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エルアーラ遺跡編
episode455
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7体の彫像は全て砕けて床に四散していて、銀の鎧も破壊され、血と火傷をおった身体をむき出しにしている。
「ディバイン・スパークの電気を帯びていた状態だったからな、雷霆(ケラウノス)を避けることは100%不可能だ。互いの電気が引き合うから。だが雷霆(ケラウノス)を食らっても尚息があるのは驚きだぞ。さすがは1万年前の幽霊」
皮肉を言っているが、どこか本気で感心しているような響きを含みながらベルトルドは言った。
「まだ……消えるわけにはいかないんだ、あなたの野望を知ってしま……ったから」
ヒューゴは霞む視界に足元がフラつきながら言うと、咳をしながら血を吐いた。内蔵がいくつか逝っているようだ。
「あなたが、やろうとしていることは、1万年前と同じ悲劇を繰り返すだけ……だと、判っているのでしょう」
「知っているさ。だがな、貴様達が招いた結果、俺がそうせざるを得ない事態になってしまったんだ。批難される覚えもないしされたくもない。失った大きさは計り知れないんだ」
「今ならまだやめられる……やめてほしい、お願いだから」
息も絶え絶え、血を吐きながらヒューゴは懇願した。
目の前の男に抗うだけの力は、もう残されていない。
(この男の考えも力も、危険すぎる)
霞んだ視界に、金色の光が強烈に差し込んだ。
ベルトルドが再び雷霆(ケラウノス)を形成していた。
「貴様も大切な者を目の前で失ったのだろう? ならば理解出来るはずだ。世界を巻き込むことになろうと、止めることはできない」
三叉戟の形になった雷霆(ケラウノス)の柄を握り、矛先をヒューゴに向ける。ベルトルドの顔から表情が消えた。
「返してもらうのさ、人間から奪ったものを。――この俺から奪ったものをな!」
今度は力の限り雷霆(ケラウノス)を投げつけた。ヒューゴに向けてというより、ここにはいない何かに向けるように。
もはや防ぐものもなく、かわすこともできない。
金色の光を放つ雷霆(ケラウノス)を見つめ、ヒューゴは1万年前に起こった悲劇を走馬灯のように思い出していた。
この部屋で、イーダが何人もの男達に陵辱され、精神を壊された挙句惨殺された光景。助けることもできずに羽交い締めにされて、それを見続けていた非力な自分。壊れそうになる心に突き刺さるフェンリルの激しい怒号――
その瞬間、ヒューゴの身体を雷霆(ケラウノス)が深々と貫いた。
こみ上げてくる塊のような血を大量に吐き出し、ヒューゴは片膝を付いた。雷霆(ケラウノス)から発せられる電気に全身が痺れ、痛覚は全て麻痺している。それはちょっと幸いかも知れない、などとヒューゴはチラリと思った。
尊大に振舞うこの男の、その奥に見える深い悲しみと憎しみを、雷霆(ケラウノス)を通じてヒューゴは理解していた。
実体化させられたことで、この動力部に封じていた己の思念と力はもう再生出来ない。ヤルヴィレフト王家の脅威は去っていたが、今こうして新たな脅威を知り得たのに、もう何もできないことが歯がゆかった。しかし、
(いずれ、あの少女はユリディスと出遇う。ユリディスと同じ力を持つ少女)
それが本当の意味で、最後の砦となる。
ヒューゴを貫いていた雷霆(ケラウノス)は、放電しながら金色の炎に変じると、ヒューゴの身体を飲み込んで激しく燃え盛った。
「ディバイン・スパークの電気を帯びていた状態だったからな、雷霆(ケラウノス)を避けることは100%不可能だ。互いの電気が引き合うから。だが雷霆(ケラウノス)を食らっても尚息があるのは驚きだぞ。さすがは1万年前の幽霊」
皮肉を言っているが、どこか本気で感心しているような響きを含みながらベルトルドは言った。
「まだ……消えるわけにはいかないんだ、あなたの野望を知ってしま……ったから」
ヒューゴは霞む視界に足元がフラつきながら言うと、咳をしながら血を吐いた。内蔵がいくつか逝っているようだ。
「あなたが、やろうとしていることは、1万年前と同じ悲劇を繰り返すだけ……だと、判っているのでしょう」
「知っているさ。だがな、貴様達が招いた結果、俺がそうせざるを得ない事態になってしまったんだ。批難される覚えもないしされたくもない。失った大きさは計り知れないんだ」
「今ならまだやめられる……やめてほしい、お願いだから」
息も絶え絶え、血を吐きながらヒューゴは懇願した。
目の前の男に抗うだけの力は、もう残されていない。
(この男の考えも力も、危険すぎる)
霞んだ視界に、金色の光が強烈に差し込んだ。
ベルトルドが再び雷霆(ケラウノス)を形成していた。
「貴様も大切な者を目の前で失ったのだろう? ならば理解出来るはずだ。世界を巻き込むことになろうと、止めることはできない」
三叉戟の形になった雷霆(ケラウノス)の柄を握り、矛先をヒューゴに向ける。ベルトルドの顔から表情が消えた。
「返してもらうのさ、人間から奪ったものを。――この俺から奪ったものをな!」
今度は力の限り雷霆(ケラウノス)を投げつけた。ヒューゴに向けてというより、ここにはいない何かに向けるように。
もはや防ぐものもなく、かわすこともできない。
金色の光を放つ雷霆(ケラウノス)を見つめ、ヒューゴは1万年前に起こった悲劇を走馬灯のように思い出していた。
この部屋で、イーダが何人もの男達に陵辱され、精神を壊された挙句惨殺された光景。助けることもできずに羽交い締めにされて、それを見続けていた非力な自分。壊れそうになる心に突き刺さるフェンリルの激しい怒号――
その瞬間、ヒューゴの身体を雷霆(ケラウノス)が深々と貫いた。
こみ上げてくる塊のような血を大量に吐き出し、ヒューゴは片膝を付いた。雷霆(ケラウノス)から発せられる電気に全身が痺れ、痛覚は全て麻痺している。それはちょっと幸いかも知れない、などとヒューゴはチラリと思った。
尊大に振舞うこの男の、その奥に見える深い悲しみと憎しみを、雷霆(ケラウノス)を通じてヒューゴは理解していた。
実体化させられたことで、この動力部に封じていた己の思念と力はもう再生出来ない。ヤルヴィレフト王家の脅威は去っていたが、今こうして新たな脅威を知り得たのに、もう何もできないことが歯がゆかった。しかし、
(いずれ、あの少女はユリディスと出遇う。ユリディスと同じ力を持つ少女)
それが本当の意味で、最後の砦となる。
ヒューゴを貫いていた雷霆(ケラウノス)は、放電しながら金色の炎に変じると、ヒューゴの身体を飲み込んで激しく燃え盛った。
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