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【SS】田所青年の憂鬱
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この声、絶対男だろう。背もちょっとだけ俺より高いし喉仏あるし胸もないし!
ていうか誰? この超絶イケメンな外人さん? コスプレイヤー? どっちか分かんないけど、なんで俺の名前知ってんの???
俺の中で疑問符が渦巻き過ぎて声が出なかった。
エプロンしてるってことはもしやバイトか? アカリちゃん、なんちゅうクオリティのバイト入れてんの? ていうか俺、ロシア語はもちろん英語も話せないんだけど。
助けて、と思った瞬間、厨房の奥から勢いよく誰か飛び出してきた。
「あっ、すみません田所さん!」
「あ、アカリちゃん!」
救いの神が!
「この人誰? 新しいバイト? イケメン過ぎない?」
「え、えっと……」
思わず矢継ぎ早に聞いてしまってアカリちゃんを困らせてしまった。
「驚かせてしまってすみません。私はナフュールと申します。今日はアカリに無理を言って、店の手伝いをさせてもらったのですよ」
「えっ、あっ、日本語……上手っすね……」
どう見ても異国の顔から発される流ちょうな日本語にこっちが戸惑ってしまった。
「俺、田所伸也です。あ、名刺……」
「大丈夫です。名刺、多分分からないので」
名刺を渡そうとしたらアカリちゃんにやんわり止められた。そんなところは外人さんっぽいのか。今ひとつわからん。色んな衝撃が抜けきれなくて呆けたようにナフュールさんを見たら、視線を感じたのか彼が俺を見てにっこりと笑った。
美形が眩しい。
「タドコロサン、アカリがいつもお世話になっています」
「え、あ、いや。俺の方が世話になってる方なんで……っていうか、あれ?」
今、アカリがお世話になって……って言った? なにその身内感。いやいや、どう考えてもアカリちゃんと親戚とは思えないんだけど。
「ちょっと待って。ナフュールさんて、アカリちゃんとどういう関係……?」
恐る恐るアカリちゃんにそう尋ねた俺に、ナフュールさんの方から爆弾発言が飛び出した。
「私はアカリの伴侶です」
「はんりょ……伴侶って、あの伴侶!? えっ、旦那様ってこと!?」
「は、はい。まだ結婚してないですけど……近いうちに」
「えっ、もしかしてこの人、あの二度と会えないって言ってた人……?」
「なぜかその、会えちゃいまして」
アカリちゃんが真っ赤になってほっぺたを両手でおさえる。湯気が出そう。可愛い。
そして、そんなアカリちゃんを見つめるナフュールさんを見た瞬間、俺は悟った。
あ、こりゃ無理だわ……。
この神々しい美形に勝てる気がしない。
アカリちゃんは「何百回もフラれた」なんて言ってたけど、絶対に嘘だ。だってこのナフュールさんとやら、アカリちゃんを見る眼差しがもう、『好き』で溢れてるし。
愛おしそうに見つめる、ってこういう時に使うんだなぁ……なんて要らぬ発見をしてしまったじゃないか。
ちくしょう。相手が強すぎて悔しい気持ちすら浮かんでこないんだが。
「これからは時々こうしてお店の手伝いに立とうと思いますので、よろしくお願いします」
窓から差し込む朝日の中でにっこり微笑むナフュールさんは、プラチナ色の髪がきらきらと煌めいて神々しい美しさだ。
もう人外だろう、これ。
「よろしく……」
毒気も抜かれて、俺はすごすごといつものテーブルにつく。
ちぇ、絶対に俺の方がお似合いだと思うのになぁ。
悔し紛れにそう思ってみたけれど、アカリちゃんはまだ頬が熱いのか両手で頬っぺたをおさえたまま逃げるように厨房に戻っていって……その後ろ姿を見ていたら、なんだかこれでいいような気がしてきた。
この前はアカリちゃん、あいつの話をしてた時、すごく寂しそうだった。今のアカリちゃんはこっちが照れるくらいに幸せそうだ。
そう、きっと、これで良かった。
「良かったね、アカリちゃん」
アカリちゃんが運んできてくれた朝食のプレートを、俺はなんとか笑顔で受け取った。
終
ていうか誰? この超絶イケメンな外人さん? コスプレイヤー? どっちか分かんないけど、なんで俺の名前知ってんの???
俺の中で疑問符が渦巻き過ぎて声が出なかった。
エプロンしてるってことはもしやバイトか? アカリちゃん、なんちゅうクオリティのバイト入れてんの? ていうか俺、ロシア語はもちろん英語も話せないんだけど。
助けて、と思った瞬間、厨房の奥から勢いよく誰か飛び出してきた。
「あっ、すみません田所さん!」
「あ、アカリちゃん!」
救いの神が!
「この人誰? 新しいバイト? イケメン過ぎない?」
「え、えっと……」
思わず矢継ぎ早に聞いてしまってアカリちゃんを困らせてしまった。
「驚かせてしまってすみません。私はナフュールと申します。今日はアカリに無理を言って、店の手伝いをさせてもらったのですよ」
「えっ、あっ、日本語……上手っすね……」
どう見ても異国の顔から発される流ちょうな日本語にこっちが戸惑ってしまった。
「俺、田所伸也です。あ、名刺……」
「大丈夫です。名刺、多分分からないので」
名刺を渡そうとしたらアカリちゃんにやんわり止められた。そんなところは外人さんっぽいのか。今ひとつわからん。色んな衝撃が抜けきれなくて呆けたようにナフュールさんを見たら、視線を感じたのか彼が俺を見てにっこりと笑った。
美形が眩しい。
「タドコロサン、アカリがいつもお世話になっています」
「え、あ、いや。俺の方が世話になってる方なんで……っていうか、あれ?」
今、アカリがお世話になって……って言った? なにその身内感。いやいや、どう考えてもアカリちゃんと親戚とは思えないんだけど。
「ちょっと待って。ナフュールさんて、アカリちゃんとどういう関係……?」
恐る恐るアカリちゃんにそう尋ねた俺に、ナフュールさんの方から爆弾発言が飛び出した。
「私はアカリの伴侶です」
「はんりょ……伴侶って、あの伴侶!? えっ、旦那様ってこと!?」
「は、はい。まだ結婚してないですけど……近いうちに」
「えっ、もしかしてこの人、あの二度と会えないって言ってた人……?」
「なぜかその、会えちゃいまして」
アカリちゃんが真っ赤になってほっぺたを両手でおさえる。湯気が出そう。可愛い。
そして、そんなアカリちゃんを見つめるナフュールさんを見た瞬間、俺は悟った。
あ、こりゃ無理だわ……。
この神々しい美形に勝てる気がしない。
アカリちゃんは「何百回もフラれた」なんて言ってたけど、絶対に嘘だ。だってこのナフュールさんとやら、アカリちゃんを見る眼差しがもう、『好き』で溢れてるし。
愛おしそうに見つめる、ってこういう時に使うんだなぁ……なんて要らぬ発見をしてしまったじゃないか。
ちくしょう。相手が強すぎて悔しい気持ちすら浮かんでこないんだが。
「これからは時々こうしてお店の手伝いに立とうと思いますので、よろしくお願いします」
窓から差し込む朝日の中でにっこり微笑むナフュールさんは、プラチナ色の髪がきらきらと煌めいて神々しい美しさだ。
もう人外だろう、これ。
「よろしく……」
毒気も抜かれて、俺はすごすごといつものテーブルにつく。
ちぇ、絶対に俺の方がお似合いだと思うのになぁ。
悔し紛れにそう思ってみたけれど、アカリちゃんはまだ頬が熱いのか両手で頬っぺたをおさえたまま逃げるように厨房に戻っていって……その後ろ姿を見ていたら、なんだかこれでいいような気がしてきた。
この前はアカリちゃん、あいつの話をしてた時、すごく寂しそうだった。今のアカリちゃんはこっちが照れるくらいに幸せそうだ。
そう、きっと、これで良かった。
「良かったね、アカリちゃん」
アカリちゃんが運んできてくれた朝食のプレートを、俺はなんとか笑顔で受け取った。
終
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