そう言って車から降りようとしたカエを、シャムが慌てて止めた。

「お前は車から出るんじゃねえ!」
「え、なんで?」
「お前は王女だろうがっ! 自覚を持て自覚を!」
「姫様、王族はみだりに下々にお姿を見せないものでございます。お車の中でお待ちくださいませ」

 それまで黙っていたマドゥが、落ち着いて口を挟んだ。

「そ…そゆものなんだ…」
「はい。子供たちは、シャムが連れてまいります」
「そうだバカ」
「バカってゆーな!」

 カエとシャムは、額を突き合わせて睨み合う。

「ん?」

 カエは前方の窓から見える、2人の子供に気付いた。
 野菜の入った大きな籠を頭に乗せた女の子と、水桶を持つ男の子。重そうな水桶の取っ手を、女の子が一緒に持とうと手を伸ばし、男の子が慌てて断る仕草をした。姉弟のような2人の様子が微笑ましい。

(なんかきゃわわっ)

 窓が閉っているから会話は聞こえないが、楽しそうな2人の笑顔が眩しく見えた。

老師せんせい、あの桃色の髪をした子と、黒髪の子、2人の寿命は?」
「ん?」

 カルリトスはカエの指し示す子供2人に、赤い瞳を向ける。

「ふむ…」

 赤い瞳が淡く光った。

「元気じゃな。命の輝きが大きいのう…ちょうど80歳じゃ」

 カエの野性的勘が働いた。

「あの子たちきっとスゴイよ、絶対! ビビッと来ちゃったもんね、心に!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜

侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」  十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。  弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。  お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。  七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!  以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。  その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。  一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

怠惰令嬢の玉の輿計画 昼寝してたら侯爵様と面倒なことになりました

糸掛 理真
恋愛
頑張りたくない 働きたくない とにかく楽して暮らしたい そうだ、玉の輿に乗ろう

処理中です...