異世界ホストNo.1

狼蝶

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12.フェリスの話

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「おめでとう!今月の売上もダントツでNo.1だったよ。この調子で来月も、よろしく頼むね」
「はい」
嬉しそうに笑う店長から給料を渡され、皆に示すように賞賛される。ちらりと目をやると、拍手をするキャスト達の中でスルギが自分を睨んでいた。
 彼は競争心が強く、自分と張り合っていることは気づいていたが、そんな風に睨まれても・・・・・・と気まずくなって目を逸らした。
 仕事が終わり、道をぶらぶらしながら溜息を吐く。このお金、どうしようと思いながら、給料の大半が入ったショルダーバックをじゃらじゃらと鳴らした。
 フェリスの稼ぎは『carrot & stick』のキャストの中で一番多い。それは指名数共に客からの満足度が高いためである。それはフェリスにとっても嬉しいことなのだが、そんなに稼いでも正直使うところがないのだ。
 田舎に住む家族に仕送りをしているが、それ以外に使うものといえば消耗品である日用品や日用雑貨などぐらいしか思い浮かばなかった。だから時々後輩や他のキャスト達を誘ってご飯をおごったりしているのだが、それもまたスルギからすれば人気取りをしていると取られており、嫌な顔をされている。
 客が付くのも、自分のサービスで客が喜んでくれるのも嬉しい。しかし、フェリスの心はなんとなくもやもやとしていた。
『フェリスちゃん、いいねその顔。もっと泣いて・・・・・・』
『はぁはぁ・・・・・・やっぱりフェリスちゃんが一番イイ顔する。ほら、ここをこうしちゃうと、どうかな――?』
『ちょっと痛い?でもそれがイイんでしょ?わかってるよ、フェリスたんはコウイウコトされるのがキモチイイんだもんね?』
 我が物顔で自分勝手に解釈してくる客たち。この右目の下にある泣きぼくろが、フェリスを『泣かせたくなる顔』と称する所以なのだとか。だがフェリスはあまりピンとこなかった。
 嫌がって叫ぶと、客が喜ぶ。痛みに顔を顰めて、涙を出すと客は微笑む。痛いと、素直に述べると『それが気持ちいいんだろ』と興奮の目を向けられる。
 だが、フェリスが本当に快感を得たことは、一度もなかった。麻縄でキツく縛られても特に何も感じなかったし、生温い蝋を垂らされるのも、ただ不快なだけだった。鞭で打たれるのはただ微妙に痛いし、恥ずかしい格好をさせられるのも、恥ずかしい言葉をかけられるのも、客のテンションに合わせて演技をしているだけだった。
 心の中で何か違うと思いながらも、客の要求に忠実に応えていたら、売上No.1になっていたのだった。
 ふと、道を一本入ったところに薄明るい電灯がぼんやりと灯っている店が目に入った。ここら辺一体は風俗店が多く、皆鎬を削って働いている。ここもその一つか、と思い、『desire』と書かれている看板を見つめた。



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