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エルアーラ遺跡編
episode433
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嫌な思い出や恐怖は、できることなら永遠に封じるか、滅ぼしてしまいたいものである。それができないから、人は色々なことで紛らわし、心の、記憶の奥底へと追いやる。そして脆くも危うい蓋で閉じて、一時忘れ去るのだ。
つかの間の安寧を得たあと、ふいに閉じ込めたものが目の前に立ちふさがったとき、人はそれ以上の恐怖をもって直面する。
他人から見たら滑稽にしか映らないものも、当人にしてみれば、あらゆる装飾を伴って怖れを呼び覚ます。
ポスト・ベルトルド――女癖の悪さが――と目されるルーファスにとって、エテラマキ男爵夫人とのことは、筆舌に尽くしがたいほどのトラウマになっている。
暫くは吐き気に目眩、頭痛に悪寒が絶え間なく襲い掛かり、周りからは質の悪い風邪だと思われていたが、全てはエテマラキ男爵夫人との一夜が原因なのだ。立ち直るのにだいぶ時間を要した。
そのエテラマキ男爵夫人にそっくりの巨大な物体が、とくになにをしてくるでもなく、静かに追いかけてくるその様は、ルーファスの精神を激しく消耗し始めていた。
目に見えて消耗の色を濃くし始めたルーファスの様子に、さすがに危険を感じたギャリーは、フェンリルの背に乗るキュッリッキに促した。
「キューリ、もう遠慮はいらねえ、アレを消しちまってくれ」
「判った!」
様子の変わったルーファスをチラリと見てキュッリッキは頷くと、先ほど蜂の大群を消し去ったスルトの炎レーヴァテインを召喚し、エテマラキ男爵夫人モドキにむけて放った。
エテマラキ男爵夫人モドキは炎に巻かれて足を止めると、声無き声をあげて苦しみもがき、やがて輪郭を徐々に縮めていった。
そのさまをじっくり見つめながら、「手応えがないかも……」とキュッリッキは首をかしげた。
「実体がナイってことですか?」
コロコロと尻尾を揺らしながらシビルが振り向くと、キュッリッキは「うん」と頷いた。
「さっきの蜂もそうなんだけど、物体を燃やした感じじゃないんだよね。焦げた臭いも漂ってこないし」
「実体のないものまで燃やしちゃえるんだ、召喚の力って?」
キュッリッキの背中にへばりついていたハーマンが、横から興味津々の顔をのぞかせる。
「魔法じゃ実体のないものまで干渉できないからさ」
「アルケラから呼び寄せる力とかは、神様の一部だから、こちらの世界に在るものには全て干渉できるの。…………あ、あんま難しいことは判んないからねっ」
なんでも難しい方向に話をもって行きがちなハーマンに先手を打って、キュッリッキはエテラマキ男爵夫人モドキが消えたことを確認して、スルトの炎を還した。
「実体がないもの、我々めがけて襲いかかってくる……」
腕を組んでカーティスは考え込んだ。
「さっきの巨大肥満レディは、ルーファスに縁のあるもので、その前の蜂は何でしょうね」
「おそらくだが」
どこか気まずそうにガエルが口を開く。
「ガキの頃に蜂の巣をつついて、大群に追い掛け回され、全身を刺された経験がある」
これにはタルコットがぷっと吹き出した。
「どんだけはちみつ大好きなんだお前……」
ヴァルトは呆れたように呟いた。
「………それ以来、蜂の群れは苦手でな」
ガエルの意外すぎる苦手なモノ発覚に、ヴァルトは目を丸くした。
「幻術か何かでしょうかね」
ひとつの回答をシビルが示すと、カーティスは同意した。
「そんな感じかもしれません。おそらく全員術にかかっているんでしょう。幸いキューリさんの召喚の力で消し去ることができるので大丈夫そうですが。逃げないわけにもいきませんし、幻術だけとも言い切れないので、みなさん気をつけてください」
全員頷いた。
つかの間の安寧を得たあと、ふいに閉じ込めたものが目の前に立ちふさがったとき、人はそれ以上の恐怖をもって直面する。
他人から見たら滑稽にしか映らないものも、当人にしてみれば、あらゆる装飾を伴って怖れを呼び覚ます。
ポスト・ベルトルド――女癖の悪さが――と目されるルーファスにとって、エテラマキ男爵夫人とのことは、筆舌に尽くしがたいほどのトラウマになっている。
暫くは吐き気に目眩、頭痛に悪寒が絶え間なく襲い掛かり、周りからは質の悪い風邪だと思われていたが、全てはエテマラキ男爵夫人との一夜が原因なのだ。立ち直るのにだいぶ時間を要した。
そのエテラマキ男爵夫人にそっくりの巨大な物体が、とくになにをしてくるでもなく、静かに追いかけてくるその様は、ルーファスの精神を激しく消耗し始めていた。
目に見えて消耗の色を濃くし始めたルーファスの様子に、さすがに危険を感じたギャリーは、フェンリルの背に乗るキュッリッキに促した。
「キューリ、もう遠慮はいらねえ、アレを消しちまってくれ」
「判った!」
様子の変わったルーファスをチラリと見てキュッリッキは頷くと、先ほど蜂の大群を消し去ったスルトの炎レーヴァテインを召喚し、エテマラキ男爵夫人モドキにむけて放った。
エテマラキ男爵夫人モドキは炎に巻かれて足を止めると、声無き声をあげて苦しみもがき、やがて輪郭を徐々に縮めていった。
そのさまをじっくり見つめながら、「手応えがないかも……」とキュッリッキは首をかしげた。
「実体がナイってことですか?」
コロコロと尻尾を揺らしながらシビルが振り向くと、キュッリッキは「うん」と頷いた。
「さっきの蜂もそうなんだけど、物体を燃やした感じじゃないんだよね。焦げた臭いも漂ってこないし」
「実体のないものまで燃やしちゃえるんだ、召喚の力って?」
キュッリッキの背中にへばりついていたハーマンが、横から興味津々の顔をのぞかせる。
「魔法じゃ実体のないものまで干渉できないからさ」
「アルケラから呼び寄せる力とかは、神様の一部だから、こちらの世界に在るものには全て干渉できるの。…………あ、あんま難しいことは判んないからねっ」
なんでも難しい方向に話をもって行きがちなハーマンに先手を打って、キュッリッキはエテラマキ男爵夫人モドキが消えたことを確認して、スルトの炎を還した。
「実体がないもの、我々めがけて襲いかかってくる……」
腕を組んでカーティスは考え込んだ。
「さっきの巨大肥満レディは、ルーファスに縁のあるもので、その前の蜂は何でしょうね」
「おそらくだが」
どこか気まずそうにガエルが口を開く。
「ガキの頃に蜂の巣をつついて、大群に追い掛け回され、全身を刺された経験がある」
これにはタルコットがぷっと吹き出した。
「どんだけはちみつ大好きなんだお前……」
ヴァルトは呆れたように呟いた。
「………それ以来、蜂の群れは苦手でな」
ガエルの意外すぎる苦手なモノ発覚に、ヴァルトは目を丸くした。
「幻術か何かでしょうかね」
ひとつの回答をシビルが示すと、カーティスは同意した。
「そんな感じかもしれません。おそらく全員術にかかっているんでしょう。幸いキューリさんの召喚の力で消し去ることができるので大丈夫そうですが。逃げないわけにもいきませんし、幻術だけとも言い切れないので、みなさん気をつけてください」
全員頷いた。
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