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番外編・2
コッコラ王国の悲劇・16
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「くっ、くるな……近寄るなよ?」
貞操の危機に、目の端に涙が滲み、ベルトルドは情けないほど首を横に振る。
薄く紅をはいた唇を舌先でペロ~リと舐めると、リュリュはンふっと微笑んで、デスクに片足をのせてくねっとしなを作った。
「おいたする子には、ねっとりとお仕置きよン?」
「い、いやああああああああ」
「失礼しますよ」
長身でガッシリとした体躯には不似合いなほど、温厚そうで愛嬌たっぷりの顔をしている、白クマのトゥーリ族であるブルーベル将軍は、通されたオフィスの奥にいるベルトルドを見て首をかしげた。
「副宰相どのは、どうしたんです?」
傍らに控えるリュリュが、艶々とした笑顔で「政務に忙殺されて疲れたようです」と答えた。
スタイリッシュチェアの背もたれに深々と沈み込み、肘掛にだらしなく腕を伸ばし、足も力なく放り出していた。
「大切ななにかを失った気が……する……」
魂の抜けたような表情で、ベルトルドはボソボソと呟いている。
「ところで将軍、ご要件は?」
リュリュに促されて、ブルーベル将軍はつぶらな瞳を瞬かせた。
「コッコラ王国への制裁が、先ほど陛下より正式に下りました。それにあたって、副宰相どのの直轄にあるダエヴァを、1部隊ほどお貸し願いたく」
言いながら、ブルーベル将軍は背後に控える副官のハギから1枚の紙を受け取り、それをリュリュに手渡した。
「あらま」
手渡されたその書面には、コッコラ王国の戦力内容の詳細が綴られていた。
それに目を通し、リュリュは呆れたように眉をヒクつかせた。
「あの国が自国の軍隊だけで戦うのであれば、こちらの正規部隊を1つ送れば済む程度なんですがね。世界各地の傭兵たちを豪勢にかき集めているようなので、こちらとしても侮るわけにはいかないのです」
「そうね。将軍には悪いけど、はっきり言って役立たずもいいところですものね、ウチの軍隊」
リュリュの無遠慮な発言に、ブルーベル将軍は「いや、まったく」と大笑いした。
「実戦経験がとにかく薄いですからのう、百戦錬磨級の傭兵たちに比べると、どうにも心配でして。そこでダエヴァを1部隊お借りできれば安心なのです」
ハワドウレ皇国の軍は大きく分けて2つある。1つはブルーベル将軍の直接指揮に入る正規部隊。大将たちに率いられる10の部隊の総称である。そしてもう1つ、全軍総帥――皇王が兼任――の直接指揮下の特殊部隊と呼ばれる7つの部隊。
その中にダエヴァと呼ばれる3部隊が入っており、しかしこれは特別に副宰相であるベルトルドが組織して、直轄に置いている部隊でもあった。その為全軍総帥といえども、運用にあたってはベルトルドの許可が要る。
あらゆるスキル〈才能〉のエキスパートたちで組まれており、全体の様子はあまり公にはなっていない。表沙汰にできない隠密行動や暗殺なども実行する、国の裏側を担う部隊でもあるのだ。しかし表の顔も持っており、出陣要請があれば特殊部隊として出撃することもある。
「ラーシュ=オロフ長官の第二部隊ならお貸し出来そう。丸ごと閣下に御預けするわ」
「かたじけない。ありがたく」
放心状態のベルトルドそっちのけで話は進んでいく。
貞操の危機に、目の端に涙が滲み、ベルトルドは情けないほど首を横に振る。
薄く紅をはいた唇を舌先でペロ~リと舐めると、リュリュはンふっと微笑んで、デスクに片足をのせてくねっとしなを作った。
「おいたする子には、ねっとりとお仕置きよン?」
「い、いやああああああああ」
「失礼しますよ」
長身でガッシリとした体躯には不似合いなほど、温厚そうで愛嬌たっぷりの顔をしている、白クマのトゥーリ族であるブルーベル将軍は、通されたオフィスの奥にいるベルトルドを見て首をかしげた。
「副宰相どのは、どうしたんです?」
傍らに控えるリュリュが、艶々とした笑顔で「政務に忙殺されて疲れたようです」と答えた。
スタイリッシュチェアの背もたれに深々と沈み込み、肘掛にだらしなく腕を伸ばし、足も力なく放り出していた。
「大切ななにかを失った気が……する……」
魂の抜けたような表情で、ベルトルドはボソボソと呟いている。
「ところで将軍、ご要件は?」
リュリュに促されて、ブルーベル将軍はつぶらな瞳を瞬かせた。
「コッコラ王国への制裁が、先ほど陛下より正式に下りました。それにあたって、副宰相どのの直轄にあるダエヴァを、1部隊ほどお貸し願いたく」
言いながら、ブルーベル将軍は背後に控える副官のハギから1枚の紙を受け取り、それをリュリュに手渡した。
「あらま」
手渡されたその書面には、コッコラ王国の戦力内容の詳細が綴られていた。
それに目を通し、リュリュは呆れたように眉をヒクつかせた。
「あの国が自国の軍隊だけで戦うのであれば、こちらの正規部隊を1つ送れば済む程度なんですがね。世界各地の傭兵たちを豪勢にかき集めているようなので、こちらとしても侮るわけにはいかないのです」
「そうね。将軍には悪いけど、はっきり言って役立たずもいいところですものね、ウチの軍隊」
リュリュの無遠慮な発言に、ブルーベル将軍は「いや、まったく」と大笑いした。
「実戦経験がとにかく薄いですからのう、百戦錬磨級の傭兵たちに比べると、どうにも心配でして。そこでダエヴァを1部隊お借りできれば安心なのです」
ハワドウレ皇国の軍は大きく分けて2つある。1つはブルーベル将軍の直接指揮に入る正規部隊。大将たちに率いられる10の部隊の総称である。そしてもう1つ、全軍総帥――皇王が兼任――の直接指揮下の特殊部隊と呼ばれる7つの部隊。
その中にダエヴァと呼ばれる3部隊が入っており、しかしこれは特別に副宰相であるベルトルドが組織して、直轄に置いている部隊でもあった。その為全軍総帥といえども、運用にあたってはベルトルドの許可が要る。
あらゆるスキル〈才能〉のエキスパートたちで組まれており、全体の様子はあまり公にはなっていない。表沙汰にできない隠密行動や暗殺なども実行する、国の裏側を担う部隊でもあるのだ。しかし表の顔も持っており、出陣要請があれば特殊部隊として出撃することもある。
「ラーシュ=オロフ長官の第二部隊ならお貸し出来そう。丸ごと閣下に御預けするわ」
「かたじけない。ありがたく」
放心状態のベルトルドそっちのけで話は進んでいく。
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