30 / 42
30話:アヤン vs スバス ①
しおりを挟む
***
謁見の間は複雑な空気を漂わせていた。
王のエセキアス・アラリコの中で最強を謳われる、十二神将が2人も倒されたのだ。
更にアルジェン王子のソティラスも一人倒され、カエのソティラス2人が勝利した。
「ふむ…。余の十二神将も、実戦経験が浅かったと見える」
感情の伺えない、淡々とした口調で王は呟いた。特に怒ってるようではない。
(良かったあ…。会話は聞こえないけど、カイラもルドラも無事ね! 怪我はたくさんしてるようだけど、2人一緒ならきっと大丈夫!)
カエはホッと安堵すると同時に、2人の勝利を素直に喜んだ。
一方アルジェン王子は、今にも画面に飛びかかりそうな形相で歯ぎしりしていた。それを目の端で捉え、カエは心の中で「ふふん」と笑った。
***
《*アヤン視点*》
隙間もない程、獰猛なワニで埋め尽くされた沼に生える低木に、アヤンは汗を滲ませ潜んでいた。
丈夫な枝なので折れる心配はなさそうだったが、樹皮がつるりとしていて、汗で滑ってしまいそうだ。
落ちたら一貫の終わり。
前方に矢をかまえ、そのままの姿勢でどのくらい時間が過ぎただろうか。
(ちょっとでも気を抜いたら、あの矢はボクを射抜く…。鋭くて、真っすぐで、キミの心みたいだね、スバス)
少し離れた位置で、アヤンの≪分身≫も同じように矢を番えていた。
アヤンは今、アルジェン王子のソティラス、スバスと対峙している。
『ジャングル・パリー』に飛ばされてすぐに、スバスとの睨み合いが始まった。
「その姿勢は疲れないかい? アヤン」
突然話しかけられて、アヤンはハッとなった。
「そうだね。でも、構えを解いたらボクは終わりだから、堪えなきゃ」
「私はキミを殺したくない。……ダミニもだ」
「スバス…」
スバスの声に葛藤が滲んでいることを察して、アヤンの表情が曇った。
アヤンとスバスは同じ集落の出身で幼馴染、そして親友だ。
スバスは2つ年上で、2人で常に弓術の腕を競った。
*** 回想 ***
「いいかいアヤン、私たちは奴隷だから、それ以上は望めない。でもね、弓術の腕をしっかり磨けば、使い捨ての道具じゃなく、役職を与えられるんだ」
耳にタコが出来るくらい、スバスはこの話をよくする。
「頑張ろうアヤン。私たちはただの奴隷で終わらない。そして私は役職を得て、ダミニをお嫁さんにもらうんだ」
はにかみながら、でも誇らしげに語ってくれるスバスのことが、アヤンは大好きだった。親友として、兄のような存在として。
******
(でもキミは、1年前、突然奴隷商人に捕まり、賭場に売られてしまった……。悔しかっただろうに)
(――そして今は、アルジェン王子のソティラス…)
スバスの辿った波乱を思い、アヤンの戦意が削げかける。しかしアヤンは慌てて心を引き締めた。
(憐れみなんて向けちゃだめだ。スバスに失礼にあたる!)
そう思ったとき、双方の≪トイネン≫同士が矢を撃ち放った。
ビュンッと空気を切裂くような鋭い音を発し、矢は木の幹に深く突き刺さる。
それを合図に、アヤンとスバスは同時に矢を放った。
お互い矢を避け、そして2発目を放つ。
そこからは乱戦となり、ソティラスも≪トイネン≫も、矢の応酬で音が激しく入り乱れた。
枝から枝へ、ゆれる枝にバランスを取り場所を移しながら、撃ちやすいポジションを探す。
時折鏃が服の表面を掠めて、ヒヤリとした緊張感を生む。
際どい距離。
しかしお互い気づいていた。
矢には、殺意がない。
(本当に、本当に、ボクは彼を殺さなくちゃいけないのか!?)
(彼を殺したら、ダミニになんて言えばいいんだ――)
スバスのお嫁さんになることを、心から望んでいる、おとなしい性格の妹。
矢を撃ち返し、枝を移動しながらアヤンは葛藤した。
(でもボクは誓ったんだ、姫様を勝たせるって。あの、優しくて気さくな姫様のお役に、全力でたとうって)
足場の良い太い枝に立ち、アヤンはスバスの足目掛けて矢を放った。しかしその矢は、スバスの≪トイネン≫の矢に阻害された。
「本当に腕を上げたんだね、アヤン」
「ボクは、ボクは……シャンティ王女様のソティラスだからね!」
表情は悲しい色のまま、でも迷いなくハッキリと断言する。
スバスの顔も、悲しみに歪んだ。
「判った、アヤン。私たちは互いの主のために、正々堂々戦わねばならないってことを」
スバスがアヤンに狙いを定めたときだった。
枝をバキッと大きく折る音と共に、黒い影が青空を塞いだ。そして赤い衣をまとった少年が、アヤンとスバスの間に躍り出た。
「王女と王子のソティラスか!」
少年は沼に蠢くワニの一頭に、軽やかに片足で降り立った。
不思議なことに、ワニはおとなしく受け入れている。その光景に、アヤンとスバスは目を丸くした。
「王の栄えある十二神将の1人、ロハンが相手になろう!!」
両手を高く振り上げ、ロハンは居丈高に雄たけびを上げた。
謁見の間は複雑な空気を漂わせていた。
王のエセキアス・アラリコの中で最強を謳われる、十二神将が2人も倒されたのだ。
更にアルジェン王子のソティラスも一人倒され、カエのソティラス2人が勝利した。
「ふむ…。余の十二神将も、実戦経験が浅かったと見える」
感情の伺えない、淡々とした口調で王は呟いた。特に怒ってるようではない。
(良かったあ…。会話は聞こえないけど、カイラもルドラも無事ね! 怪我はたくさんしてるようだけど、2人一緒ならきっと大丈夫!)
カエはホッと安堵すると同時に、2人の勝利を素直に喜んだ。
一方アルジェン王子は、今にも画面に飛びかかりそうな形相で歯ぎしりしていた。それを目の端で捉え、カエは心の中で「ふふん」と笑った。
***
《*アヤン視点*》
隙間もない程、獰猛なワニで埋め尽くされた沼に生える低木に、アヤンは汗を滲ませ潜んでいた。
丈夫な枝なので折れる心配はなさそうだったが、樹皮がつるりとしていて、汗で滑ってしまいそうだ。
落ちたら一貫の終わり。
前方に矢をかまえ、そのままの姿勢でどのくらい時間が過ぎただろうか。
(ちょっとでも気を抜いたら、あの矢はボクを射抜く…。鋭くて、真っすぐで、キミの心みたいだね、スバス)
少し離れた位置で、アヤンの≪分身≫も同じように矢を番えていた。
アヤンは今、アルジェン王子のソティラス、スバスと対峙している。
『ジャングル・パリー』に飛ばされてすぐに、スバスとの睨み合いが始まった。
「その姿勢は疲れないかい? アヤン」
突然話しかけられて、アヤンはハッとなった。
「そうだね。でも、構えを解いたらボクは終わりだから、堪えなきゃ」
「私はキミを殺したくない。……ダミニもだ」
「スバス…」
スバスの声に葛藤が滲んでいることを察して、アヤンの表情が曇った。
アヤンとスバスは同じ集落の出身で幼馴染、そして親友だ。
スバスは2つ年上で、2人で常に弓術の腕を競った。
*** 回想 ***
「いいかいアヤン、私たちは奴隷だから、それ以上は望めない。でもね、弓術の腕をしっかり磨けば、使い捨ての道具じゃなく、役職を与えられるんだ」
耳にタコが出来るくらい、スバスはこの話をよくする。
「頑張ろうアヤン。私たちはただの奴隷で終わらない。そして私は役職を得て、ダミニをお嫁さんにもらうんだ」
はにかみながら、でも誇らしげに語ってくれるスバスのことが、アヤンは大好きだった。親友として、兄のような存在として。
******
(でもキミは、1年前、突然奴隷商人に捕まり、賭場に売られてしまった……。悔しかっただろうに)
(――そして今は、アルジェン王子のソティラス…)
スバスの辿った波乱を思い、アヤンの戦意が削げかける。しかしアヤンは慌てて心を引き締めた。
(憐れみなんて向けちゃだめだ。スバスに失礼にあたる!)
そう思ったとき、双方の≪トイネン≫同士が矢を撃ち放った。
ビュンッと空気を切裂くような鋭い音を発し、矢は木の幹に深く突き刺さる。
それを合図に、アヤンとスバスは同時に矢を放った。
お互い矢を避け、そして2発目を放つ。
そこからは乱戦となり、ソティラスも≪トイネン≫も、矢の応酬で音が激しく入り乱れた。
枝から枝へ、ゆれる枝にバランスを取り場所を移しながら、撃ちやすいポジションを探す。
時折鏃が服の表面を掠めて、ヒヤリとした緊張感を生む。
際どい距離。
しかしお互い気づいていた。
矢には、殺意がない。
(本当に、本当に、ボクは彼を殺さなくちゃいけないのか!?)
(彼を殺したら、ダミニになんて言えばいいんだ――)
スバスのお嫁さんになることを、心から望んでいる、おとなしい性格の妹。
矢を撃ち返し、枝を移動しながらアヤンは葛藤した。
(でもボクは誓ったんだ、姫様を勝たせるって。あの、優しくて気さくな姫様のお役に、全力でたとうって)
足場の良い太い枝に立ち、アヤンはスバスの足目掛けて矢を放った。しかしその矢は、スバスの≪トイネン≫の矢に阻害された。
「本当に腕を上げたんだね、アヤン」
「ボクは、ボクは……シャンティ王女様のソティラスだからね!」
表情は悲しい色のまま、でも迷いなくハッキリと断言する。
スバスの顔も、悲しみに歪んだ。
「判った、アヤン。私たちは互いの主のために、正々堂々戦わねばならないってことを」
スバスがアヤンに狙いを定めたときだった。
枝をバキッと大きく折る音と共に、黒い影が青空を塞いだ。そして赤い衣をまとった少年が、アヤンとスバスの間に躍り出た。
「王女と王子のソティラスか!」
少年は沼に蠢くワニの一頭に、軽やかに片足で降り立った。
不思議なことに、ワニはおとなしく受け入れている。その光景に、アヤンとスバスは目を丸くした。
「王の栄えある十二神将の1人、ロハンが相手になろう!!」
両手を高く振り上げ、ロハンは居丈高に雄たけびを上げた。
0
あなたにおすすめの小説
女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます
ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。
前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。
社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。
けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。
家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士――
五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。
遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。
異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。
女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの
ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
田舎暮らしの貧乏令嬢、幽閉王子のお世話係になりました〜七年後の殿下が甘すぎるのですが!〜
侑子
恋愛
「リーシャ。僕がどれだけ君に会いたかったかわかる? 一人前と認められるまで魔塔から出られないのは知っていたけど、まさか七年もかかるなんて思っていなくて、リーシャに会いたくて死ぬかと思ったよ」
十五歳の時、父が作った借金のために、いつ魔力暴走を起こすかわからない危険な第二王子のお世話係をしていたリーシャ。
弟と同じ四つ年下の彼は、とても賢くて優しく、可愛らしい王子様だった。
お世話をする内に仲良くなれたと思っていたのに、彼はある日突然、世界最高の魔法使いたちが集うという魔塔へと旅立ってしまう。
七年後、二十二歳になったリーシャの前に現れたのは、成長し、十八歳になって成人した彼だった!
以前とは全く違う姿に戸惑うリーシャ。
その上、七年も音沙汰がなかったのに、彼は昔のことを忘れていないどころか、とんでもなく甘々な態度で接してくる。
一方、自分の息子ではない第二王子を疎んで幽閉状態に追い込んでいた王妃は、戻ってきた彼のことが気に入らないようで……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる