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第四十八話 「嘉例ゐわれあるべき事」
しおりを挟む根岸鎮衛著「耳嚢」 巻之七
「嘉例ゐわれあるべき事」より
本所の竹蔵近辺に、曾根孫兵衛という名のお旗本がいた。
彼の家は代々のしきたりとして、毎年年末ではなく正月の三日に餅を搗くという。
いつの頃か主人が言うに、
「世の中の人々がこぞって暮れに餅搗きをするというのに、我が家だけ世間とは違って正月三日に餅を搗くというのも何か人に変に思われるだろう、今年は他の家と同じように暮れに餅を搗くことにしよう」
古くからの家来が、
「長年のお家のしきたりでございますから・・・」
と諫めるのを聞かずに、暮れに餅搗きをすることになった。
餅を搗いている時は、全く何も起こらなかった。
しかし、搗いた餅を家来が箕に移して座敷に運び入れると、今まで真っ白だった餅が血に染まって、みるみるうちに不気味な赤色に変わってしまう。
「・・・・これは一体、どうしたことだ」
と主人が驚いて、家来に命じて座敷の外に持ってゆくと、餅は再び元のように真っ白になる。
しかし再び座敷へと入れると、また血に染まるのだった。
その後は、代々のしきたりを守って正月三日に餅つきをすることにしたという。
耳嚢にある記載はこれだけで、その原因とか由来には一切言及がないのですが元来、武家にはこういう怪異や独自の禁忌がある家も少なくなかったといいます。
元々、武家というのは戦、つまり「殺生」と縁が切れない生業のため、何かの祟りがこうした怪異を起こすのでしょうか。
このエッセイでも度々ご紹介している、あの明治から昭和初期にかけて活躍した小説家、岡本綺堂の小説「半七捕物帳」にも「朝顔屋敷」(第十一話)という話があります。
このお話も武家屋敷に伝わる変わったしきたりがテーマなのですが、先祖が何かの理由で妾を斬殺した際、妾が着ていた着物の柄が「朝顔」だった為、以来その家では祟りとして朝顔が凶事を招くようになった、というお話でした。
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