15 / 66
15.フェリスの話:ナナミバーション
しおりを挟む開店直後、俺はキャストルームで仲間達と話をしていた。最近遭った出来事や、他の店に行った話、自分の客の話など、思い思いに口に出し、皆自分の意見を重ねていく。和気藹々とした雰囲気であり仕事前の緊張を解すのには丁度良い時間なのだが、俺はなかなか落ち着くことはできなかった。
周期的に、今日はあのお客様が来る日だからである。そのお客様とは――
「ナナミ、フェリス様からご指名です」
「は、はい」
ボーイに指名された旨を告げられた瞬間、緊張に早まっていた鼓動がどきりと一層大きく跳ねた。手の平に汗がじわじわと滲んでくる。
「じゃあ俺、行ってきます」
「おー、いってらー」
「がんばってねー」
今まで話していたカシアやモモ、シノが手を振って送り出してくれる。俺はそれに応え、高まった緊張に心臓をビクつかせながらも、キャストルームを区切るカーテンを潜った。
「お待たせ致しました」
「ナナさん!今日もよろしくお願いします!!」
笑うと幼くなる目をぎゅっと窄め、小さな口が嬉しさに三日月の形になる。ぱっと見は美少年なのだが、大人びた表情や言葉遣い、ふとした所作などに彼が少年ではないことが表されている。そして、目を引くのが右の目の下にあるホクロ。俺もち、乳首の下にあるホクロで大騒ぎをされるのだが、彼のホクロもとてつもない色気を放っており、怪しい気分にさせられてしまう。
Mっ気のある男の子――スルギ――と同じ店で働いている、M中のMとされているキャストであるのだが・・・・・・なぜか俺の前でだけ彼はSの女王様(?)と化してしまうのだ。
最初に指名されたときは、『うわっ、泣かせてみたい!』と思う系の可愛さで、あたふたとする彼を見ていると心がずくずく刺激された。しかし途中から雲行きが怪しくなってきたのだ。
手放しにこの褒められ免疫のない俺のことを褒めるもんだから、思わず赤面してしまった俺を見たときにスイッチが入ってしまったっぽいのだ。
彼の中の秘められしSのスイッチが・・・・・・!!
それから言葉で責められつつも順調にベッドまで誘い込まれ、気がついたときには女王様に射精許可を求める奴隷と化していたのである。皆まで言うな。ちょっとそこの君、哀れむでない。
気持ちよかったさ・・・・・・。なかなか射精をさせてもらえない絶望感と、一気に放出できる快感。それに、じわじわと与えられる羞恥心。
恥ずかしいって、気持ちいいんだね。初めて知ったよ。
まぁ、そんな経験をしても俺はいたってノーマルで、“そういうプレイ”もできるといった風に、経験値を得たわけである。俺、最強に近づいてね?
よし、こうなったらあらゆるプレイを完全制覇してやろっと。って、他にどんなプレイがあるか知らんが。
そうそう、一回目の指名でSに目覚めたフェリスさんなんだけど、それから道具を持ってくるようになったんですよ。拘束具一式に麻縄、目隠し、なんかトゲトゲのついた手袋、鞭・・・・・・とか。
それにそれらの道具にも幾つか種類があるらしく、『違い、教えてね?』と天使の笑顔で言ってくるのだ。
前回は猿ぐつわや手錠、足枷を付けられて、身体の自由が利かない状態で犯された(実際俺が犯していたのだが、気持ち的には犯された感が拭えない)。なんか、彼と会う日はいつも主従関係を結ばされているので、フェリスの指名の日は身体が“従”の状態になってしまっている気がする。
だから、指名された瞬間、俺の身体はまるで首輪を付けられたように主人の命令を聞く体勢になってしまっているのだ。
今日も、高いだろうに『上がり』までの時間を買い上げたフェリス。今は上の俺の部屋でベッドに並んで座っている。ごそごそと何かを鞄の中から取りだしているフェリスを横から見つめていると、目的のものを見つけたのか何かを持って振り返った。そして手を俺の目の前に差し出してくる。
「ナナさん、今日はコレ・・・・・・お願いします」
「ハイ、喜んで・・・・・・」
彼の細い手には、赤い縄が握られていた。
翌日、着替える際に自分の身体を見てびっくりする。手首にはくっきりと昨日の縄の後が残っていたからだ。皆にバレたらすごく心配されそうで、慌てて手首まで隠れる服を着た。
変化に聡いキャスト達の手前、隠した縄の痕はすぐにバレてしまい、店長を始めキャストのみんなにド心配をされてしまった。
特にシノなんかは血走った目で『誰にやられたの!!?俺がぶっ××してやるっ!!!』と叫んできたので、やや怖くてプレイの一環だと言い出すことができなかった。
だがその後きちんと合意の上であること、痕は残ってはいるが痛みはないことなどをちゃんと説明し、納得をしてもらった。
今ではシノはフェリスとも仲良しで、遂にはシノの隠された才能を見出し『carrot & stick』に勧誘されかけたのだが、店長と俺を含む皆が必死に引き留め危機一髪でシノを引き留めることができたのだった(90%がナナミの手柄、9%はみんな、店長1%)。
――フェリスの話:ナナミバージョン
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
326
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる