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竜騎士になったよ
竜騎士団長エリアスside
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ある村が全滅したという報告があり、俺はトゥルキとハムザ、黄色と緑のドラゴンを連れてそこへ行ってきた。
残酷な光景だけがこびりついて離れない。
最近こういう事案が増えた気がする。魔が甦るという話が真実味を帯びてきた。
村を調査していると、何体ものモンスターが村を我が者顔で闊歩している。地底にしか棲んでいないモンスターが何故人間界の、この地上に出てきているのかわからない。
ごくたまに、はぐれモンスターが迷って出てくるが、最近のモンスター目撃の頻度は異常だ。
ここ最近、国内で勃発しているモンスター目撃談。それは魔の甦る前触れなのかもしれないと俺は思っている。
モンスターは全て植物の化物のような姿をしている。地底に棲み、地底で食物連鎖を形成しているというのに、最近は人を襲うものが出てきた。
これはゆゆしき問題だ。陛下からは竜騎士が調査を命じられている。
王宮に戻った俺は部屋でため息をついた。
やばいな。事態は思ったより深刻なようだ。俺はバスルームに向かい、鎧を脱ぎ捨てると冷水のシャワーを浴びた。ほてった体が一気に冷たくなっていく。熱をもった筋肉が、冷たい水に晒されて落ち着きを取り戻していく。
『モンスターを倒して血が騒いだか?エリアス…』
頭の中で低くハスキーな声がした。俺の中に巣くう魔物。国王より賜った『ドラゴンの瞳』と呼ばれるピアスの片方に入っていた。大昔の竜騎士のドラゴンが封印され魔物となって棲んでいた。俺はそれを精神世界で戦って勝ち、我が使役にしている。
「残念、俺はお前のような残酷な趣味は持ち合わせてないんでな」
『ほお?我にはそうは見えないが』
「くだらんこと言ってないで、さっさと俺の回復に力を寄越せ」
『フン…了解』
俺は奴をあっさりねじ伏せた。
シャワーを終えると軽装に着替えてカイザー号の様子を見に行く。今日、あいつには無理をさせてしまったからケアをしてやらないと。
ドラゴン舎に行くと、声が聞こえてきた。
シンの鼻歌だ。見ると、シンがラースと一緒にカイザー号をはじめとしたドラゴン全部の体を洗っている。シンがデッキブラシのような大きなブラシでカイザー号の鱗を洗い、ラースがホースを咥えて水をかける。どさくさに紛れてシンにもかけていた。
「ちょっとラース!俺までびしょびしょじゃん!もう!ちょっと貸してそれ」
ラースを追いかけてホースを奪い取り、ラースにも水をかけながらも他のドラゴンにも勢いよくぶっかけていく。ドラゴン六匹が広いドラゴン舎で追いかけっこをしてるかのように遊んでいる光景に俺は呆然とした。
それに、あんなに楽しそうにはしゃぐカイザー号を久しぶりに見た。幼い頃はよく二人でじゃれて遊んでいたけど、二人とも大人になり、王宮に召されて竜騎士になってからは覚えがない。いつも側にいてくれて、俺の支えとなってくれているけれど、昔とは多少関係性が変わってしまっていた。
目の前で繰り広げられるドラゴン達の幼生のような弾けっぷり。
シン。お前は不思議な子だな。
その美しい無垢な容姿と笑顔。こんな短い間に、ドラゴン達は完全にシンを仲間だと認めている。
…仲間、か。
竜騎士とドラゴンはそんな関係であることを忘れていた気がする。俺のカイザー号は幼生時から一緒にいるのに。
「うわあっ!」
冷たい感触。ラースが立ち尽くす俺に気づいて水をかけた。
「あっごめんエリアスっ!大丈夫…?」
慌ててタオルを持ったシンが俺に駆け寄ってきた。ドラゴン達が一気に止まって緊張する。
全身びしょ濡れになったシンの姿に俺は一瞬ドキリとした。ぴっちり体にはりついた薄手のシャツに素肌が透けている。シンとは裸同士で眠ったこともあるのに、これはまた違ったドキドキが訪れた。
滴のついた髪、濡れた唇がまたなんとも愛らしい。
つい、引き寄せられるようにシンの唇にそっと自らのを重ねてしまう。
「ん…っ…ちょっと…何?エリアス…」
いきなりの俺の行動に赤くなって俯くシンが可愛くて仕方なくなって抱き締めてしまう。すっぽり納まった小さなシン。
ばばばば。
俺の背中に勢いよく水がかかった。ラースがホースを咥えて俺たちに思い切り水が発射されている。
「ちょっと貸せラース…」
「あ!エリアス怒らないであげてっ!」
シンの心配をよそに俺はラースからホースを奪い取り、蛇口をもっと捻ると水の量が増す。そして端っこを思い切り親指で絞って水の勢いをMAXにした。
「うぉら!食らえお前らぁーーーー!」
俺はドラゴン達に思い切り水をぶちまけた。ドラゴン舎に噴水のように散る水から逃げまくるドラゴン達。まるで大きな水鉄砲のように六匹のドラゴンとシン目掛けて俺は発射しまくる。みんな水びたしで大はしゃぎになった。
楽しい。こんなの久しぶりだ。大笑いしながらみんなで追いかけっこになった。
なにやら視線を感じてハッ、と気づく。
ドラゴン舎の入り口にトゥルキとハムザ、フィリックスが呆然として立っていた。
「…あ。」
ドラゴン達とシン、俺はピタリと動きを止める。ホースの水だけがジョボジョボと止まらない。
「な、にやってるんだ…?エリアス」
ハムザが信じられないような目で俺を見る。
「悪戯が過ぎますね、ドラゴン舎が水浸しですよ…エリアス」
トゥルキが呆れたように俺を見る。
「えええ?そんなキャラでしたっけエリアス…」
フィリックスが混乱したように俺を見る。
俺だけ非難されている。…これ、どう見ても俺一人が悪戯の犯人、だよな…。
「水遊び楽しかったね!みんなびしょ濡れになったね、それにこの水どうしようか」
シンがドラゴン達に無邪気に笑う。
そして全員、あるものを見て凍りついた。
ヘラクレス号の口がカパッと開き、炎がチロリと見えた瞬間、全員ダッシュでドラゴン舎から飛び出した。竜騎士もドラゴンも一緒に。止まってから大笑いになった。
こんなに笑ったのは久しぶりだ。
シンとラースのお陰だな。
ちらり、と隣で笑うシンを見る。自然と俺の唇が笑みにほころんでいく。
シン、俺は…お前が好きだ。今、この想いをはっきりと自覚した。
残酷な光景だけがこびりついて離れない。
最近こういう事案が増えた気がする。魔が甦るという話が真実味を帯びてきた。
村を調査していると、何体ものモンスターが村を我が者顔で闊歩している。地底にしか棲んでいないモンスターが何故人間界の、この地上に出てきているのかわからない。
ごくたまに、はぐれモンスターが迷って出てくるが、最近のモンスター目撃の頻度は異常だ。
ここ最近、国内で勃発しているモンスター目撃談。それは魔の甦る前触れなのかもしれないと俺は思っている。
モンスターは全て植物の化物のような姿をしている。地底に棲み、地底で食物連鎖を形成しているというのに、最近は人を襲うものが出てきた。
これはゆゆしき問題だ。陛下からは竜騎士が調査を命じられている。
王宮に戻った俺は部屋でため息をついた。
やばいな。事態は思ったより深刻なようだ。俺はバスルームに向かい、鎧を脱ぎ捨てると冷水のシャワーを浴びた。ほてった体が一気に冷たくなっていく。熱をもった筋肉が、冷たい水に晒されて落ち着きを取り戻していく。
『モンスターを倒して血が騒いだか?エリアス…』
頭の中で低くハスキーな声がした。俺の中に巣くう魔物。国王より賜った『ドラゴンの瞳』と呼ばれるピアスの片方に入っていた。大昔の竜騎士のドラゴンが封印され魔物となって棲んでいた。俺はそれを精神世界で戦って勝ち、我が使役にしている。
「残念、俺はお前のような残酷な趣味は持ち合わせてないんでな」
『ほお?我にはそうは見えないが』
「くだらんこと言ってないで、さっさと俺の回復に力を寄越せ」
『フン…了解』
俺は奴をあっさりねじ伏せた。
シャワーを終えると軽装に着替えてカイザー号の様子を見に行く。今日、あいつには無理をさせてしまったからケアをしてやらないと。
ドラゴン舎に行くと、声が聞こえてきた。
シンの鼻歌だ。見ると、シンがラースと一緒にカイザー号をはじめとしたドラゴン全部の体を洗っている。シンがデッキブラシのような大きなブラシでカイザー号の鱗を洗い、ラースがホースを咥えて水をかける。どさくさに紛れてシンにもかけていた。
「ちょっとラース!俺までびしょびしょじゃん!もう!ちょっと貸してそれ」
ラースを追いかけてホースを奪い取り、ラースにも水をかけながらも他のドラゴンにも勢いよくぶっかけていく。ドラゴン六匹が広いドラゴン舎で追いかけっこをしてるかのように遊んでいる光景に俺は呆然とした。
それに、あんなに楽しそうにはしゃぐカイザー号を久しぶりに見た。幼い頃はよく二人でじゃれて遊んでいたけど、二人とも大人になり、王宮に召されて竜騎士になってからは覚えがない。いつも側にいてくれて、俺の支えとなってくれているけれど、昔とは多少関係性が変わってしまっていた。
目の前で繰り広げられるドラゴン達の幼生のような弾けっぷり。
シン。お前は不思議な子だな。
その美しい無垢な容姿と笑顔。こんな短い間に、ドラゴン達は完全にシンを仲間だと認めている。
…仲間、か。
竜騎士とドラゴンはそんな関係であることを忘れていた気がする。俺のカイザー号は幼生時から一緒にいるのに。
「うわあっ!」
冷たい感触。ラースが立ち尽くす俺に気づいて水をかけた。
「あっごめんエリアスっ!大丈夫…?」
慌ててタオルを持ったシンが俺に駆け寄ってきた。ドラゴン達が一気に止まって緊張する。
全身びしょ濡れになったシンの姿に俺は一瞬ドキリとした。ぴっちり体にはりついた薄手のシャツに素肌が透けている。シンとは裸同士で眠ったこともあるのに、これはまた違ったドキドキが訪れた。
滴のついた髪、濡れた唇がまたなんとも愛らしい。
つい、引き寄せられるようにシンの唇にそっと自らのを重ねてしまう。
「ん…っ…ちょっと…何?エリアス…」
いきなりの俺の行動に赤くなって俯くシンが可愛くて仕方なくなって抱き締めてしまう。すっぽり納まった小さなシン。
ばばばば。
俺の背中に勢いよく水がかかった。ラースがホースを咥えて俺たちに思い切り水が発射されている。
「ちょっと貸せラース…」
「あ!エリアス怒らないであげてっ!」
シンの心配をよそに俺はラースからホースを奪い取り、蛇口をもっと捻ると水の量が増す。そして端っこを思い切り親指で絞って水の勢いをMAXにした。
「うぉら!食らえお前らぁーーーー!」
俺はドラゴン達に思い切り水をぶちまけた。ドラゴン舎に噴水のように散る水から逃げまくるドラゴン達。まるで大きな水鉄砲のように六匹のドラゴンとシン目掛けて俺は発射しまくる。みんな水びたしで大はしゃぎになった。
楽しい。こんなの久しぶりだ。大笑いしながらみんなで追いかけっこになった。
なにやら視線を感じてハッ、と気づく。
ドラゴン舎の入り口にトゥルキとハムザ、フィリックスが呆然として立っていた。
「…あ。」
ドラゴン達とシン、俺はピタリと動きを止める。ホースの水だけがジョボジョボと止まらない。
「な、にやってるんだ…?エリアス」
ハムザが信じられないような目で俺を見る。
「悪戯が過ぎますね、ドラゴン舎が水浸しですよ…エリアス」
トゥルキが呆れたように俺を見る。
「えええ?そんなキャラでしたっけエリアス…」
フィリックスが混乱したように俺を見る。
俺だけ非難されている。…これ、どう見ても俺一人が悪戯の犯人、だよな…。
「水遊び楽しかったね!みんなびしょ濡れになったね、それにこの水どうしようか」
シンがドラゴン達に無邪気に笑う。
そして全員、あるものを見て凍りついた。
ヘラクレス号の口がカパッと開き、炎がチロリと見えた瞬間、全員ダッシュでドラゴン舎から飛び出した。竜騎士もドラゴンも一緒に。止まってから大笑いになった。
こんなに笑ったのは久しぶりだ。
シンとラースのお陰だな。
ちらり、と隣で笑うシンを見る。自然と俺の唇が笑みにほころんでいく。
シン、俺は…お前が好きだ。今、この想いをはっきりと自覚した。
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